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国民的アイドル!?いえいえ、ゆるキャラ大臣です。

13.国民的アイドル

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 わっと泣き崩れた美少女ことオリヴィエさんを前にしても、おじさんもおばさんも、もちろん隆兄ちゃんも顔色一つ変えない。
 
 まぁ確かにおじさんが【これより異を唱えるものは、王への反発とみなす】って言った途端、飛び出して来たけどね、この美少女さん。そりゃ私だって内心、今かよ!ってツッコミ入れてたよ。でもだからといって、これだけ大泣きしてるのに、無視はないでしょう。
 
 ちょいちょいと隆兄ちゃんの袖を掴んで、良いの?と小声で問うてみる。だが隆兄ちゃんは真っ直ぐ前を向いたまま、ふるふると首を高速に横に振った。私だけに伝わるその仕種は、王子様だから身につけたスキルなのか、長い付き合いだから感じ取れるものなのか微妙なところだ。
 と、どうでもいいことに気移りしていたら───

「以上だ」

 そう言って、おじさんとおばさんは席を立つ。おじさんとおばさんが席を立つことで、再びざわざわしたけれど、二人とも全く気にする様子もなく、すたすたとカーテンの奥に消えていってしまった。

 隆兄ちゃんも其れに倣い、私をカーテンの方向に振り向かせる。

「行くぞ」
「ちょ、待ってっ」
「いいから、行くぞっ」

 小声で引き留めてみるけど、駄目だった。
 隆兄ちゃんも私の肩を掴んで、引きずるように王座の広間を後にした。

 最後にちらっと、オリヴィエさんを見たら既に泣き止んでいた。しかも、化粧も全く崩れていない。美人は泣くときも綺麗にできるのか、それともさっきのは演技だったのか。そう思った瞬間、再び、オリヴィエさんと目があってしまった。
 さっきより、凄みが三割増しになった鬼の形相で睨まれ、私は心の中でこう呟いた。演技だったに1票!と。




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「いやー、水樹ちゃん、助かったよ。本当にありがとう」

 おじさんはそう言って、テーブルの上に両手を組んで、にこにこと私に笑いかける。

「ほんと、助かったわ。水樹ちゃん完璧だったわ」

 おばさんはそう言いながら、ポットを手にして人数分のお茶を淹れている。

「あー、肩こった。っていうか腹減ったな」

 隆兄ちゃんは、そうぼやきながら肩をに手を当て、ぐるぐると回している。


 場所は変わって、ここは王族だけが入れる皇の間と呼ばれるところ。
 ここは王族だけが使えるお部屋で、他の人は立ち入り禁止のプライベートルーム。プライベートルームっていってもさすがロイヤル……とんでもなく広い部屋だ。
 
 そして優美で植物の葉のような曲線を多用したロココ調っぽい家具に囲まれて、庶民の私には敷居が高すぎる部屋です。大変居心地が悪いです。

 そんなもじもじしている私と、西崎家のいつも通りの3人が猫足テープルを囲んでいる状況なのだ。

 ここがいつもの西崎家のリビングなら、ごく日常の光景でなんの違和感もない。でも、目の前の3人はまだしっかりコスプレ衣装のままで、ちゃんと王冠までかぶっている。ちなみに私は、即刻着替えた。だって、汚したりしたら弁償なんて出来ないし、何より動きづらい。

 色々聞きたいことが山積みの私は、おばさんが全員分のお茶を配り終えるのを待って口を開く。
  
「あのぉ……」

 おずおずと挙手をして、西崎家の全員に向かって質問する。

「フロイラって何ですか?」

 瞬間、西崎家の3人はお互いの顔を見合わせ、おずおずと口を開いた。

「てっきり、母さんか隆が、説明してるかと……」
「あら嫌だっ。てっきり隆が水樹ちゃんを迎えにいった時に説明していたかと……」
「俺、てっきり父さんがあの場でふわっと水樹に説明するもんだと……」

 ああ、3人そろってコスプレしてても、中身は変わらない。この【てっきり三重奏】は、西崎家のあるあるだ。そして3人同時に───

「水樹ちゃん、すまないね」
「水樹ちゃん、ごめんなさいね」
「水樹、悪りぃ、悪りぃ」

 と、謝罪の言葉を口にしてくれた。

 でも、ね。王冠かぶった3人からの謝罪を受ける人物は、Tシャツに短パン。そしてパイル地のパーカーを羽織った庶民姿の私。おまけに足元はダイエットスリッパだ。
 なんか私こそ、ロイヤルファミリーの皆様に謝っていただいて申し訳ありません!!

 さて、それからフロイラについて説明を受けた。
 ただ前回の西崎家のロイヤルストーリー同様、一つ疑問が解決すれば、また新たな疑問が浮かび上がるといった感じで、もぐら叩きのような質疑応答タイムに突入してしまったのだ。長い夜になりそうだ。

 ちなみに、フロイラというのは簡単に説明すると、そうだなぁ……国民的アイドルのようなものらしい。
 
 口にするのもおぞましいけれど、リデュースヴェンサルフィン国の国民的アイドルに私が選ばれたことになったのだ。後にリデュースヴェンサルフィン国の七不思議になることは間違いない。

 ただ、異世界の私に任命したということだから、それなりの理由があったというわけで、私の容姿で選ばれた訳ではないということは、追記させていただきたい。
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