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でも絶対に泣きたくなかった私は、ぐっと唇を噛み我慢し、テーブルにあった紙ナプキンを取ろうと顔を上げるたのだが、それと同時にふと私に影がかかった。
店員さんがコーヒーを持って来てくれたのかと思い、顔を上げると、そこには先ほどまで外で悠生さんといたはずの煌大がいた。

「え、なんで!?」

私は驚きのあまり、出かけた涙も引っ込み、大きな声が出る。

「莉乃さんが見えたんで」

そう言うと、煌大は私の向かい側に座り、何事もないようにメニューを見始める。

え、なんで?悠生さんは!?

私はどこかに悠生さんが隠れているのではと思い、椅子から軽く腰を上げて見渡すが、カフェ内は私が入って来た時と変わらず、サラリーマンらしき人や女性たちで溢れている。
悠生さんがいればすぐに分かりそうだが、姿は見えない。

「どうしたんですか?」

私が不審な動きをしていたせいか、煌大が不思議そうに私を見て首を傾げている。

「あ、ううん…」

悠生さんは?
と聞ければいいのだが、何だか聞いちゃいけないような気もした。

私は上げた腰を下げ、気まずい空気を一人感じる。

「今日はまだお仕事中ですよね?どうしたんですか?」

「あ、外回りをしてて疲れたから帰る前に休憩しようと思って」

「お疲れ様です。…この後は?」

「この後は職場に戻って残りの仕事する感じかな」

「そうですか、この後デートでもって思ったんですけど、また今度ですね」

私が会社に戻るということを知って少し残念そうな表情を浮かべる煌大だが、私の頭の中にはハテナしか浮かばない。

今悠生さんと一緒にいたんじゃないの?
え、実はごまかすために分かっていて聞いてきたのか?

疑心暗鬼もいい所だが、さっきの様子を見て疑うなという方が無理だろう。

「そ、そうだね…」

本当はもうすぐ夕方ということもあり、カフェに入る前係長から直帰してもいいとは言われたのだが、帰る時に煌大が来るかもしれないと思い、会社に戻ることにしていたのだ。
だから、このまま直帰に変更しても問題はないのだが、それも言えない。

「…この時間だし、直帰してもいいんじゃないですか?」

「え?」

「だって他の人たち直帰してるの見たことありますよ」

煌大を見ると、またシュンとした可愛い子犬煌大が出ている。

くっ!その顔はやめて!

私は目を反らし、自分の気持ちが揺らがないよう必死に耐えるが、煌大がトントンとテーブルを叩き、こちらを見るよう催促してきた。

あんたは悠生さんがいるでしょ!!

今すぐ大きな声でそう叫べたらどれだけいいだろうか。

そもそも悠生さんがいるのに私のとこに来て何をしているんだ!

もう色んな感情が渦巻くなか、私が返事に困っていると、煌大は更に下から私を見上げるように上目遣いをしてきた。

絶対、この人分かっててやってる。
悠生さんと同じタイプだ。

私は根負けし、大きく溜息をつくと会社に電話し直帰の再許可を得た。
煌大は嬉しそうに少し笑うと、店員さんを呼び、コーラを頼み、鼻歌を歌い出す。

一体どういうつもりなのだろうか。

私は届いたコーヒーに口をつけながら、周囲を見渡す煌大をマジマジと見た。

「そういえばさっき悠生さんと会ったんですよね。そこの信号手前で」

「え?」

「なんか婚活で知り合った男性とデートだったとかで。うざかったんで、早く歩いてたんですけど、信号に捕まってなかなか逃げれませんでした。会社の人じゃなきゃフル無視なんですけどね」

「あ、そうなんだ」

悠生さんと一緒に今日過ごしたわけじゃないと分かり、ホッとしたのだがすぐにまた疑問が浮かぶ。
じゃあさっき信号で見せたあの優しい笑みは何なんだ。
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