勇者の末裔である私は、恋する心を捨てました。

茂栖 もす

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旅の再開

嘘つきの私に優しさは不要です①

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 まったくもって、古今東西どの世界でも恋とははままらないものだ。

 以前あれほど、あなたから好きだという言葉を欲しかったというのに、なかなかもらえることができなくて。

 そして今は、そんな言葉求めていないというのに、好きという言葉を押し付けられて。

 何より不如意なのは、恐れ多いことに私はあなたから2回も好きという言葉を貰ったのに、それを笑顔で受け取ることができなかったこと。

 それが悔しくて、遣る瀬無くて、涙が止まらなかった。

 それでも私は、あなたのマントにくるまって、両手で口元を押さえなが嗚咽を堪える。私の嗚咽があなたのところまで聞こえないように。

 そしてあの叩きつける雨の中、2度と目を開けてくれなかったあなたの顔が何度も蘇って、私は泣いて泣いて……泣き疲れて眠りに落ちた。
 

 

 翌朝、私は頬にあたるマリモのしっぽがくすぐったくて目を覚ました。

 目を開けてもマリモのしっぽが、ふっさふっさと左右に揺れている。なかなか斬新な起こし方だ。思わず笑ってしまった。

 あと、うっかりそこに顔を向けたら、鼻先をくすぐられる結果となり、豪快にくしゃみをしてしまった。

 その結果、マリモの立派なしっぽに私の色んなものが飛んでしまって、ジト目で睨まれてしまった。けれど、これは致し方なかったことなので、無視させてもらおう。

 そう勝手に結論付けた私は、マリモを抱いて洞穴の外に出た。

「……あ」 
「おはようございます」

 一歩外に出れば、朝食の支度をしているあなたが、すぐさまさわやかな挨拶をかましてくれた。

 そこには気まずさは何一つ感じられなかった。

 本来ならそこに何かしらの感情を持つべきなのだろうけれど、それよりも私は気になることがある。

「……これ、なんですか?」
「ニューバです」
「にゅーば」

 思わずサルサの音楽が聞こえてきたけれど、多分違う。いや、絶対に違う。っていうか、そもそも、目の前の不思議なものは国ではなく動物だ。

 カモシカのような赤茶色の毛並み。でもそれより一回り大きい。そして立派な2本の角は緩やかな曲線を描いている。
 
 しっぽは短くて、それがピコピコと動いてかなり可愛い。ついでに言うとお尻の部分の毛は白い。これまた可愛い。

「気立ての優しい生き物です。なぜかマリモを気に入ってしまったようで、ここから離れないのです。もともと飼いならすことができる動物なので、試しに背に乗せてもらったところ、大人しく従ってくれるので、これに乗って皆に追いつこうと思っております」
「……うん」

 つらつらと澱みのない説明を受け、私は一先ず新しい仲間ができたということだけは理解した。あと、マリモの立ち位置がまた上がったことも。

 後半の部分は、さらりと流して、ニューバの元に近づく。

 そして、名前はやっぱり、ヤックルかな?などとも考える。……権利的な問題で駄目だと思うけど。

 それから、そぉっと手を伸ばして、ニューバの背に触れてみる。予想以上にもふもふの毛並みで、きゅんと胸が躍る。

 そして、くりくりのお目々も、かなり好き。いや、大好き。仲良くしようね。

 そんな気持ちでわしゃわしゃ背中を撫でていても、ニューバは嫌がることはしない。

 そしてもふもふスイッチが入った私は、どんどん撫で方が豪快になっていった。けれど、背後から声を掛けられ、ピタリとその手が止まる。

「姫さま、あちらに小川があります。……良ければお使いください」

 どうやら、カーディルは遠回しに顔を洗ってこいと言っているようなので、素直に差し出された手拭いを受け取って、小川に向かった。けれども………。

「ヤバ……マジで……ヤバいわこれ」 

 水面に映る自分の顔を見て、愕然としてしまった。

 だって、私の目、まるで失敗したアイプチのようだった……。自分で引いてしまう。

 何度も言ってしまうけど、元の姿に戻った私は、かなりの美人さんなのだ。可憐という言葉が似あう美少女なのだ。

 でもね、パンパンに腫れた目になると、やっぱりそうはいかない。

 ニューバを撫で繰り回して上がったテンションはガタ落ちだ。そして、慌てて目元のむくみを取るマッサージをする。

 ……その結果、私の目は見事に整形手術に失敗した顔になった。そして、諦めることにした。

 それからすぐ、重い足取りでカーディルの元に戻ればすでに朝食が用意されていた。

「簡単なものですが用意させていただきました。どうぞ召し上がってください」
「……はい」

 地面にテーブル代わりの布を引いて並べられていたのは、日持ちのするパンと簡素なスープにお茶。それと、マリモの為の木の実と果物。

 ちなみに果物は既に皮をむいて、一口サイズに切ってある。カーディルは女子力も高いようだ。私はここまではできない。

 というか、以前、一度ナイフで指を切ってから、私は朝食は出来上がったものを並べる係に任命されてしまった。今度は、そうならないよう頑張ろうと心の中で誓う。

「……いただきます」

 目線だけで促され、私は地べたに座って、あなたと並んで朝食を食べ始めた。

 澄んだ青空の下、木々の隙間から流れる心地よい風を受け、この光景は、さながらピクニックのようだった。
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