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ゆるキャラ大臣奮闘しますっ

39.忍者遣いが現れました

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 ついさっき隆兄ちゃんが教えてくれたけど、円卓の間とは会議室みたいな所………らしい。

 でも学生の私にとって会議室なんて、一度も入ったことがない。学校で教室以外に入るのは、図書室とか音楽室とか理科室とか。あと入りたくないけど、追試の試験会場である生徒指導室。

 ぶっちゃけ会議室なんて大人の世界。テレビとかで、ちょいちょい目にするだけ。私の乏しい知識では、コの字型の机を挟んで、ああだこうだと意見を出し合う場所っていう認識しか持っていない。

 というわけで、わかることといえば、会議のお作法なんて知らない女子高生がまかり間違っても立ち入って良い場所ではないということだけ。

 でも、隆兄ちゃんは私の手を握ったまま、円卓の間と呼ばれる扉の前で足を止めてしまった。そして、衛兵さんに扉を開けろと命じる。

 ちなみにこの扉、ガチャリと片手で開けれるような、ちゃちなドアではない。ギギッー、ズズッーなんていう擬音がぴったりな重厚な木目の扉なのだ。空手家の人でも割れないと思う。

 そして、隆兄ちゃんの伸長より遥かに高く、私達3人が横並びをしてもまだまだ余裕があるそれが開けば、そこにはコスプレ集団………じゃなっくって、お城の何か良くわからないお偉いさん達が一斉にこちらを見た。

 想像して欲しい。さながら重役会議のような重々しい雰囲気の中に、足を踏み入れてしまった女子高生の心境を。
 
 もう突き刺さるような視線を受けて、居たたまれない。なんかごめんなさいと言って、今すぐ回れ右をしたくなる。っていうか、もう踵は反転しようと浮いている。が、目ざとい隆兄ちゃんは、それをすでに察知していて、ぐっと繋いでいた手を引き、私を前面に押し出した。

「王、遅くなりました。今より、私も議会に参加いたします。フロイラと共に」

 抑揚のない声で隆兄ちゃんそう言ったと同時に、王様仕様のおじさんは鷹揚に頷いた。
 
 瞬間、ざわざわと声なき声が聞こえてくる。個人的には、普段の二人のやり取りを目にしているので、違和感ありすぎというか、小芝居を見ているようで、別の意味でざわざわとする。

「水樹、行くぞ」

 隆兄ちゃんは、ギャラリーのざわめきなどまるで目に入ってないかのように、私の背を押しながら王様の隣に腰かけた。

 ちなみに隆兄ちゃんの席は予め用意されていたけれど、私の分はなかった。というわけで、部屋の隅に控えていた衛兵さんっぽい人が慌てて椅子を運んでくる。

 そして無理矢理、隆兄ちゃんの横にねじ込んでくれたせいで、すぐ隣の人は否が応でも横にずれる結果となり、椅子をずらす音がエコーのように部屋に響く。なんか、皆さんごめんなさい。

 ちなみに、説明が遅くなったけれど、この会議室のテーブルは、中華料理屋さんのテーブルみたいに丸い。そして、着席した途端、回るか回らないかを確認したら、すかさず隆兄ちゃんから『こらっ』と叱られた。けれど、絶対に私に非はないと思う。日本人なら誰だってやりたくなると思うよこれ。

 あと余談だけど、回らない中華料理屋のテーブルを見た途端、今日の夕飯が唐揚げだったことを再び思い出してしまった。随分と余裕こいてるな、などと思わないで欲しい。だって私は、お弁当を食べた記憶がないのだ。そして、急に空腹感を感じた私は、慌ててお腹を押さえた。こんなところで、お腹が鳴ったらさすがに恥ずかしい。

 という、緊張感皆無なことを考えながらも、ぐるりと辺りを見渡す。着席している人をこっそり数えてみれば、全部で18人。多いねー。あ、自分も入れたら19人。………ちがう。でっぷりと太ったおじさんの影に隠れて見えなかったけれど、オリヴィエもいる。ってことは全部で20人。

 そして、よくよく見ればでっぷりと太ったおじさん、私見たことある。王様が私をフロイラにすると宣言したとき、ちょっと待ったと飛び出してきた人だ。

 あの時は、王様と王妃様のネーミングがツボに入って笑うのを堪えるのに必死だったけれど、軽くディスられたことは忘れていない。

 言っておくけれど、私は馬鹿だが、隆兄ちゃんに可愛いと言ってもらえるくらいのレベルだ。ブスではない…………多分。

「水樹、何でもないって顔をしろ。笑っとけ」

 知らず知らずのうちに、しかめっ面になってしまっていたのだろう。隆兄ちゃんが私だけに聞こえる声でそう囁いた。でも、超至近距離で囁かれた結果、隆兄ちゃんの息が私の耳に当たり、妙にドキドキしてしまう。

 一気にしかめっ面から、乙女モードにチェンジした私は、ちょっと俯いてもじもじとしてしまう。後ろからレイムさんが鼻で笑ったけれど、ここは無視してあげよう。でも後で覚えとけ。

 そんなことを考えていれば、いつの間にか部屋はしんと静まり返っていた。呼吸をするのも躊躇うくらいに。でも結局、ごくりと唾を飲んだ瞬間、王様の対面にいる細身のおじさんが徐に立ち上がった。

「それでは全員お集りのようですので、始めさせていただきます」

 細身のおじさんはどうやら司会進行役のようだった。何となく授業のノリでお辞儀をしたらスルーされてしまってちょっと悲しい。

 あと『全員』のところで、私に視線が一斉に向けられる。知ってる!これって『招かざる客』ってやつでしょ?でも、私だって押し掛けたつもりはない。押された感はあるけれど。

 さすがにむっとしてしまった私だったけれど、司会者の手にしたものに釘付けになってしまった。

 なにせ司会者のおじさん、所謂、巻物というヤツを持っていたのだ。口にくわえて、人差し指を立てたらきっとドロンができるかもしれないアレ。

 どうやら、この世界には、日本では絶滅危惧種になった忍者が現存してるみたい。すごいね!ちょっと消えてみて。

 そんな期待を込めて司会者をがっつり見たけれど、私の期待に反して、それはテーブルに置かれてしまった。そして司会者のおじさんはおもむろに、巻物を閉じてある紐を引っ張りながら、王様に向かって転がした。

 くるくるくるくるくるくるくるくるくるくるぅぅぅぅ………。

 直径でも西崎家の食卓テーブルの2倍以上ある大きなテーブルに広げられた巻物には、さながらオシャンティーなテーブルクロスに早変わりした。でも、良く見たら何やら難しい言葉がぎっしりと並んでいた。見た途端、勉強の匂いがして気持ち悪くなる。

 思わずうっと手を口元に覆った私だったけれど、そんなことは些細なことのようで、突然、でっぷり太ったおっさんが立ち上がったと思ったら、声高々に演説を始めてしまった。

「チェコノア、イスガ トゥンズ、ラシタァ、我ら上位貴族は、サルフィン法に則り、異議申し立てを致します。これは、その上申書及び、賛同者の署名となります。ご確認お願いします」

 ええええっ!?チェコのアイスがとんずらした!?

 それ一大事じゃん。これからの季節アイス大事だよ?特にお風呂上りには。

 ………って、多分違うよね。このクソ長い巻物に、本気でチェコのアイスが逃げたことが書かれていたら、ぶっちゃけ引く。

 でも、探すのは手伝ってあげたい。あと、ちょっと食べてみたい。一口で良いから。
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