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◆◇第一幕◇◆ 時空の監視者の愛情は伝わらない 

♪最後の凌辱①

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 ルークが、それじゃあと退出の挨拶をして立ち上がり、バタンと扉が閉じられた瞬間、私は久しぶりに心からの笑みを浮かべることができた。ついでに、元の世界でも滅多にすることのないガッツポーズまでやってみた。

 バルドゥールにもう二度と抱かれなくて済む。ここから出られる。それはつまり、私は自由を得られるというわけで。

 そのことがじわじわと実感してきて、小躍りしたい気分だ。掌の傷も、名誉の負傷と思えば痛くない。

 ………と、喜んでいられたのは、ほんのひと時だった。






 今日も今日とて殆ど手をつけないまま食事が下げられる。でも、カイナの無言の抗議も、痒い程度だ。

 そして独りになった部屋で私はベッドの上で浮き浮きと、これからの自分の身の振り方………と言えばしおらしいけれど、ルークの元に行った後の逃亡計画を練り始めた。

 まず、初日に逃亡はさすがにできないだろう。向こうも警戒をしているだろうし。そうなれば3日間は大人しくするべきか。それと、ルークの屋敷を逃げ出した後、どうするか、だ。

 バルドゥールは元の世界には戻れないと言っていた。でも、怪しいものだ。本当かどうか確かめる必要もある。それにもし彼の言う通りなら、私はこの世界で生きて行かなければならない。

 言っておくけれど私は自殺願望があるメンヘラ女子ではない。逃げることすらできないから、最悪の選択をしただけだ。

 ルークの元から無事に逃げ出すことができて、自由の身にさえなれば、自立して生活していこうと思っている。

 と、なれば仕事とお金が必要だ。

 いやまず夜着以外の服が必要だ。ルークの屋敷をこんな格好で飛び出したところで、外の人間に不審がられること間違いない。そして通報され、あっけなく掴まる………嫌だ、そんなの絶対。

 なら、ここは一つルークに媚でも売って、夜着以外の服を入手しなければならない。

 しかし、それはすぐに叶えられることなのだろうか。やはり何かしらの取引をしなくては、ならないのか………と、私はかつてない程、これから先のことについて綿密に考えていた、が───。






「ルークから聞いた」

 突然部屋に飛び込んできたのは、怒りをぎりぎりに抑えた、バルドゥールの低い声だった。

 ベッドの上で枕を抱えて胡坐を組んでいた私は、当然の如く飛び上がらんばかりに驚いた。脱出計画を練ることに没頭しすぎて扉の開く音にすら全く気付かなかったのだ。

 そして枕を抱えたまま、固まってしまった私に、バルドゥールはコツコツと足音を響かせながらこちらに向かって来た。

「ルークの元に行くだと?そんなことが許されると思うのか?」
「私には選択権があります」

 選択の自由を知った今、この人に対して怯える必要などない。

 すぐに我に返った私はベッドから降りて、凛と背筋を伸ばして言い切った。けれど、そんな私に、バルドゥールは鼻で笑って、こう言ったのだ。

「────だからどうした?」
「どうしたって……その………」

 開き直りとも取れる発言に、私の方がたじろいでしまう。

 けれど、ここでうろたえる素振りなど見せてはいけない。ここは断固として、毅然とした態度で対応しなければならない。

「私はあなたの元から離れることができる権利があって、あなたは私の選択を阻止する権利はないということです。と、いう訳で────」
「絶対にここから出さない」

 ここから出て行ってください。そう言いかけたが、バルドゥールに遮られてしまった。しかも、問答無用で手が伸ばされる。

 実力行使などされてたまるかと私は身体を捻って、彼の手を避けようとした。けれど、バルドゥールは驚くほどの素早い動きをした。

 大きな手が私の夜着に触れたと思った途端、布地が引き裂かれる悲鳴のような音が聞こえた。一拍置いて、素肌に冷たい空気を感じて、夜着を引き裂かれたことを知る。

 私が着ている夜着は衿元をリボンで絞って着るゆったりとしたもの。言いかえれば、リボンを解けば、上からでも下からも脱がすことができるもの。

 けれど、バルドゥールは夜着を力任せに引き裂いたのだ。

 リボンを解く手間すら惜しんで。それ程までに彼は怒り心頭なのか、それとも、私をモノのようにしか見ていないのか。ああ、あれだ。お気に入りのおもちゃを奪われた心境なのかもしれない。

 正直言って、バルドゥールの気持ちなど、どうでもいい。考えたくもない。だって一度だって彼は私の言葉に耳を貸してくれたことはなかった。

 そんな人間にこれ以上、傍若無人に振舞われるなんて我慢ができない。

 あられもない姿を見られたくなくて、私は両手で胸を覆い身体を捩りながらも、バルドゥールに向かって噛みついた。

「触らないで下さい。もう、あなたは私を抱く権利なんてないです」
「黙れ」
「今すぐこの部屋から出て行って」
「黙れ」
「あなたが出て行かないなら、私が出ていきます」
「───………黙れ!」
 
 最後は野獣の咆哮のようだった。

 胸を覆い隠したまま私はバルドゥールに持ち上げられ、ベッドに放り出される。スプリングが揺れを感じる前に、彼は私に覆いかぶさってきた。

「俺の元から離れるだと?ここから出ていくだと?────誰がお前を手放すものか」

 それは悪魔の呻き声より、もっともっとおぞましいものだった。

 ひっと声にならない悲鳴を上げた途端、力任せに胸を揉みしだかれる。あまりの強さに、今にも引きちぎられそうな痛みで顔を歪めてしまう。

 けれど、彼は更に私の背に腕を回して、自分の元へと引き寄せた。

「────............あっ」

 突然、胸の先端を口に含まれ、思わず声が出る。

 そんなことをされるのは初めてだった。いつも彼は私を抱くときは、最低限のところしか触れなかった。舌で転がすように先端を弄られ、声にならない声が漏れる。

「……あっ、いや……────っ痛」

 左右の胸の先端を吸われ転がされ、初めての感覚に戸惑いを覚えた途端、同じ場所から鋭い痛みが走った。

 恐る恐る痛む個所に視線を向ければ、そこには薄っすらと歯型が付いていた。

 バルドゥールが噛みついたのだ。怒りに任せてこんなことをするなんて、酷い。ひど過ぎる。この男は人間じゃない、ケダモノだ。

「あなたなんて大っ嫌いっ」

 ズキズキと痛む個所を手で押さえながら、ありったけの憎悪を込めて睨みつければ、バルドゥールは底冷えのするような笑みを私に向けた。

「そんな言葉で終わりにできると思っているのか?」

 感情など微塵もない冷淡な物言いだった。

 駄目だ。この人には、私の持っている全てをぶつけても、何も伝わらない。抗うことが酷く無駄なことに思えて虚無感に苛まれる。

 そして糸の切れた操り人形のように、力が抜けていく。胸の上に置いていた手ですらも、だらりと滑り落ちてしまった。そんな私を見下ろしながら、バルドゥールは自分の下衣を寛がせる。

 ああ、今日は10日目じゃないのに、抱かれてしまうんだ。そんなことを考えた瞬間、バルドゥールに腰をつかまれ、一気に中に押し込まれてしまった。潤滑剤すら塗られずに。

「痛いか?苦しいか?」

 潤滑油すら塗られていない状態で彼のものをねじ込まれたのだから、痛いし苦しいのは当たり前だ。それをわざわざ問い掛けるのは、私を煽っているから。誰が頷くものか。

 睨みつけた途端、私にバルドゥールは笑みを向けた。

「今夜は容赦しない」

 くつくつと喉を鳴らして、バルドゥールは更に深く深く私の中に沈み込む。最奥を貫かれ、私は喘ぐような息を漏らすことしかできなかった。
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