勇者の末裔である私は、恋する心を捨てました。

茂栖 もす

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運命の分岐

村に到着しました

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 ニューバの乗り心地は、鞍がなくても大変快適だった。

 そもそも、もっふもふの柔らかい毛で覆われているので長時間乗っていてもお尻は痛くないし、あまり揺れを感じない。

 後者は多分、カーディルのおかげ。足場の悪いところを細心の注意を払いながら避けてくれるし、急ぐと言いつつもあまり速度をあげないから。

 そして、こまめな休憩も挟んでくれる。

 道中カーディルから聞いた話なのだけれど、ニューバはとってもスタミナがある動物なので、夜通し駆けても疲れないそうだ。だから、休憩をとるのはもっぱら私のため。

 それは、少々……いや、かなり申し訳ない。

 だって、この移動で頑張っているのはニューバと、ニューバを御するカーディルなのだ。

 私とマリモは何一つ頑張っていない。いや、ニューバを手懐けたマリモは少し頑張ったと言える。

 つまり頑張っていないのは、私だけとなる。そんな私の為に休憩を取るのは申し訳ないし、おかしい。……けれど私の主張は悲しい程に聞き入れてもらえなかった。

 しかも休憩を断るたびに、カーディルが悲しい表情を浮かべるのだ。これはかなりキツイ。結局、私はとてもとても不本意だけれど、甘やかされてしまったのであった。

 ───ということはあったけれど、その日の夕方には無事に皆と合流することができた。
 





 さてロールプレイングゲームだと村人から情報収集した後、装備を整えて、好き勝手に塔や洞窟に攻略に行くことができる。

 でも実際はそうもいかない。

 なにせ国宝とまではいかないけれど、初代の勇者の遺品が眠っている場所なのだ。うっかり、盗まれてしまったら一大事。

 だから洞窟に続く道には厳しい監視の目がある。知らなくて、うっかり洞窟に入ろうものなら、自警団からお縄を頂戴するハメになってしまうのだ。

 ただ聖騎士は国内全ての遺跡に踏み入れることができる権限を持っている。しかも団長ならば、超が付くほど話が早い。

 ……というのが、以前覚えている知識だったけれど、今回もそれは同じだったようだ。



 2回野宿をした後、私達は無事にリーシャン村に到着した。

 そして、村に入ってすぐ洞窟に入る許可を取るため、村長のご自宅にお邪魔する。

「暁の洞窟に立ち入る許可を頂きに参りました。これは聖騎士団の紋章です。どうぞご確認ください」
「それでは、失礼します。───……はい。間違いなく、紋章です。では洞窟の立ち入りを許可します」
「ありがとうございます」

 ……なんだかんだと長話になるかと思いきや、5秒であっさりと終わってしまった。そして、玄関での立ち話で終了。 

 さすが、聖騎士団の団長様。いつも懐に入れている紋章は、どこぞのご隠居の印籠並みのパワーがあるようだ。

 と、どうでも良いことを頭の隅で思っていたけれど、村長とカーディルの会話が終わった瞬間、私はぐいっと割り込みをする。

「あのぉー…洞窟に保管されている鍵はどこにあるんですか?」

 突然だけれど、以前、私は身分を隠して旅をしていた。そして、多分だけれど、今も同じだろう。

 ということで、突然、会話に割って入ってきた小娘をみた村長は、ちょっとばかし眉間に皺を刻みながら口を開く。

「あ、ええっと……まっすぐ進んでいただければございます。ただ、ここ数ヶ月は魔物が洞窟に出現するので…」
「ので?」
「………申し訳ありません。きちんと確認できていない状態です。お許しください」

 村長はそっと私から……ではなく、カーディルから目を逸らした。

 ここでやっと、私の背後にいるカーディルが厳しい表情をしていることに気付く。

「魔物に鍵を盗まれたということは?」

 ついさっきまで紳士的な態度を取っていたカーディルだったけれど、その口調は、村長を責めるものだった。

 村長があらぬ方に視線を泳がせたのは一瞬で、すぐさま口を開く。

「……いえそれはっ。鍵が封印されている扉には強い結界が張られております。それに万が一、そのような場合は、例えこの村に居ても異変に気付くことができます。誓って、そのようなことはございませんっ。どうぞご安心ください」

 なにが安心だ。実はこの村長、以前も同じような言葉を吐きやがった。

 そしてその言葉を鵜呑みにして、どんな結果になったのか私はちゃんと覚えている。

 そして、聞かれなければ誤魔化しちゃえ的な感じで適当なことをのたまう村長にイライラが募る。

「魔物が出現するって言ってますが、具体的にどんなヤツですか?」
「へ?え、えっと………」

 再び割って入った私に、村長は露骨に面倒くさい顔をする。そして、あろうことか、おとぼけで、逃げようとする。冗談じゃない。

 私は更に追及する。

「例えば、牙があったとか、鋭い爪を持っていたとか、全身が黒い毛でおおわれていたとか……」
「いや、ちょっと、そう言われましても………」
「魔物を見たんでしょ?村長さんじゃわからないなら、見た人を呼んで───」
「お嬢ちゃん」

 強く肩を掴まれ、驚いて振り返ると苦笑を浮かべるクウエットがいた。

 もっと後ろには、戸惑いと困った表情をないまぜにしたリジェンテとファレンセガがいた。

 そこではっと気づく。きっと私の今の行動は、もう一人の私とは大きく逸脱したものだっということを。

 ついさっきまで、鼻息荒く村長に詰め寄っていた私だけれど、それに気付いた途端、まごついてしまう。

 そんな私にクウエットは、明るい口調でこう言った。

「お嬢ちゃん、そう村長を困らすな。それに、そんなに気負わなくっても大丈夫だ」
「……」

 クウエット、あなたそれ、以前も洞窟に入る前に同じこと言ったんだけど……。

 そして、そのまま洞窟で命を落としたんだけど。

 でもって、私、そんなふうに絶対になって欲しくないから、貰えるだけの情報はがっつり、しっかり、カツアゲ上等の精神で聞き込みしているんだけど、わかる?

 ……うん、わかるわけないよね。それに私も言えないし。

 ただ、不満を隠すことはできないので、私はきっととっても不機嫌な顔をしているだろう。

 そんな私とクウエットを交互を見て、カーディルは小さく息を吐く。ただ、村長はここぞとばかりに口を開いた。

「では洞窟についてのお話は、この辺で終わりということで。さて、もう夕方です。本日はこちらで、宿を用意させていただきます。どうぞ、そちらでお休みください。あと、ささやかではありますが、夕食もご用意させていただきます」

 そう一気に言い切って、そそくさと使用人を呼ぶために村長は奥に消えてしまった。

 その姿を見て、私は、こいつ逃げたな。と心の中で悪態を付くと同時に、日本にいた悪いお偉いさんの後ろ姿をなぜか思い出してしまった。
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