勇者の末裔である私は、恋する心を捨てました。

茂栖 もす

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旅の再開

魔力と武器②

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 マリモのリアクションに地味に傷付いた私だったけれど、すぐに、あっと短く声を上げた。───暖かい風が吹いたと思ったら、突然、リベリオが姿を現したのだ。

【久しぶり。元気してた?】
「お久しぶりです。そこそこに元気ですよ」

 本日のリベリオは半透明で登場だ。

 ちなみに甲冑姿でもなければ、運命の回廊にいた時のコスプレとウォレットチェーンのコラボスタイルでもない。ゆったりとした貴族の部屋着のような格好だ。この人、幽体のくせに意外と、おしゃれさんなのだろうか。

 そんなふうに、こっそりファッションチェックをしている私だったけれど、リベリオは人の顔を見た途端、深々と溜息をついた。

【まったく困った子ね。1か月ゆっくり魂を馴染ませようとしたのに、たった10日とちょっとで出発だなんて………。せっかちな性格なんだね、君は】
「……そうかもですねー」

 小言を頂戴することに、すでに日常化している私は、これくらいで不機嫌になったりも、しゅんとしたりもしない。

 それより、ここでまさかの再会に私は浮足立ってしまう。なぜなら、リベリオから助言をもらいたかったからだ。

「ねえねえ、勇者さん」
【……なんですか?お嬢さん】

 小言をさらりとスルーした私に、少々思うところがあったようだけれど、リベリオはくるりと私に視線を向けてくれた。

「あのぉー魔法ってどうやったら使えるんですか?」

 かつて英雄の名を欲しいままにした勇者さまは、とても困った顔をしてしまった。

【どうって……私は気付いたら使えていたから。考えたこともなかったなぁ】
「……使えないで人すね」
【なんか、ごめんね】

 内心、ナイス助っ人!と、手を叩いて喜んでみたものの、実はまさかのポンコツだった。

 ここで嫌味の一つでも言いたいところ。でも、まだ私は聞きたいことがある。仕方がない。質問を変えることにしよう。

「じゃあ、もう一人の私は、魔法は使えたんですか?」

 私の質問に勇者さまは顎に手を当て、瞠目する。多分、記憶を手繰っているのだろう。

【えぇーっと……うん。使えたよ?】

 なぜ、最後が疑問形なのだろう。聞いているのはこっちだというのに。

 でもその疑問はすぐに解消された。……あんまり嬉しい答えじゃなかったけれど。
 
【えっと……正確に言うと、大魔法が使えるくらい一気に覚醒して、そのあとすぐに死んだんだ】
「えー!?そんなぁー。じゃあ私、覚醒したら死ぬんですか?強くなれないってことですか?」

 なんてこったい。思わず地面に崩れ落ちてしまった。

 私は、昔から頑張ろうとすると妙に力が入って空回りばかりしていた。今回もそういうこと?

 え、じゃあ私、頑張れない?嫌だそんなの。

 何としても強くなりたい。ならなくてはならないのに。きっついなぁ、これ。

 皆んなを守るって、もう一人の私と約束したのに。それに、何よりあの惨劇を繰り返すわけにはいかないというのに。

 ああ……もう、なんか泣けてくる。

 膝を付き、地面に手をあてたまま項垂れた私に、リベリオは慌てて付け加えた。

【いやいや、違う違う。覚醒したからといって死ぬわけじゃないよ】
「えっと、なら───」
【もう一人の君は脇腹刺されて自暴自棄になって……その時に、覚醒したんだ】
「…………あー」

 確かにもう一人の私は、子供を助けたら、ぽきっと心が折れたと夢の中で言っていた。
 
 でも、まさかその後にこんな話が続いているなんて思ってもみなかった。

 っていうことは、私は今みたいにこっそり練習していたら、いつまで経っても魔法が使えないということなのだろうか。

 でも、自暴自棄にはなりたくない。続けたい、変えたいと思う気持ちでは魔法は使えないのだろうか。

 そんな気持ちでリベリオを見つめる。そうすれば、リベリオは膝を付く。そして、私と目線を合わせてこう言った。

【魔法は、心の力。祈りと願い。そして意志の強さが魔力の源となる。だから、強く念じれば、必ず応えてくれるよ】
「……」

 ふんわりとしたアドバイスに、ただ遠い目をする私。
 そして私の頭の悪さに同じく遠い目をするリベリオ。

 そんな中、マリモだけが、くわぁーと呑気に欠伸をして、二度寝の場所をちょこまかと探すのであった。



 ───でも、この後すぐ、魔力ゼロだと思っていた私が、この数日後、バリッバリの氷結魔法をつかうことになるなんて夢にも思わなかった。
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