銀狼領主と偽りの花嫁

茂栖 もす

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あなたと私のすれ違い

舞踏会①

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 今朝は、朝から居城全体が騒がしい。扉も窓も閉めきった状態でも、居城全体が浮足立っているのが伝わってくる。
 いや、居城全体というのは語弊がある。私の部屋以外は浮足立っているようだ。

 窓から外を覗いてみると、居城の従業員があたふたと荷物を抱えて行ったり来たりしている。でも、皆の顔は楽しそうに弾んでいて、それが見ていて腹立だしい。

 あ、どうでもいいけれど舞踏会は、夕方から夜半にかけて盛大に行われるらしい。


 準備をするのは舞踏会直前だと思っていたけれど、甘かった。陽が高いうちから部屋に飛び込んできたアーシャに、私は風呂にぶち込まれ、何だか良くわからない香油を塗りたくられた。

「本日の衣装でございます」

 アーシャはそう言って、一着のドレスを掲げ持つ。この日の為に用意された私のドレスは、白地のふんわりとしたもので、胸元と裾に蒼氷色のレースが使われている、清楚なものだった。

 ───へぇー、そぉー、ふぅーん。

 以上が私がドレスを見た感想である。

 アーシャが不満げな表情を浮かべても、はいはい、これを着ればいいんでしょ、という態度を丸出しにしにて、私は嫌々ドレスの袖を通す。

 それから、鏡台の前に強制的に着席させられる。
 鏡に映る私は、こけた頬、青い顔、艶の無い髪。うん、イイ感じのやつれ具合だ。

 鏡に向かって自分で自分を褒めてあげたいぐらいだ。けれど、ここでそんなことをしてしまったら、今までの苦労が水の泡だ。頑張れ、私。元の世界に戻ったら、甘いココアで祝杯をあげるのだ。マシュマロも浮かべていいよ。
 
 そんな風に鏡に映るもう一人の私と、会話をしていたら、あっという間に髪の毛を結い上げられ、思わずこれおいくら?と聞きたくなるような宝石が付いた髪飾りを惜し気もなく突き刺される。もうこれで、容易に首を動かすことができなくなってしまった。そして、アーシャは私の前に回り込み、せっせと化粧をする。

 そんなことをしても、やつれ具合は隠せない。悪あがきもいいところだ。
 荒れた肌に白粉は浮き出ているし、青白い顔を誤魔化そうとして差した口紅は、逆に顔色の悪さを強調させている。

 くすっと、心の中で黒い笑みを浮かべる。
 けれど、すぐに胸が苦しくなる。こんなに風な笑い方なんて、元の世界じゃ絶対にしなかった。鏡に映る自分が途端に別の人物のように見えてくる。

 そして、全ての準備が整った頃、まるで謀ったかのようにハスキー領主が断りもなく部屋に入ってきた。

「どうだい?準備はできたかな?」

 あらあらぁ~、本日ははドアノブを回して入室ですか。ご苦労なことですね、けっっ。

 ……ってことを口にできたらどれ程スッキリするだろうか。でも、言えないし言うつもりもない。ただ、せめて入室を歓迎していないという意思は伝えたいので、絶対にハスキー領主の方は向いたりしない。

「はい。いつでも大丈夫でございます」

 一礼するアーシャにハスキー領主は無言で頷いた後、ゆっくり私に近づいた。

「綺麗だよ、良く似合っているね」

 私の姿を見つめ、ハスキー領主は目を細めながらそう口を開く。
 
「……………………」

 もちろん、それに応える私ではない。鏡台を見つめたまま、愛想笑い一つしないし、首を一ミリたりとも動かさない。っていうか、こんなやつれた私をみて、どの口が言う。お世辞を通り越して薄ら寒い。

 心の中では喋りまくる私だったけど、ハスキー領主からするとひたすら無視をしていることになる。ハスキー領主はそんな私に一歩私に近付き、耳元で囁いた。

「今日もだんまり?」

 おっとりとした口調だけど、鏡に映るハスキー領主の目は笑っていなかった。あと一つ、私が何かしでかしたら、先日の夜のようなことをするのだろうか。あの晩の一連の出来事を思い出したら身震いがした。あんな思いをするのは、もう嫌だ。でも、媚びるような言葉なんて言いたくない。

 そこで私は閃いた。わざと憎まれ口を叩いてみよう、と。もし、ハスキー領主の逆鱗に触れめちゃくちゃにされたら【こんな姿では、舞踏会に出られない】とゴネればいい。ということで、半分賭けで私は口を開いた。
 
「黒よりは、マシですね」
「ははっ、確かにあれは酷かったね、ははっ」
「……………………」

 憎まれ口を叩いた私に、ハスキー領主は気を悪くするどころか、カラカラと声に出して笑った。一体、何がそんなに面白かったのだろう。彼は笑いのツボまでズレている。

 そして、ひとしきり笑った後、ハスキー領主は目を丸くしている私に手を差し伸べた。

「さぁ、行こうか」
「……………………あいにく、両手は塞がっています」

 私は鏡台から勢い良く立ち上がると、むんずと両手でドレスの裾を掴み、さっさと歩き出した。
 
 約束は守る。だけど、私はハスキー領主の言いなりになんてならない。今は、この舞踏会でハスキー領主が赤っ恥をかくのを祈るのみだ。
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