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始まりの章
ちょっとお遣いを頼まれました②
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おおよそ寝るのには相応しくない寒くて狭い社の中、私は気合と根性だけで、まどろみの中へ落ちていった。けれど……。
「────………、………て」
夢と現の狭間で、声が聞こえてきた。
「ねえ、ちょっと、君、起きてよ」
耳元で聞こえる声は、男の人のようである。そして、どうやら私に向かって話しかけているようだ。何だか嫌な予感がする。とりあえず、嘘寝をしてやり過ごそうと思ったけど、すぐに呆れた声が振って来た。
「あのさぁ、狸寝入りしてるのバレバレだよ」
「…………!?」
そっかバレてましたか。
でも、それを認めるのが悔しくて、私は今起きたというテイてゆっくり目を開けた。けれど……。
「……ふぁぁー……────────はぁあああああ!!」
眼前に広がる光景に、欠伸から絶叫に変わってしまった。いや、だれでも、この光景をみたら絶叫するだろう。
私がいるのは真っ白な空間、ただそれだけ。一言で説明するなら『無』という言葉が一番適切であろう。本当に何もないのである。そして、私の頭も真っ白になった。
「いやーどうも、はじめまして」
ポカンと口を開けた状態で放心していたら、突然にゅっっと青年が私の顔を覗き込んだ。しかも、逆さまの状態で。
「うわぁあああああ!」
絶叫、再び。
それにしても、私の絶叫、全然、可愛くない。でも突然目の前に逆さづりの男が現れたら、可愛く『きゃぁ』なんて言える女子はいない。多分……そう思いたい。
そして、叫ばれた青年は気を悪くするどころか、笑顔でくるりと回転して私と向かい合った。
「驚かせちゃった?ごめん、ごめぇーん」
あ、この謝り方知っている。絶対悪いと思ってない時に使う謝り方だ。眼前の青年に向かって、私は思いっきり睨みつけた。
それにしても、この人は一体、何者だろう。
見た感じ、二十歳は過ぎているけど、二十代後半じゃない感じ。お兄さんとかって呼べる感じかな。
でも、服装はヤバイ。着物のようで、着物ではない。襟を合わすところとか、袖がばさばさしているところとか、帯をしめているところは着物に似ているけど、やたらとジャラジャラと宝飾品をつけている。重くないんですか?それ。
はっきり言ってこの人、絶対に不審者かやばい奴だ。こいつとは口をきかない。無視しよう。そう決心したけど、彼の口から出た言葉で、私の決心は一瞬で消え去った。
「僕、こんな仏頂面の花嫁さんをもらわないといけないのかぁ……あー残念」
その言葉に、私は鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
「あなたが風神なの!?」
そう叫んで、両手で口を覆って、まじまじと見つめる────ワケなどなく、気が付いたら、私は、風神の胸ぐらを掴んで、わさわさ揺すっていた。
「本物!?本当にいたんだ!!」
物心ついた時から、もし風神に会ったら、一言モノ申したいと思っていた。願いが叶って良かったね、私。
でも、残念なことに、一言×(掛ける)十数年分となると口をパクパクするだけで、言葉が出てこない。どうやら、喉で言葉が渋滞しているようです。
今日の為に練習をしてこなかったのが、悔やまれます。
「へぇー僕、風神なんていうふうに呼ばれてるんだ。なんかカッコいいねぇ」
胸ぐらを掴まれ、首をカックンカックンされている風神は、私にされるまま呑気にそう言った。
「ちょっ……え?違うんですか!?」
風神(?)のその発言に、思わず両手を離す。行き場の失った両手は、私の心情を表しているかのように、胸の前で右往左往している。
今、根本から覆すことをさらりと言っちゃいましたよ。焦る私を無視して、風神(?)はこくこくと何度も頷いた。
「うん!僕、そんな大それたものじゃないよ」
「……へぇーそうなんですか……そうだったんだ……」
神結家は、やっぱり詐欺にあっていたようです。オレオレ詐欺ならぬ神神詐欺と呼べば良いのですかね……。
「じゃあ、あなたは何者?」
詐欺師という以外に、名前が思いつかないけど、一応聞いてみる。
「んー……そうだなぁ、君の好きなように呼べば良いよ」
「……詐欺師」
それしか思い浮かばないので、とりあえず口に出してみる。そう名付けられた風神(?)は思いっきり顔を顰めた。
「いや、それ酷くないか!?もうちょっと、こう……別の名前にしてよ」
「じゃ、ジジイで!」
「なんだってー!?」
即答した私に、風神(?)はかっと目を見開いて、すぐに大きいため息をついた。
「……風神でいいよ、もう」
風神(?)は、しょんぼりと肩を落としてそう呟いた。と、いうわけで、今からは風神様は風神さんと呼ぶことにします。
「本当に酷いなぁー、ジジイって言われたの初めてだよ」
風神さんは余程ジジイ呼ばわりされたのが、ショックだったのか、こめかみをぐりぐりと揉みながらブツブツ聞き取れない独り言を呟いている。
かける言葉が見つからないので、私は傍観させていただきます。
「……もう良い、とにかく本題に入ろう」
勝手に浮上した風神さんは、仕切り直しといった感じでコホンと咳ばらいをして、私と向かい合った。
「突然なんだけど、取引をしようよ?」
「──────……は?」
風神さん、本当に突然ですね。
あんぐりと口を開けた私を無視して、風神さんは、淡々と話し続けた。
「君は僕の花嫁になりたくない。でもって、僕は君に頼み事をしたいんだ」
「えっと、頼み事ってなんでしょう?」
是とは言わないけれど、用件だけは聞いておこう。ズルいかもしれないけど、自分を護れるのは、自分しかいないのだ。
ごくりと唾を呑み込む私に、風神さんは笑顔でこう言った。
「お遣いに行ってきてほしいんだ」
…………え、ごめんなさい。風神さん、ちょっと何言ってるのか良くわからないです。
「────………、………て」
夢と現の狭間で、声が聞こえてきた。
「ねえ、ちょっと、君、起きてよ」
耳元で聞こえる声は、男の人のようである。そして、どうやら私に向かって話しかけているようだ。何だか嫌な予感がする。とりあえず、嘘寝をしてやり過ごそうと思ったけど、すぐに呆れた声が振って来た。
「あのさぁ、狸寝入りしてるのバレバレだよ」
「…………!?」
そっかバレてましたか。
でも、それを認めるのが悔しくて、私は今起きたというテイてゆっくり目を開けた。けれど……。
「……ふぁぁー……────────はぁあああああ!!」
眼前に広がる光景に、欠伸から絶叫に変わってしまった。いや、だれでも、この光景をみたら絶叫するだろう。
私がいるのは真っ白な空間、ただそれだけ。一言で説明するなら『無』という言葉が一番適切であろう。本当に何もないのである。そして、私の頭も真っ白になった。
「いやーどうも、はじめまして」
ポカンと口を開けた状態で放心していたら、突然にゅっっと青年が私の顔を覗き込んだ。しかも、逆さまの状態で。
「うわぁあああああ!」
絶叫、再び。
それにしても、私の絶叫、全然、可愛くない。でも突然目の前に逆さづりの男が現れたら、可愛く『きゃぁ』なんて言える女子はいない。多分……そう思いたい。
そして、叫ばれた青年は気を悪くするどころか、笑顔でくるりと回転して私と向かい合った。
「驚かせちゃった?ごめん、ごめぇーん」
あ、この謝り方知っている。絶対悪いと思ってない時に使う謝り方だ。眼前の青年に向かって、私は思いっきり睨みつけた。
それにしても、この人は一体、何者だろう。
見た感じ、二十歳は過ぎているけど、二十代後半じゃない感じ。お兄さんとかって呼べる感じかな。
でも、服装はヤバイ。着物のようで、着物ではない。襟を合わすところとか、袖がばさばさしているところとか、帯をしめているところは着物に似ているけど、やたらとジャラジャラと宝飾品をつけている。重くないんですか?それ。
はっきり言ってこの人、絶対に不審者かやばい奴だ。こいつとは口をきかない。無視しよう。そう決心したけど、彼の口から出た言葉で、私の決心は一瞬で消え去った。
「僕、こんな仏頂面の花嫁さんをもらわないといけないのかぁ……あー残念」
その言葉に、私は鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
「あなたが風神なの!?」
そう叫んで、両手で口を覆って、まじまじと見つめる────ワケなどなく、気が付いたら、私は、風神の胸ぐらを掴んで、わさわさ揺すっていた。
「本物!?本当にいたんだ!!」
物心ついた時から、もし風神に会ったら、一言モノ申したいと思っていた。願いが叶って良かったね、私。
でも、残念なことに、一言×(掛ける)十数年分となると口をパクパクするだけで、言葉が出てこない。どうやら、喉で言葉が渋滞しているようです。
今日の為に練習をしてこなかったのが、悔やまれます。
「へぇー僕、風神なんていうふうに呼ばれてるんだ。なんかカッコいいねぇ」
胸ぐらを掴まれ、首をカックンカックンされている風神は、私にされるまま呑気にそう言った。
「ちょっ……え?違うんですか!?」
風神(?)のその発言に、思わず両手を離す。行き場の失った両手は、私の心情を表しているかのように、胸の前で右往左往している。
今、根本から覆すことをさらりと言っちゃいましたよ。焦る私を無視して、風神(?)はこくこくと何度も頷いた。
「うん!僕、そんな大それたものじゃないよ」
「……へぇーそうなんですか……そうだったんだ……」
神結家は、やっぱり詐欺にあっていたようです。オレオレ詐欺ならぬ神神詐欺と呼べば良いのですかね……。
「じゃあ、あなたは何者?」
詐欺師という以外に、名前が思いつかないけど、一応聞いてみる。
「んー……そうだなぁ、君の好きなように呼べば良いよ」
「……詐欺師」
それしか思い浮かばないので、とりあえず口に出してみる。そう名付けられた風神(?)は思いっきり顔を顰めた。
「いや、それ酷くないか!?もうちょっと、こう……別の名前にしてよ」
「じゃ、ジジイで!」
「なんだってー!?」
即答した私に、風神(?)はかっと目を見開いて、すぐに大きいため息をついた。
「……風神でいいよ、もう」
風神(?)は、しょんぼりと肩を落としてそう呟いた。と、いうわけで、今からは風神様は風神さんと呼ぶことにします。
「本当に酷いなぁー、ジジイって言われたの初めてだよ」
風神さんは余程ジジイ呼ばわりされたのが、ショックだったのか、こめかみをぐりぐりと揉みながらブツブツ聞き取れない独り言を呟いている。
かける言葉が見つからないので、私は傍観させていただきます。
「……もう良い、とにかく本題に入ろう」
勝手に浮上した風神さんは、仕切り直しといった感じでコホンと咳ばらいをして、私と向かい合った。
「突然なんだけど、取引をしようよ?」
「──────……は?」
風神さん、本当に突然ですね。
あんぐりと口を開けた私を無視して、風神さんは、淡々と話し続けた。
「君は僕の花嫁になりたくない。でもって、僕は君に頼み事をしたいんだ」
「えっと、頼み事ってなんでしょう?」
是とは言わないけれど、用件だけは聞いておこう。ズルいかもしれないけど、自分を護れるのは、自分しかいないのだ。
ごくりと唾を呑み込む私に、風神さんは笑顔でこう言った。
「お遣いに行ってきてほしいんだ」
…………え、ごめんなさい。風神さん、ちょっと何言ってるのか良くわからないです。
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