監禁された私には、時空の監視者の愛情は伝わらない

茂栖 もす

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◆◇第一幕◇◆ 時空の監視者の愛情は伝わらない 

ルークからの提案①

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「久しぶりー。って、うわぁっびっくりした。随分派手にやったねー」

 そう言いながら部屋に入ってきたのは栗色の髪に水色の瞳の青年で、軍服のような真っ白な制服に身を包んだルークだった。

 彼に会うのは今日で3回目。

 1回目はこの世界での初日。2回目は私がバルドゥールの屋敷に監禁されてすぐに。そして今日、だ。

 はっきり言ってルークは2番目に殺したい程憎い相手で、叶うことなら二度と会いたくない人種。ついでに言えば、できれば誰からも残念な目を向けられるような死に方をして欲しいくらい、恨み辛みが詰まった男でもある。

 そんな男が平然とした顔で部屋に入れば、私の怒りは瞬時に最高潮を迎えた。けれど、ルークは何食わぬ様子でこちらに近付き、私の顔を覗き込みながら口を開いた。
 
「っていうか、堂々と食事のボイコットはするわ、バルドゥールの目の前で自殺未遂するわ。うん、君、見かけによらずすごいねー。驚いたよ、マジで。勇者だよ」
「……………………」

 監禁生活を強いられ、犯され続ける勇者など聞いたことがない。

 それに下世話な三面記事みたいな言い方をしないで欲しい。こっちは殴られるわ、激しく犯されるは、食器は全て木製に変えられるわ散々な目にあっているのだ。

 ベッドで半身を起こしていた私は、俯き無視を決め込む。ついでに言えば、バルドゥールに頬を殴られたおかげで、少し唇を動かすだけでも、ものすごく痛い。こんな奴の為に口を開く義理はない。

 それはルークにも伝わったようで、ちらりと私の腫れた頬を見た途端、うわぁっ、と痛々しい表情を見せた。

 でも、断りも無くテーブルの傍にある椅子をベッドの横まで移動し始めているので、このまま帰る気はないようだ。

 というか、どうやら今日は長居をするつもりらしい。………即刻退場願いたい。

「ねぇ、バルドゥールと過ごすの、そんなに嫌だった?」

 出て行けと言わんばかりに睨んだ私に、ルークはくるりと視線を投げて寄越した。

「ものっすごく、嫌です」

 湧き出る憎悪を隠すことなくそう吐き捨てれば、可笑しそうに声を上げて笑った。何が面白いのだろう。

「んーなんでだろう。ああ見えて、バルドゥールは結構モテるんだけどね」

 両手を上に伸ばして、そのまま頭の後ろに組んだルークは、あっけらかんと私が苛立つことを口にする。そんな彼に私は思いっきり冷たい視線を投げつけた。

「………そういう問題じゃないです」
「じゃ、どういう問題?」

 間髪入れずに問いかけられ、ムッとしたまま口を開いた。

「あの人の存在が嫌なんです。だから、あの人の声を聞くのも、触れらるのも、ましてや抱かれるなんて、虫酸が走ります」
「うわー、全否定きたー」

 言葉とは裏腹に、ルークは可笑しそうに手を叩く。

 別の話なら、ノリが良いと評されるだろう仕草だけれど、内容が内容だけに、私を煽っているとしか思えない。

 でも、正直言ってこの異世界で一番話しやすいのもルークだった。というか、会話ができる人間は彼しかいない。

 だから恥を忍んで、バルドゥールに抱かれ始めてからずっとずっと不安に思っていることを口にした。

「……そ、それに.........あの人は、女性に対して気遣いというか、予防というか……そういうことに全く無頓着なんです。このまま彼に抱かれていたら、その……」
「あー妊娠の心配?」

 言いずらい質問を引き継いで貰えたことはありがたいので、そこは素直に頷く。

 でも今更遅いのかも……という不安がある。

 実はこの世界に来て、私は一度も女性のアレが来ていない。最初はストレスだと思っていた。でもそれ以外の理由、はっきり言ってしまえば妊娠したかもという不安をずっと抱えていた。

 もし本当に妊娠していたら……なるべく考えないようにしていたが、いざ口にしてみると、自分が思っている以上に不安で指先が冷たくなる。

 私はバルドゥールの子を産まなければならないのか。それとも、宿ったばかりの人間と呼ぶには小さすぎる生き物を、人工的に処分しないといけないのか。

 どちらも嫌だ。怖い。親に捨てられた私が母親になる覚悟なんて持ち合わせていないし、人工的に処分するにしても、この世界の方法など想像すらつかない。

 ただ、どちらも未曾有の経験で、苦痛を伴うものであることは間違いない。

 そんなことを考えていた私は、全身がカタカタと震え出す。それをルークに気付かれたくない私は、きゅっと掛布を握りしめて、誤魔化そうとした。けれど────。

「ははっ。言ってなかったっけ?僕たちは常に避妊薬を飲んでるから、そっちの心配はいらないよ」

 つまり、私の周期が乱れているだけのようだ。途端に力が抜ける。

 あからさまに、ほっとした表情を浮かべた私に、ルークはこれで問題解決だねーと呑気に笑う。いや、何一つ問題は解決していない。

 ただこの人に向かって、これ以上の不平不満をぶつけたところで、どうなるというのだろう。

 この緩い口調、軽いノリ、吐いてスッキリする愚痴なら、うってつけの存在だが、真剣な相談には全くもって向いていない。

 ルークは髪も瞳も柔らかい色で、話し方も威圧的ではない。

 きっと誰でも柔和な印象をうけるだろう。そして、バルドゥールだって無愛想で目つきは悪いが、それでも美丈夫と呼ばれる部類だ。

 そんな彼らは、女性には不自由していないのだろう。そして女性が全力で拒むことなどしないと決めつけている。

 ………こういった人種に何を言っても無駄なのかもしれない。言うだけ無駄か。

 そんなふうに思わずため息をついた私に、ルークはひょいと覗き込んで口を開いた。

「そんな君に提案があるんだけど……って、聞きもしないで睨むのはやめてくれよ」

 どうやら気付かないうちに、胸の内のイライラが顔に出てしまっていたようだ。軽く喉を鳴らして、どうぞと続きを促す。

「あのね、僕が君を受け持つことにするよ」
「……え?………はぁ?」

 思わず間抜けな声を出してしまった後、すぐに意味を理解した私は、どの面下げてと目じりを吊り上げた。

 でもルークは、だよねーと一旦同意を見せるも、すぐに淡々と説明を始めた。
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