銀狼領主と偽りの花嫁

茂栖 もす

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あなたと私のすれ違い

強引な約束①

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 部屋の扉に持たれ、膝を抱えたままどれくらいの時間が経ったのだろうか。

 日はすっかり暮れて、明かりを付けていない部屋の中は、外との境界が曖昧な程、真っ暗闇だ。でも、今はこの暗闇が心地良い。けれど、ほんの少し我が儘を言うなら少し寒い。両手に息を吹きかけながら、ちらりと暖炉に視線を移す。

 木炭を使う暖炉なんて今まで使ったことがないし、そもそも火の起こし方すらわからない。ということで、自力で部屋を暖めるのは不可能だ。だけど、アーシャに頼むぐらいなら凍死した方がましだ。

 それについさっき食事を運んできたアーシャに対して、私は入って来るなと威勢良く言い放ってしまったのだ。今更のこのこと暖炉に火を入れてなんて、どの面さげてお願いできようか。

「・・・はぁー、寝よう」

 布団に包まれば、それなりに身体は暖まるだろう。この部屋に誰も入れたくなくてここに居たけれど、夜もふけた今、もうここに来るものはいないだろう。
 そう楽観視して起き上がろうとした瞬間、背を預けていた扉が一瞬で消えた。

「へ?───・・・うわぁ!?」
「!?」

 ぐらりと回った視界に写るのは驚いた表情で私を見下ろすハスキー領主だった。尻餅を付いた私と手に盆を持ったハスキー領主。私達はお互いの顔を見つめ合ったまま固まっていたが、先に沈黙を破ったのはハスキー領主だった。

「───・・・こんなとこに座っていたら危ないよ」

 いやいやいやいや、いきなり扉を取っ払う方が危ないと思う。
 そう心の中で悪態をついてみる。絶対に話しかけたりするもんか。今はハスキー領主の顔なんて見たくないし、口も聞きたくない。ぷいと横を向いた私にハスキー領主は苦笑を浮かべながら手に持っていた盆を一旦床に置いた。次いで、素早く私を片腕で抱え、反対の手で盆を持ち直し部屋に入る。

「寒い」

 一歩部屋に足を踏み入れたハスキー領主は、そう言って顔をしかめた。そして、私をソファに座らせると、隣に座らず私の目の前に膝を付いて、口を開いた。

「部屋、随分と冷えきっているね。すぐ暖めるから」

 そう言うが早いが、ハスキー領主は指をパチンと鳴らす。
 ふわりと柔らかい風が髪を揺らしたと思ったら、部屋の明かりが灯り、かじかんでいた身体から一気に力が抜ける。思いの外、冷えきっていたようだった。

 あっという間に暖まった部屋にほっとしたのもつかの間、不意にハスキー領主が私の顔を覗き込んできた。

「ご飯食べないの?」
「……いらない」

 思わず返事をしてしまう。
 しまったと顔をしかめた私だったが、ハスキー領主は眉を下げ、心配そうに私の手を握った。

「アーシャから聞いたよ。朝ごはんも全然食べてないんだって。ここの料理が口に合わないの?好きなものを教えて。そうしたら、すぐに用意するから」
「……………………」

 誰があんたの用意した食べ物なんて口にするものか、そういう意味を込めて眼前のハスキー領主を思いっきり睨みつける。
 私の威勢にハスキー領主は息を呑んだ。けれど、ハスキー領主は何も言わず、私の手を握る反対の手を口元に当てて俯いている。どうやら何かを考えている様子だ。

「もしかして、昼間のアレのこと怒っているの?」

 目を丸くするハスキー領主に私は言いようのない怒りが込み上げる。そこまで考えないと思いつかないことなのか。風船のように膨れあがった感情は今にでも爆発しそうだ。しかし、僅かなに残っていた理性でふと気付く。このハスキー領主はとにかくズレている。今、私が感情のまま怒り散らかしても、きっと彼には届かない。彼にはちゃんとした説明が必要なのだ。

 堪えろ、堪えろと自分に言い聞かせながら深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。それからハスキー領主に向かって私はゆっくりと口を開いた。

「私、言いたいことがあって、あなたを探していたんです」
「え?何だろう。教えて───」
「舞踏会なんか出ません」

 そう言い捨てて、ハスキー領主から顔を逸らす。

「どういうこと?」
「……………………」

 少し険のある問いに、昼間の中庭での一件を思い出す。また怒鳴られてしまうにだろうか。無言を貫き通しながらも、次に来る怒号に堪えれるように身構える。けれど、予測に反してハスキー領主は静かな口調で再び口を開いた。

「ねぇ、どうして舞踏会に出たくないの?」
「……………………」
「ドレスが気に入らないの?それとも体調が悪いの?嫌なことがあったら言って。君の希望に添うように努力するから」
「……………………」

 私に向けられるハスキー領主の言葉をことごとく無視という形で跳ね返す。
 
「ねぇ、何か言って」

 そう言って反対の手でも私の手を握ろうとしたハスキー領主の手を跳ね退けてしまった。瞬間、ハスキー領主は顔をくしゃりと歪めた。
 やり過ぎた、彼を傷付けてしまった。そう思ったけれど、意地を張りすぎてしまった今、素直に謝ることができない。

 跳ね退けてしまった両手を胸の前でかき合わせて、どうしたら良いのかオロオロとする私に向かって、ハスキー領主は静かに口を開いた。

「そう、そこまで僕を拒むんだ───なら、僕にも考えがあるよ」

 部屋に響いたその声は、全く別人の声がした。
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