身代わり王女の受難~死に損なったら、イケメン屋敷のメイドになりました~

茂栖 もす

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閑話というか、架け橋というか…………

過去と未来を繋ぐ光の道標①

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 はらはらと光の花びらが舞う中、私達は屋敷………とはもう言えない残骸を通り抜けて、多分、裏口と思われる場所に移動した。

「ケイノフ路を創れ」
「御意に」

 短いやり取りは、すぐそばで聞いていてもさっぱりわからない。けれど、私以外の全員は、ちゃんと理解しているようだった。

「コトノハ、お願いできるかな?」
「もちろんよ、ケイノフ。今日の言霊は何にするの?」

 ふわふわと頭上と飛んでいたコトノハは、差し出されたケイノフの手に、自分の指を絡めながら小首を傾げた。その仕草はとっても可憐で可愛い。思わず、笑みがこぼれてしまう。けれど、次に出たケイノフの言葉に私は固まってしまった。

「そうですね…………【降ろさない】で、お願いしようかな」
「…………ふふっ。今日は一段と素敵ね、ケイノフ。じゃあ、ちょっと待っててね」

『…………』の間に、ぬるぅっとした笑みと意味ありげな視線を私に向けた二人は、そのまま裏口を出て、何か難しい言葉を呟いている。そして、紡がれる言葉が光の筋となって、遥か彼方まで道を伸ばしていく。とっても摩訶不思議だけれど、綺麗なので良しとしよう。…………でも、ちょっと良しとできないこともある。

「レナザードさま、あの………質問しても良いでしょうか?」

 首を捻って見上げれば、朝焼け雲の色をした瞳と髪を持つ私の大好きな人は、柔らかい眼差しをこちらに向けてくれた。それだけで、くらりとめまいを覚えてしまう。

 けれど、今は胸をキュンキュンさせている場合じゃない。だって、このままだと私はキャパオーバーで死んでしまうかもしれないから。

「あのですね。今、ケイノフさんが仰った【降ろさない】というのは、誰に向けてのものなのでしょうか」
「俺だ」

 あっさり答えてくれたレナザードは、今度はとろけるような笑みを浮かべてくれた。

 それが私に向けてのものなのは、有難いし、嬉しい。というか、幸せすぎて、のぼせてしまいそうだ。…………いやいや、違う。今は、本当にときめいている場合じゃない。

「つまり、私はずっとこのままなのでしょうか?」

 恐る恐る問いかけた私に、後ろから、ぶはっと豪快に噴き出す声が聞こえて来た。そしてその後、空気を震わすような大爆笑が空に響く。そこに視線を向けなくてもわかる。間違いなくダーナが腹を抱えて笑っているのだろう。一体、何がそんなに面白いんだか。

 あと、良く見れば噴き出したのはダーナだけだったけれど、私以外の全員が笑いをこらえるために、口元を歪めていた。仲間はずれ、駄目、絶対!
 
 そして思わずレナザードをジト目で睨もうと思ったけれど、どうせまた彼に見つめられれば胸はキュンキュン、頭は真っ白になるので、再び視線を前に向ける。
 
 キラキラと光の破片が降り注ぐこの道は、ケイノフが施した結界。そして、この道を通る者は言魂で縛られる。という話を昨晩聞いた。ここには居ないユズリから。

 つまりユズリからの説明とこの状況を考えると、この縛りに当てはまる人物は二人しかいない。そして、私はその中の一人…………の、ようだ。

 正直言ってそれはご遠慮願いたいので、何とかやり直しをお願いできないだろか。でも、そんなわがままを言っても良いのだろうか。

 そんなことを考えながら、うんうんと唸り始めた私だったけれど、視線を感じて見上げれば、呆れ顔のレナザードがいた。

 そして、彼はきっぱりとこう言った。

「スラリス、何をたわけたことを聞くんだ。お前は、俺がずっと抱いていく」

 えー……という、不満を口にすることはしない。でも、道中ずっとレナザードにこうして抱かれたままでいるのは、心臓が持たないし、彼だって腕力が持たないだろう。

 なにせ彼は昨晩、私の国を滅ぼしたバイドライル国の軍勢と多勢に無勢の状況で交戦して、かつ、ユズリとの兄弟喧嘩まで繰り広げたのだ。まぁ、兄弟喧嘩という表現は、本当はちょっとちがうけれど、色々ややこしいので、無難な表現を使うことは許して欲しい。

 と、そんなことがあって彼は間違いなく疲れているはずなのだ。しかも、昨日まで瀕死の重傷を負っていた身なのだ。もう傷は癒えたと言ったけれど、実は私、ちょっぴり疑っていたりする。

 そういう訳で、本来ならば私のほうが彼を気遣うべきだし、そうじゃなくても、そうしたい。

「レナザードさま、そのお気持ちだけ受け取ります。ありがとうございます。嬉しいです。でも、私、歩かせていただきます」

 どう言えば彼に伝わるか散々悩んだ挙句、結局、結論だけを口にした私に、レナザードはちょっと不機嫌な顔になった。

「スラリス、なぜそんなに嫌がるんだ?」

 誰が離すものかと、ぐっと両腕に力を入れるレナザードに、再び嬉しく思ってしまうけれど、彼が倒れてしまったら元も子もない。

「嫌じゃないです。でも…………」
「でも?」
「私、重いですよ?レナザードさまの腕が疲れてしまいます」

 瞬間、レナザードは弾かれたように声を上げて笑った。彼の笑いのツボがわからない。

「いつもいつも、お前には驚かされるが、今日もまた驚かされてしまったな」
「え?」

 間の抜けた声しか出せない私に、レナザードは私を抱いたまま軽く揺すった。

「見くびるなよ、スラリス。お前を抱いたところで、俺の腕は疲れない。というより、お前は痩せすぎだ。こんなに軽くては抱き甲斐も無い」

 そう言ってレナザードは、私の耳元に唇を寄せた。近づく彼の首筋から、彼だけの香りが鼻孔をくすぐる。どうしよう心臓の鼓動がうるさくて、他の人に聞かれてしまうのではないか心配だ。

 そんなあたふたとする私を知ってか知らずか、レナザードは甘く低い声でこう囁いた。

「それに、散々焦らされたんだ。お前をもっと感じていたんだ」

 熱い吐息と共に吐き出された言葉はもっと熱くて、私はくにゃりと身体から力が抜けてしまう。ちなみに心臓は臨終間近だと、悲鳴をあげている。

 そんな私を見て、観念したのだと都合の良い解釈したレナザードは、私以外の全員に声を掛けた。

「行くぞ」

 はっと短い返事をした彼らは、しっかりとした足取りで光の道へと足を踏み入れた。
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