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あなたと私の始まり
初夜①
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とりあえず一人になった私は、ささやかな願いを叶える為に、喪服のようなドレスを脱ぎ捨てる。次いでアンダードレスだけの姿になって、広いベッドにダイブする。
ダイブしたと同時にスプリングが軋んで、ぶわんぶわんと身体が揺れる。解放感に満たされ、眠気がどっと押し寄せてきた。無理もない、清潔なベッドと監視のない空間なんてどれぐらいぶりだろう。ほんの少しだけと思って目を閉じたら、どうやら私はがっつりと寝入ってしまっていたようで────
「花嫁様、起きてください」
というメイドの声で目を覚ます羽目になってしまった。暗闇でろうそくを手に持った無表情なメイドは、しばらく夢に出てきそうなほど、かなりホラーだった。
そしてこのホラーなメイドは、寝ぼけたままの私を無視して、あれよあれよと初夜の準備を進めていった。
無理矢理、私を湯浴みさせ、強制的に夜着を着せ、いかにもっていう感じのキャンドルを燈していく。淡々と・・・いや粛々と進めていく様に、私は心の準備などする間もなかった。
そして───1時間後。
「じきに領主様もお見えになります」
さあどうぞ、といわんばかりの初夜仕様の部屋が出来上がると、メイドはその一言だけ言い置いて部屋を後にした。
パタンと閉められた扉の音が、無情に響く。一人残された私は、ぐるりと部屋を見渡してみる。無駄に広い部屋が、より一層広さを増したように感じた。
何となく肌寒さを覚え、両腕を擦りながらベッドへと歩を進める。
初夜の作法として、花嫁はベッドに腰掛けて花婿を迎えるのが習わしらしいので、素直にベッドの一番隅にちょこんと膝を抱えて座る。
作法とはいえ、自分から誘うような行動を取るのはどうかと思うが、一応、この初夜は形だけのものということが判明したのだ。
これはつい今し方、ホラーなメイドから聞いた最新情報なのだが、実はこのフィラント領では、たとえ領主といえど、半年間は花嫁の純潔を護らなければならないという掟があるのだ。
花嫁は、初夜から毎夜、月の光を浴び続ける。そうすれば、今までの穢れと罪を洗い流すことができ、真っ新の状態で花婿に抱かれることとなる。けれど、実際のところ、婚姻前の妊娠を確認するために期間を設けているに過ぎない。
ホラーなメイドは多分後半のくだりを私に聞かせたかったのだろう。だが、あいにく私は処女だ。知識はあっても、経験はない。ひゃっほうと飛び上がりたくなるのを堪えるのが大変だったこと以外は、どうということはない。
ちなみにその間、花婿はどうするかというと、表向きは忍耐を試されるわけなので我慢を強いられる。ま、実際は愛人や娼館でそういうことをしているらしい。
今夜、隣で眠るであろう領主様も、明日からは寝室が別になり、別の女性の元へ行くのだろう。
それでいい、と思う。掟を破って、抱かれるくらいなら、さっさと別の女性の元で欲望を吐き出してほしい。
あと、ふと思ったのだが・・・銀狼領主、来るの遅くない?
あくびを噛み締めること、数回。キャンドルの揺らめきを数えること数十回。もしかして、すっぽかされたと喜びに顔がにやけた瞬間、ガチャリと扉の開く音が部屋に響いた。言うまでもないけど、私のテンションは地に落ちた。
けれど、部屋に入室してきた銀狼領主は、もっとテンションが低かった。
「あーマジ疲れた」
そう独り言を呟きながらガシガシと頭を掻きながら銀狼領主は、ドサリと長椅子に座りうなだれた・・・みたいだ。私の位置からでは、見えないのである。こんなことなら入り口に背を向けて座らなければ良かった。すごく気になる。振り返りたい。
そんな私を無視して、というか私に気付いていない銀狼領主は独り言を続けている。
「っとに、説教長すぎるだろアイツ。マジ、疲れるって。ってか、謝ったのに、こんな時間まで説教するなんてマジ鬼畜だわ。はぁー」
こっちが思わず慰めたくなるくらい、銀狼領主は、深い溜め息をついた。どんまい、銀狼領主。明日があるよ。
それにしても、玄関ホールで会った時は、銀狼領主はそこそこ元気だったはずだ。と、いうことはその後、何かあったということだ。そこまでテンションを下げる事態になったのは、一体、何をしたというのだろう。あと、この独り言いつまで続くのだろう。
居心地の悪さに耐え切れず、もぞもぞ身じろぎをしてしまったら、銀狼領主がはっと顔を上げる気配がした。
「あ、起きてたんだ」
起きてて、ごめんなさい。でも、初夜に花婿を待たずに寝てしまう花嫁ってこの世に存在するのだろうか。この世界のことはわからないけど、私のいた世界では多分、皆無に近いと思う。
そんなこんなを思いながらも、銀狼領主を無視するわけにもいかず、私はゆっくりと振り返る。
気詰まりな初夜は始まったばかり。今夜は長い夜になりそうだ。
ダイブしたと同時にスプリングが軋んで、ぶわんぶわんと身体が揺れる。解放感に満たされ、眠気がどっと押し寄せてきた。無理もない、清潔なベッドと監視のない空間なんてどれぐらいぶりだろう。ほんの少しだけと思って目を閉じたら、どうやら私はがっつりと寝入ってしまっていたようで────
「花嫁様、起きてください」
というメイドの声で目を覚ます羽目になってしまった。暗闇でろうそくを手に持った無表情なメイドは、しばらく夢に出てきそうなほど、かなりホラーだった。
そしてこのホラーなメイドは、寝ぼけたままの私を無視して、あれよあれよと初夜の準備を進めていった。
無理矢理、私を湯浴みさせ、強制的に夜着を着せ、いかにもっていう感じのキャンドルを燈していく。淡々と・・・いや粛々と進めていく様に、私は心の準備などする間もなかった。
そして───1時間後。
「じきに領主様もお見えになります」
さあどうぞ、といわんばかりの初夜仕様の部屋が出来上がると、メイドはその一言だけ言い置いて部屋を後にした。
パタンと閉められた扉の音が、無情に響く。一人残された私は、ぐるりと部屋を見渡してみる。無駄に広い部屋が、より一層広さを増したように感じた。
何となく肌寒さを覚え、両腕を擦りながらベッドへと歩を進める。
初夜の作法として、花嫁はベッドに腰掛けて花婿を迎えるのが習わしらしいので、素直にベッドの一番隅にちょこんと膝を抱えて座る。
作法とはいえ、自分から誘うような行動を取るのはどうかと思うが、一応、この初夜は形だけのものということが判明したのだ。
これはつい今し方、ホラーなメイドから聞いた最新情報なのだが、実はこのフィラント領では、たとえ領主といえど、半年間は花嫁の純潔を護らなければならないという掟があるのだ。
花嫁は、初夜から毎夜、月の光を浴び続ける。そうすれば、今までの穢れと罪を洗い流すことができ、真っ新の状態で花婿に抱かれることとなる。けれど、実際のところ、婚姻前の妊娠を確認するために期間を設けているに過ぎない。
ホラーなメイドは多分後半のくだりを私に聞かせたかったのだろう。だが、あいにく私は処女だ。知識はあっても、経験はない。ひゃっほうと飛び上がりたくなるのを堪えるのが大変だったこと以外は、どうということはない。
ちなみにその間、花婿はどうするかというと、表向きは忍耐を試されるわけなので我慢を強いられる。ま、実際は愛人や娼館でそういうことをしているらしい。
今夜、隣で眠るであろう領主様も、明日からは寝室が別になり、別の女性の元へ行くのだろう。
それでいい、と思う。掟を破って、抱かれるくらいなら、さっさと別の女性の元で欲望を吐き出してほしい。
あと、ふと思ったのだが・・・銀狼領主、来るの遅くない?
あくびを噛み締めること、数回。キャンドルの揺らめきを数えること数十回。もしかして、すっぽかされたと喜びに顔がにやけた瞬間、ガチャリと扉の開く音が部屋に響いた。言うまでもないけど、私のテンションは地に落ちた。
けれど、部屋に入室してきた銀狼領主は、もっとテンションが低かった。
「あーマジ疲れた」
そう独り言を呟きながらガシガシと頭を掻きながら銀狼領主は、ドサリと長椅子に座りうなだれた・・・みたいだ。私の位置からでは、見えないのである。こんなことなら入り口に背を向けて座らなければ良かった。すごく気になる。振り返りたい。
そんな私を無視して、というか私に気付いていない銀狼領主は独り言を続けている。
「っとに、説教長すぎるだろアイツ。マジ、疲れるって。ってか、謝ったのに、こんな時間まで説教するなんてマジ鬼畜だわ。はぁー」
こっちが思わず慰めたくなるくらい、銀狼領主は、深い溜め息をついた。どんまい、銀狼領主。明日があるよ。
それにしても、玄関ホールで会った時は、銀狼領主はそこそこ元気だったはずだ。と、いうことはその後、何かあったということだ。そこまでテンションを下げる事態になったのは、一体、何をしたというのだろう。あと、この独り言いつまで続くのだろう。
居心地の悪さに耐え切れず、もぞもぞ身じろぎをしてしまったら、銀狼領主がはっと顔を上げる気配がした。
「あ、起きてたんだ」
起きてて、ごめんなさい。でも、初夜に花婿を待たずに寝てしまう花嫁ってこの世に存在するのだろうか。この世界のことはわからないけど、私のいた世界では多分、皆無に近いと思う。
そんなこんなを思いながらも、銀狼領主を無視するわけにもいかず、私はゆっくりと振り返る。
気詰まりな初夜は始まったばかり。今夜は長い夜になりそうだ。
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