身代わり王女の受難~死に損なったら、イケメン屋敷のメイドになりました~

茂栖 もす

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季節外れのリュシオル

スミレから始まる強制尋問③

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 わざわざ前置きする程の質問とはどんなものだろうと、視線を彷徨わせながら身構える私に、ケイノフはコホンと小さく咳ばらいをして口を開いた。

「スラリス、言いずらいかもしれませんが、今でもあなたは主のことを────」
「あ、はい好きですよ」

 なんだそんなことか。あっさりと想いを認めた私に、ケイノフとダーナは揃って目を丸くした。

 これは私がレナザードへの想いをあっさり認めたことに驚いているのか、それとも嘘つきの私が自分の主に好意を持っていることに対して図々しいと思っているのか、二人の表情からは読み取れない。

 どちらにしても、私は好き好き大好きと公言するつもりはないけれど、レナザードへの想いを隠そうとは思っていない。まぁ本人以外にはという前置きが必要になるけれど。

 というか、ここにいる全員に想いを隠してレナザードを想い続けるなんて器用なことは、私には到底不可能なこと。でも────。

「お願いです。レナザードさまには内緒にして下さい」

 後生ですからと懇願という名で隠して、釘をさすことは忘れない。
 周りには隠さないけど、本人には知られたくないなんてムシの良い話かもしれないけれど、やっぱりそれはそれ、これはこれということで。

「了解しました」
「おっけー」
 
 さすがに女の子の恋愛事情だけあって、今回は二人ともすぐに頷いてくれた。

 ああ良かったと胸を撫で下ろす私だったけれど、やはりそれでは済まされず、次の瞬間、別の質問が飛んできた。

「スラリス、あなたはそれで良いのですか?」

 少し不憫な色を滲ませながら問うたケイノフに、私は即座に頷いた。

「あ、はい。それで良いんです。別にレナザードさまに振り向いて欲しいなんて思ってないですし、私が勝手に好きでいるだけですから」

 そう言い切った私に、ケイノフとダーナは信じられないというように驚愕した表情を見せた。そして一歩私に踏み込みながら、どうして?と目で問うてくる。4つの目に追い込まれ私は逃げられないと悟り、しぶしぶながら自分の胸の内を言葉にした。

「この好きっていう気持ちは、どうしたって消すことができないです。そして、私がレナザードさまを、ひどく傷付けてしまったという事実も消すことができません。だから私がどんなに好きでも、レナザードさまはそれに応えてくれることは、多分……一生、どんなことがあってもありえません」

 言葉にしてみると、やっぱり胸が痛い。別の痛みで誤魔化すように唇を強く噛みしめた私に、ケイノフから再び質問される。

「とどのつまり……スラリス、あなたはこれからも叶わない恋を続けていく、ということですか?」

 身も蓋もない言い方だ。でも、その通りだ。

「はい、そうです。でも恋をするってどういうものか私、いまいち良くわからないのですが、これからレナザードさまの為に何かできることを探していきたいって思ってます。贖罪の為とかじゃなく、自分がそうしたいって思ってるんです」

 口に出してしまえば、そっかそうなんだとストンと胸に落ちる。
 嫌われたくないから、怖いからと言ってずっとレナザードに対して二の足を踏んでいたのは、この特別な想いを断ち切らないといけないと自分に無理矢理言い聞かせていたせいなのだ。

 開き直るつもりはないけれど、私はレナザードのことが今でも好きだ。恋とか愛とかは一旦置いといて、彼の役に立つ存在になれたら良いなと素直に思っている。我儘を言うなら、いつか彼に必要とされる自分になりたい。 

 ……ただ今すぐ私がレナザードの為にできることは、彼の視界に入らないようにすることしか思い浮かばないのがとてつもなく残念だけれど。

 唯一できることがこれとはなかなか手厳しいなと思いながら、しゅんと肩を落としてしまう。そんな私の肩にケイノフはそっと手を置いた。

「わかりました、スラリス。主には絶対に言いません」

 ケイノフはそう言ってくれた。ほっとして顔を上げた途端、何故かケイノフは自分の人差し指を私の唇に押し当てた。

「これは私達だけの内緒にしておきますね」

 そうはっきりと断言してくれたのはいいけれど、ケイノフの人差し指はまだ私の唇に触れたままだ。口を開いたらそのままケイノフの指を咥えてしまいそうで迂闊に声を出すこともできない。

 さて、困った……どうしよう。
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