司令官さま、絶賛失恋中の私を口説くのはやめてください!

茂栖 もす

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私と司令官さまの始まり

目覚めてびっくり、ここはどこ?

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 お酒も飲んでいないはずなのに、ふわんふわんとした浮遊感で私はぱちりと目を開けた。………けれど、すぐに目を閉じた。

 だって、いきなり知らない天井が飛び込んできたから。

 でも、このまま目を閉じていても仕方がないと判断した私は、恐る恐る目を開ける。……やっぱり知らない場所だった。

 はて?と首を傾げながら身体を起こせば、自分はベッドに居た。ちなみに動いてもスプリングがギシギシいわない。

 つまり昨晩ショートホームステイさせていただいた牢屋でもない。じゃあ、どこなのだろう。

 部屋をぐるりと見渡せば、アイボリー色を基調とした調度品がほとんどないシンプルなお部屋。窓はあるけれど、ぶ厚いカーテンで閉じられている。

 でも、僅かに差し込む陽の光で、今が朝だということはわかった。つまり私は、尋問会が終わってから翌朝までがっつり寝てしまっていたということ。……ここで?いや、違う。多分。

 そんな自問自答を繰り返しながら、私は、再び首の角度を傾けて、これまでの記憶を辿ってみた。

 





 昨日、自分の失恋に終止符を打ったのと同時に、本格的な審判が始まったところまでは覚えている。

 ただ、どんな内容だったのかは覚えていない。

 実は私、空腹も覚えていたけれど、あの時、とにかく眠かった。多分、緊張感びんびんの審判中に私はかっくんこっくん船を漕いでいた。間違いなく。

 だって、長テーブルが行ったり来たりしていたもん。そこに額をぶつけなかったのは、奇跡としか言いようがない。

 そんでもって……ああ、そうだ。警備兵の一人に促され、私はその場を退席したんだ。そして、自分の部屋に戻った。でも、そこから覚えていない。あれぇ?

 結局、記憶を辿ってみたけれど、謎は深まるばかり。

 そして、もしかして夢遊病よろしく、ふらふら施設内を徘徊して、知らない誰かの部屋にお邪魔したかもしれないという不安がむくりと湧き上がる。

 どうしよう。私、寝相は悪いのは認めるけれど、まさか……。

 そんなふうに、いたたまれない気持ちになって顔を覆った瞬間、ガチャリと扉が開く音がした。

「───……起きたか?」

 ゆるゆると顔を上げれば、司令官さまがいた。

 本日も、ぱりっと皺一つない濃紺の軍服を着て、ビシッとタイを閉めて。真っ白な手袋をはめて。

 でも、ここで予期せぬ人物の登場に、私は更に混乱を極めてしまう。

 ただ、どこぞの訓練された犬のように細胞レベルで無視できないことを覚えた私は、ぼぉーっとした口調で、曖昧に答えてみる。

「………多分そのような気がします」

 でも、そんな緩い返事をする私の心の中は、ばっくばくだ。

 だって私、鉄格子越しに司令官さまに対して、ものっくそ失礼な態度を取ってしまったのだ。

 そして、醜い本心を吐露したというに、あっさり翌日、ドヤ顔決めて失恋決別宣言をしたのだ。

 ………でもって、私、司令官さまに対して、恋をしていると自覚してしまったのだ。もう既に、司令官さまアジェーレさんとデートをしている仲だというのに。

 ねぇ、今、私、どんな顔をしたら良いのだろう。誤魔化して笑う?乙女のように、はにかむ?それとも申し訳なさそうにする?いや、逆ギレでもしてみる?

 ちょい待て、私。間違っても、最後の選択だけはしてはいけない。

 そんなふうに脳みそフル回転で色んなことを考える。けれど、司令官さまは、私の静かなパニックに気付いてはくれなかった。

「鍵もかけずに寝るとはどういうことだ?」
「………はぁ、すいません。ちょっとそこら辺覚えていないのですが、多分、忘れてました」
「何が忘れてていただ。まったく君は、危機意識が足りない。今後このようなことがないよう気をつけるように。それとこの注意は2度目だ」
「………はぁ、わかりました」
「一つ確認だが、返事の前に、間があるってことはまだ寝ぼけているのか?」
「………かもしれません」

 会話に間があるのは、矢継ぎ早に意味不明な小言と質問を頂戴したせいと、未だにパニック状態から抜け出せないからだ。

 でも、司令官さまは、大変いつも通りに接してくれている。小言のキレに関しては、いつもより冴えわたっている。

「あのぉ……えっと……」

 とりあえず、気持ちを落ち着かすために、適当な言葉を紡いでみた。

 でも続きの言葉が見つからない。鉄格子越しの会話の件をどうやって切り出して良いかわからないし、何より自分の気持ちがまだ落ち着いていない。

 そんな私に、司令官さまは呆れ交じりにこう言った。

「とりあえず、風呂に入って目を覚ましてこい。内側から鍵がかかる。それと、君が目を覚ますのがいつかわからなかったから、湯を3度入れ替えた。………失敬。これは言わなくて良いことだったな」

 ええ本当に。

 と、いう憎まれ口は心の中で封印して、私は素直にベッドから起き出す。そして司令官さまの後ろをくっついて部屋を出れば、ぴたりと足が止まった。

 だってここ、毎度おなじみの───執務室だったから。

「あの、司令官さま………」
「なんだ?バスタオルなら、脱衣所にあるぞ」
「いえ、そうじゃなくて、この部屋に私が居るのは………」
「私が運んだに決まっているだろう」

 空は青い。水は透明。鳥は空を飛ぶ。

 そんなニュアンスで紡いだ司令官さまの言葉を一生懸命、理解しようとした。……けれど、無理だった。

「なんで、運んだんですか?」
「君の部屋は内側からしか鍵がかからないからだ。寝ている君に代わって、部屋の鍵をかければ私は強制的に君と2人っきりになってしまう。………だから、ここに連れてきた」
「…………は?」

 なんだか大事な部分を端折られてしまい、私は間の抜けた声しか出せない。

 そんな私に司令官さまは、眉間に皺を寄せる。ただちょっとその表情は拗ねたものだった。

「察しが悪いな。それとも、まだ目が覚めていないのか?とにかく、君の香りがする部屋で2人っきりになれば、自制がきかない。だが、ここなら別の部屋で仕事ができるし、気がまぎれる。なにより、近くにシアがいれば私は安心できる。………これで納得できたか?」
「………………」

 何をどう納得すれば良いのかわからない。だから、無言でいるしかない。

 そんな私を司令官さまは、どう受け止めたのかわからない。けれど、ちょっと眉を上げて、こう言った。

「できても、できなくても、とにかく風呂に入ってこい。その間に食事を持ってくる。………私も、色々と君に話がある」

 最後になかなかの言葉の爆弾を落としてくれた司令官さまは、軽い足取りで部屋を出て行った。

 ただ、扉を閉めた途端、かちゃりと音がした。

 え?ん?監禁?

 そんな言葉が脳裏をよぎったけれど、ここは2階。本気を出せば窓から脱出できると判断した私は、とにかく言われた通り、お風呂に入ることにした。
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