11 / 133
◆◇第一幕◇◆ 時空の監視者の愛情は伝わらない
ルークからの提案②
しおりを挟む
突拍子もないルークの提案は私にとって何一つメリットがないような気がする。でも今日、彼がわざわざここに来たのは、これを持ちかける為で……。
即断したいのは山々だけれど、ひとまず彼の話を全部聞いてみることにした。
「正直言ってロクな話じゃなさそうですが、一応聞くだけ聞いてみることにします」
「………うわぁ-丁寧語でキツイこと言うねー。ま、いいや。あのね、異世界の人間を受け持つのは、時空の監視者に与えられた役割ってことは、もう知ってるよね。で、これは言ってなかったけど、君は時空の監視者を選べる権利があるんだ」
「……………そうなんですか」
なぜそれをすぐに言わなかったと、ジト目で睨んだけれど、ルークは私の怒りを抑えるように、まぁまぁと言いながら両手を振る。
子供の駄々をなだめるような仕草にイラッとするけれど、ひとまず続きを目で促すことにした。
「言っておくけど、これを言わなかったのは、別に意地悪じゃないよ。バルドゥールは僕の上官にあたる人間。ついでに言えばバルドゥールより、上位の人間はいない。だから彼が適任だと思っていたんだ───……って、ごめんごめん。そう睨まないで」
睨むだけで済んでいることに、むしろ感謝をして欲しい。
本当になぜそれを早く言ってくれなかったんだ。彼とは初対面ではない。2回目に会った時に私にそれを伝えることはできたはず。なのに、言わなかった。それを悪意と呼ばず、何と言おう。
ついでに言えば、2回目に顔を会わせた時、私は不機嫌なんてものじゃない程、不機嫌だった。でもルークは、息の根を止めたくなるような、爽やかな笑顔で自己紹介をした。そのことは私は一生忘れない。
そんなふうに、つらつら恨み節が出てくる。が、ルークはそれに気付いているはずなのに、さらりと無視して再び口を開いた。
「で、時空の監視者はバルドゥール以外にもいる。でもきっと君は、抱かれるなら誰でも同じだと思うだろうね。………あ、そこは速攻で頷くんだ。うん、予想通りだね。でも聞いて、僕は他の時空の監視者とは違う。だから、僕を選べばいい。なぜかというと、ね.........」
そこでルークは、急に真面目な顔になった。
「僕は君を抱かない」
きっぱりと言い切ったルークに息を呑む。そんな私に構わず彼は、更に言葉を重ねた。
「君が誰にも抱かれたくないなら、僕は君を無理矢理、抱いたりしない。約束する」
「…………本当に?」
恐る恐る問うた私に、ルークは力強く頷いた。
「約束する。何なら君に護身用の武器でも渡そうか?僕が居る時にずっと鞘を抜いて、刃を向けていたってかまわないよ」
それは口約束ではなかった。ルークは懐から短剣を取り出して、私の膝に放り投げた。
「こっちの方が安心かもしれないけど、君にはちょっと扱いにくいから」
ルークは自分の腰に差していた剣を軽く叩きながら、私に同意を求めた。
もちろん私としても、こんな扱いにくいファンタジーの世界で使われる剣より、使い勝手のよさそうな短剣の方がありがたい。
そういうことで、同意することを伝え、さっそく膝の上に置かれた短剣の鞘を抜いてみる。良く切れそうだ。服も、皮膚も、肉も。
「但し、条件がある。これを自殺に使わないで」
読まれていた。ぐっと言葉が詰まった私に、ルークは短剣を指さしながら口を開いた。
「この短剣、一応僕の宝物なんだ。さすがにそれで死んでもらうと、僕もいい気分にはならないから」
それは確かに気分が悪いだろう。
「……わかりました」
そして短い時間で考える。ルークと共に過ごすという選択は正しいのかどうかを。といっても、これからもバルドゥールの元に留まるという選択肢は端から無い。
私が悩んでいるのは、ルーク以外の時空の管理者の元へ行くか、行かないか。それだけだ。
本音を言えば、ルークの元で過ごすことも嫌だ。
あれだけの事をされたのだ。あっさりと手のひらを返したように、彼を信用することはできない。でも、彼は私を抱かないと約束してくれた。………これはものすごく心がぐらつく。
そんなわけで、私は彼を選定すべく質問をした。
「ルークさん以外に、私を抱かないでいてくれる時空の監視者っていますか?」
「いないよ」
「………それ、本当ですか?」
「そんなに疑うなら、他の人を選べば良いよ。で、実際どうなのか試してみれば良い。それから僕を選んだってかまわないよ」
そう言われてしまえば、妙に説得力がある。ここは信用するしかない。なら、抱かれないというのは最低条件だけれど、もう一つ約束を貰わないと、ルークを選ぶことはできない。
「ルークさんは、私を殴ったりしませんか?」
「約束する。絶対に殴らない。ついでに言えば、君に用意する部屋は窓に鉄格子はないよ」
最後の一言にものすごく惹かれた。
抱かれない、殴られない、鉄格子が無い。これは、今の私において、なかなか好条件だ。いや、かなりの好条件だ。これは決断するしかない。
私は一旦、ルークの短剣を膝に置き姿勢を正した。
「私、ルークさんを選びます」
ぺこりと頭を下げた私に、ルークは満足そうに顔をほころばせた。そして、握手を求めるように手を差し伸べてきた。けれど、その手は無視させていただく。
何事も最初が肝心だ。極力、彼らの言いなりには、ならないようにする。
扱いやすいなどと思われては、約束をあっさりと破られそうだから。それに必要以上に彼らに触れたくないのも本音。
という理由で、すまし顔で両手を掛布の中にしまい込んだ私に、ルークは苦笑を漏らしたけれど、執拗に求めることはしなかった。
「えっと……じゃ、これからよろしく。ああ、バルドゥールには、僕から伝えておくから」
そうしてもらえるとありがたい私は、これもまた素直に頷いた。
────今思えば、ルークはあの時、穏便に済むなど一言も言わなかった。
それについてちょっと懸念があった。
そしてその懸念は的中してしまった。けれど、あの時は浮かれていて、馬鹿な私は、それに気付くことができなかった。
即断したいのは山々だけれど、ひとまず彼の話を全部聞いてみることにした。
「正直言ってロクな話じゃなさそうですが、一応聞くだけ聞いてみることにします」
「………うわぁ-丁寧語でキツイこと言うねー。ま、いいや。あのね、異世界の人間を受け持つのは、時空の監視者に与えられた役割ってことは、もう知ってるよね。で、これは言ってなかったけど、君は時空の監視者を選べる権利があるんだ」
「……………そうなんですか」
なぜそれをすぐに言わなかったと、ジト目で睨んだけれど、ルークは私の怒りを抑えるように、まぁまぁと言いながら両手を振る。
子供の駄々をなだめるような仕草にイラッとするけれど、ひとまず続きを目で促すことにした。
「言っておくけど、これを言わなかったのは、別に意地悪じゃないよ。バルドゥールは僕の上官にあたる人間。ついでに言えばバルドゥールより、上位の人間はいない。だから彼が適任だと思っていたんだ───……って、ごめんごめん。そう睨まないで」
睨むだけで済んでいることに、むしろ感謝をして欲しい。
本当になぜそれを早く言ってくれなかったんだ。彼とは初対面ではない。2回目に会った時に私にそれを伝えることはできたはず。なのに、言わなかった。それを悪意と呼ばず、何と言おう。
ついでに言えば、2回目に顔を会わせた時、私は不機嫌なんてものじゃない程、不機嫌だった。でもルークは、息の根を止めたくなるような、爽やかな笑顔で自己紹介をした。そのことは私は一生忘れない。
そんなふうに、つらつら恨み節が出てくる。が、ルークはそれに気付いているはずなのに、さらりと無視して再び口を開いた。
「で、時空の監視者はバルドゥール以外にもいる。でもきっと君は、抱かれるなら誰でも同じだと思うだろうね。………あ、そこは速攻で頷くんだ。うん、予想通りだね。でも聞いて、僕は他の時空の監視者とは違う。だから、僕を選べばいい。なぜかというと、ね.........」
そこでルークは、急に真面目な顔になった。
「僕は君を抱かない」
きっぱりと言い切ったルークに息を呑む。そんな私に構わず彼は、更に言葉を重ねた。
「君が誰にも抱かれたくないなら、僕は君を無理矢理、抱いたりしない。約束する」
「…………本当に?」
恐る恐る問うた私に、ルークは力強く頷いた。
「約束する。何なら君に護身用の武器でも渡そうか?僕が居る時にずっと鞘を抜いて、刃を向けていたってかまわないよ」
それは口約束ではなかった。ルークは懐から短剣を取り出して、私の膝に放り投げた。
「こっちの方が安心かもしれないけど、君にはちょっと扱いにくいから」
ルークは自分の腰に差していた剣を軽く叩きながら、私に同意を求めた。
もちろん私としても、こんな扱いにくいファンタジーの世界で使われる剣より、使い勝手のよさそうな短剣の方がありがたい。
そういうことで、同意することを伝え、さっそく膝の上に置かれた短剣の鞘を抜いてみる。良く切れそうだ。服も、皮膚も、肉も。
「但し、条件がある。これを自殺に使わないで」
読まれていた。ぐっと言葉が詰まった私に、ルークは短剣を指さしながら口を開いた。
「この短剣、一応僕の宝物なんだ。さすがにそれで死んでもらうと、僕もいい気分にはならないから」
それは確かに気分が悪いだろう。
「……わかりました」
そして短い時間で考える。ルークと共に過ごすという選択は正しいのかどうかを。といっても、これからもバルドゥールの元に留まるという選択肢は端から無い。
私が悩んでいるのは、ルーク以外の時空の管理者の元へ行くか、行かないか。それだけだ。
本音を言えば、ルークの元で過ごすことも嫌だ。
あれだけの事をされたのだ。あっさりと手のひらを返したように、彼を信用することはできない。でも、彼は私を抱かないと約束してくれた。………これはものすごく心がぐらつく。
そんなわけで、私は彼を選定すべく質問をした。
「ルークさん以外に、私を抱かないでいてくれる時空の監視者っていますか?」
「いないよ」
「………それ、本当ですか?」
「そんなに疑うなら、他の人を選べば良いよ。で、実際どうなのか試してみれば良い。それから僕を選んだってかまわないよ」
そう言われてしまえば、妙に説得力がある。ここは信用するしかない。なら、抱かれないというのは最低条件だけれど、もう一つ約束を貰わないと、ルークを選ぶことはできない。
「ルークさんは、私を殴ったりしませんか?」
「約束する。絶対に殴らない。ついでに言えば、君に用意する部屋は窓に鉄格子はないよ」
最後の一言にものすごく惹かれた。
抱かれない、殴られない、鉄格子が無い。これは、今の私において、なかなか好条件だ。いや、かなりの好条件だ。これは決断するしかない。
私は一旦、ルークの短剣を膝に置き姿勢を正した。
「私、ルークさんを選びます」
ぺこりと頭を下げた私に、ルークは満足そうに顔をほころばせた。そして、握手を求めるように手を差し伸べてきた。けれど、その手は無視させていただく。
何事も最初が肝心だ。極力、彼らの言いなりには、ならないようにする。
扱いやすいなどと思われては、約束をあっさりと破られそうだから。それに必要以上に彼らに触れたくないのも本音。
という理由で、すまし顔で両手を掛布の中にしまい込んだ私に、ルークは苦笑を漏らしたけれど、執拗に求めることはしなかった。
「えっと……じゃ、これからよろしく。ああ、バルドゥールには、僕から伝えておくから」
そうしてもらえるとありがたい私は、これもまた素直に頷いた。
────今思えば、ルークはあの時、穏便に済むなど一言も言わなかった。
それについてちょっと懸念があった。
そしてその懸念は的中してしまった。けれど、あの時は浮かれていて、馬鹿な私は、それに気付くことができなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
放蕩な血
イシュタル
恋愛
王の婚約者として、華やかな未来を約束されていたシンシア・エルノワール侯爵令嬢。
だが、婚約破棄、娼館への転落、そして愛妾としての復帰──彼女の人生は、王の陰謀と愛に翻弄され続けた。
冷徹と名高い若き王、クラウド・ヴァルレイン。
その胸に秘められていたのは、ただ1人の女性への執着と、誰にも明かせぬ深い孤独。
「君が僕を“愛してる”と一言くれれば、この世のすべてが手に入る」
過去の罪、失われた記憶、そして命を懸けた選択。
光る蝶が導く真実の先で、ふたりが選んだのは、傷を抱えたまま愛し合う未来だった。
⚠️この物語はフィクションです。やや強引なシーンがあります。本作はAIの生成した文章を一部使用しています。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる