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あなたと私のすれ違い
遠出②
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城門まで二人とも無言で歩く。そしてそのまま城外へ行くと思いきや、ハスキー領主は突然歩を止めた。
「こっちだよ」
ハスキー領主は一度だけそう話しかけて、黙々と歩く。そしてその後ろを私は何もいわず、何も聞かずに黙って続く。
城門をくるりと廻った先には、馬小屋があった。目指す先はここだったようで、ハスキー領主は私を置いて小走りでそこへ駆け出した。
私はというと馬小屋に立ち入っていいのかわからず、入口で踏みとどまる。
「お待たせ」
そう言われるほど待つ時間などなく、ハスキー領主は一頭の毛並みの綺麗な馬を連れ来てた。鞍も手綱もあるということは、この馬でどこかに行くということなのだろうか。
探るような視線を向ける私に、ハスキー領主は今日は一段と冷えるなと、少し顔を顰める。そして───。
「寒くなるから、先に防寒の術を掛けておくね」
そう言って、ハスキー領主はパチンと指を鳴らした。
あの日と同じように、ふわりと柔らかい風が髪を揺らして暖かい空気が全身を包む。あっという間にかじかんでいた手や頬の痺れが抜けていく。
ハスキー領主は自分にも魔法をかけたのだろう、片手を持ち上げてこれぐらいで大丈夫かなと呟く。それから改めて私を見つめ少し首を傾げた。
「馬は初めて?」
「………………はい」
おずおずて頷いた私に、ハスキー領主は少し困ったような表情で口を開く。
「ごめんね。踏み台とかないなら」
そう言うが早いが私を抱きかかえ、ひらりと馬に跨がった。
ハスキー領主は鞍の上、そして私はハスキー領主の膝の上に腰かけることになり、思わず身じろぎしてしまう。けれど領主は、無言で私の腰を掴みその動きを制した。
「動くと危ないから」
短く言い捨てたハスキー領主は最後に、ごめんねともう一度私に囁く。その声があまりに苦しそうだったので、思わず私は体を捻り彼を見上げた。
けれど、逆光でハスキー領主の顔を見ることができなかった。目を細めて彼の表情を読み取ろうとする私に、ハスキー領主は真っすぐ前を向いたまま口を開いた。
「さて、と。じゃ行こうか」
「……あの、どこにですか?」
思わず口を開けば、ハスキー領主はやっとこちらを向いて目を細めてこう言った。
「行けばわかるよ」
……リシャードど全く同じ台詞が返ってきたのだ。つまり、私には事前に教える気はないらしい。
くるりと私の顔を見下ろすハスキー領主の蒼氷色の瞳に、少し困った顔の私が映る。
私は、その蒼氷色に写った自分にこくりと頷いてみる。そしてそれを合図に馬がゆっくりと歩を進めた。
城門を出る際に、ハスキー領主が少し傭兵に言葉をかけたを最後に、私達は無言になった。雪を舞い上げる風の音と、馬の蹄の音だけが聞こえている。
ただ城門を抜け、居城と街へ続く石畳の途中で、突然視界が真っ暗になった。驚いて、反射的にそれを払いのけようとしたら、ハスキー領主の堅い声が降って来た。
「まだ、街の人達に君の存在を知らせるわけにはいかないんだ。少しの間こうしていて」
その言葉と柔らかな肌触りで、私はハスキー領主のマントにくるまれたことを知る。
次いでどうして?そんな言葉が浮かんでくるが、ハスキー領主の口調は命令というよりは、お願いといったもの。
喉で止まった4文字を飲み込んで、こくり、私は再び頷く。
断る理由はない。ハスキー領主が私を市井の人々に見せない理由があるように、私だって、そう遠くない未来に消えてしまう自分の姿を見られたくはない。
それに何より、マントの隙間から外の景色は見えるから、正直言ってどちらでも良い。
城外へ出るのは2度目だ。
一度目は、領主の元に嫁いだ日。ただ、私はそりの中にいて殆ど景色は見ることができなかった。睡魔に襲われていたのもあるけれど。
だから二度目の今日は、全てが新鮮で目新しい。
防寒の術を掛けてもらっているおかげで私はちっとも寒くないが、通りすがる人々は皆、厚着をしているけれど首をすくめ速足で過ぎ去っていく。
でも雪に閉ざされた最果ての領地に住む人々は、皆、温かな笑顔を浮かべながら忙しなく動いている。
それを見ている私は、驚きと安堵と拍子抜けした気持ちがごちゃ混ぜになっている。その気持ちを要約すると【なんだ同じなんだ】という気持ち。
言葉も服装も習慣も違うけれど、人々はここで生活をしている。それは私が元いた世界と何ら変わらなかった。
バイザックはフィラント領は雪に閉ざされた僻地で、ここに住まう人々は皆、不幸者だと嘲笑っていた。でも、すれ違う人々に悲壮感は感じられない。
老若男女関係なく吐き出す息は白い。それは彼らが血の通った生きている人間である証拠で、そんな人たちが生活しているフィラントは寒く凍える絶望の地だとはどうしても思えなかった。
そして当たり前だが、ハスキー領主は本当にフィラント領の領主だった。すれ違う人々は、ハスキー領主に向かい恭しく頭を下げていたり、感謝の念を表す言葉を紡いでいる。反対に領主はその人達に向かって、手を挙げたり短い言葉を交わしたりしている。
ただ、声音は低く抑揚がない。けれど、私に向けられた凶暴なものではなく、この地を治める領主の威厳と権威からくるものだった。
そしてふと気づく。この声音を聞くのは二度目だということを。この口調は初めて会った時にかけられたもので、既に懐かしいとすら思ってしまう。
あの日、彼は横柄な態度で私を娶ると公言した。そして強引に私の顔を覗き込んで、黒目、黒髪が珍しいと囁いて───輿入れした私のドレスが喪服みたいだと、意気投合したのだ。
まだ2ヶ月も経っていないのに随分昔のような気がする。きっとこれまで色々と、もう本当に色んなことがあったからだろう。
そんなことを考えていたら、どうやら向かう先は街ではないようで、あっという間に通りすぎてしまい、今度はほとんど白一色に統一された場所を駆けていく。
空も白。地面も白。見渡す限り、白い世界で、突然、ハスキー領主は止まった。
そこでやっと、ハスキー領主は私を包んでいたマントを取り去った。一気に視界が広がり眩しさに目を細める。
あまりに眩しすぎて、手をかざした瞬間、ハスキー領主は私の手を掴んだ。咄嗟のことで掴まれた腕に力が入る。領主はそれを払いのけられると勘違いしたのか、更に強く私の腕を掴んでこう言った。
「聞いて欲しいことがあるんだ。フィリカのこと」
領主の言葉に、トクン、と心臓が撥ねる。
人目を避け、こんな所で話すことなど、大体察しはついている。馬に乗った時、彼は私にごめんと囁いた。その意味が指し示すものは、きっとこれから話すことへの謝罪なのだろう。
聞きたくない気持ちはある。でも、ずっとヤキモキとした気持ちを抱えているのは辛い。いっそ一思いに彼女との関係を彼の口から聞いてしまおう。
私は体を捻りハスキー領主の顔を見上げる。そして、無言で……でもしっかりと頷いた。
「こっちだよ」
ハスキー領主は一度だけそう話しかけて、黙々と歩く。そしてその後ろを私は何もいわず、何も聞かずに黙って続く。
城門をくるりと廻った先には、馬小屋があった。目指す先はここだったようで、ハスキー領主は私を置いて小走りでそこへ駆け出した。
私はというと馬小屋に立ち入っていいのかわからず、入口で踏みとどまる。
「お待たせ」
そう言われるほど待つ時間などなく、ハスキー領主は一頭の毛並みの綺麗な馬を連れ来てた。鞍も手綱もあるということは、この馬でどこかに行くということなのだろうか。
探るような視線を向ける私に、ハスキー領主は今日は一段と冷えるなと、少し顔を顰める。そして───。
「寒くなるから、先に防寒の術を掛けておくね」
そう言って、ハスキー領主はパチンと指を鳴らした。
あの日と同じように、ふわりと柔らかい風が髪を揺らして暖かい空気が全身を包む。あっという間にかじかんでいた手や頬の痺れが抜けていく。
ハスキー領主は自分にも魔法をかけたのだろう、片手を持ち上げてこれぐらいで大丈夫かなと呟く。それから改めて私を見つめ少し首を傾げた。
「馬は初めて?」
「………………はい」
おずおずて頷いた私に、ハスキー領主は少し困ったような表情で口を開く。
「ごめんね。踏み台とかないなら」
そう言うが早いが私を抱きかかえ、ひらりと馬に跨がった。
ハスキー領主は鞍の上、そして私はハスキー領主の膝の上に腰かけることになり、思わず身じろぎしてしまう。けれど領主は、無言で私の腰を掴みその動きを制した。
「動くと危ないから」
短く言い捨てたハスキー領主は最後に、ごめんねともう一度私に囁く。その声があまりに苦しそうだったので、思わず私は体を捻り彼を見上げた。
けれど、逆光でハスキー領主の顔を見ることができなかった。目を細めて彼の表情を読み取ろうとする私に、ハスキー領主は真っすぐ前を向いたまま口を開いた。
「さて、と。じゃ行こうか」
「……あの、どこにですか?」
思わず口を開けば、ハスキー領主はやっとこちらを向いて目を細めてこう言った。
「行けばわかるよ」
……リシャードど全く同じ台詞が返ってきたのだ。つまり、私には事前に教える気はないらしい。
くるりと私の顔を見下ろすハスキー領主の蒼氷色の瞳に、少し困った顔の私が映る。
私は、その蒼氷色に写った自分にこくりと頷いてみる。そしてそれを合図に馬がゆっくりと歩を進めた。
城門を出る際に、ハスキー領主が少し傭兵に言葉をかけたを最後に、私達は無言になった。雪を舞い上げる風の音と、馬の蹄の音だけが聞こえている。
ただ城門を抜け、居城と街へ続く石畳の途中で、突然視界が真っ暗になった。驚いて、反射的にそれを払いのけようとしたら、ハスキー領主の堅い声が降って来た。
「まだ、街の人達に君の存在を知らせるわけにはいかないんだ。少しの間こうしていて」
その言葉と柔らかな肌触りで、私はハスキー領主のマントにくるまれたことを知る。
次いでどうして?そんな言葉が浮かんでくるが、ハスキー領主の口調は命令というよりは、お願いといったもの。
喉で止まった4文字を飲み込んで、こくり、私は再び頷く。
断る理由はない。ハスキー領主が私を市井の人々に見せない理由があるように、私だって、そう遠くない未来に消えてしまう自分の姿を見られたくはない。
それに何より、マントの隙間から外の景色は見えるから、正直言ってどちらでも良い。
城外へ出るのは2度目だ。
一度目は、領主の元に嫁いだ日。ただ、私はそりの中にいて殆ど景色は見ることができなかった。睡魔に襲われていたのもあるけれど。
だから二度目の今日は、全てが新鮮で目新しい。
防寒の術を掛けてもらっているおかげで私はちっとも寒くないが、通りすがる人々は皆、厚着をしているけれど首をすくめ速足で過ぎ去っていく。
でも雪に閉ざされた最果ての領地に住む人々は、皆、温かな笑顔を浮かべながら忙しなく動いている。
それを見ている私は、驚きと安堵と拍子抜けした気持ちがごちゃ混ぜになっている。その気持ちを要約すると【なんだ同じなんだ】という気持ち。
言葉も服装も習慣も違うけれど、人々はここで生活をしている。それは私が元いた世界と何ら変わらなかった。
バイザックはフィラント領は雪に閉ざされた僻地で、ここに住まう人々は皆、不幸者だと嘲笑っていた。でも、すれ違う人々に悲壮感は感じられない。
老若男女関係なく吐き出す息は白い。それは彼らが血の通った生きている人間である証拠で、そんな人たちが生活しているフィラントは寒く凍える絶望の地だとはどうしても思えなかった。
そして当たり前だが、ハスキー領主は本当にフィラント領の領主だった。すれ違う人々は、ハスキー領主に向かい恭しく頭を下げていたり、感謝の念を表す言葉を紡いでいる。反対に領主はその人達に向かって、手を挙げたり短い言葉を交わしたりしている。
ただ、声音は低く抑揚がない。けれど、私に向けられた凶暴なものではなく、この地を治める領主の威厳と権威からくるものだった。
そしてふと気づく。この声音を聞くのは二度目だということを。この口調は初めて会った時にかけられたもので、既に懐かしいとすら思ってしまう。
あの日、彼は横柄な態度で私を娶ると公言した。そして強引に私の顔を覗き込んで、黒目、黒髪が珍しいと囁いて───輿入れした私のドレスが喪服みたいだと、意気投合したのだ。
まだ2ヶ月も経っていないのに随分昔のような気がする。きっとこれまで色々と、もう本当に色んなことがあったからだろう。
そんなことを考えていたら、どうやら向かう先は街ではないようで、あっという間に通りすぎてしまい、今度はほとんど白一色に統一された場所を駆けていく。
空も白。地面も白。見渡す限り、白い世界で、突然、ハスキー領主は止まった。
そこでやっと、ハスキー領主は私を包んでいたマントを取り去った。一気に視界が広がり眩しさに目を細める。
あまりに眩しすぎて、手をかざした瞬間、ハスキー領主は私の手を掴んだ。咄嗟のことで掴まれた腕に力が入る。領主はそれを払いのけられると勘違いしたのか、更に強く私の腕を掴んでこう言った。
「聞いて欲しいことがあるんだ。フィリカのこと」
領主の言葉に、トクン、と心臓が撥ねる。
人目を避け、こんな所で話すことなど、大体察しはついている。馬に乗った時、彼は私にごめんと囁いた。その意味が指し示すものは、きっとこれから話すことへの謝罪なのだろう。
聞きたくない気持ちはある。でも、ずっとヤキモキとした気持ちを抱えているのは辛い。いっそ一思いに彼女との関係を彼の口から聞いてしまおう。
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