サングレアル ―王の血脈―

フジーニー

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第一章

第五話 掲げられなかった看板

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___翌朝、午前四時。

まだ空は暗い。

ヒマレは自然と目を覚ました。

「……寝すぎたかな」

体を起こし、背を伸ばす。

不思議と頭は冴えている。

昨日のことが胸の奥で弾んでいた。

シャワーを浴びながら、無意識に鼻歌がこぼれる。

何の曲かは自分でも分からない。

ただ、嬉しいときに出る旋律。

身支度を整え、鏡の前で軽く笑う。

「よし」

看板。

その文字を思うだけで足が浮く。

外はまだ静かだ。

鳥の声もない。

町は眠っている。

だがヒマレの足取りは軽い。

角を曲がる。

遠くに見えるはずの、木目の建物。

――そのはずだった。

赤。

煙。

炎。

「……え?」

足が止まる。

瞬き。

もう一度見る。

燃えている。

子ども食堂が。

「どうして」

思考より先に体が動いた。

走る。

熱気が肌を刺す。

それでも止まらない。

数メートル手前でようやく足が止まる。

轟々と燃え上がる炎。

昨日までの木の香りは、焦げた匂いに変わっていた。

周囲には数人の町民。

皆、言葉を失っている。

その中から、震える声。

「ヒマレ……」

イルミだった。

顔は蒼白。

目は涙で潤んでいる。

「ようやくだったのに……」

声が崩れる。

ヒマレは両肩を掴む。

「消防は?」

「呼んだ……でも、もう……」

建物の一部が崩れ落ちる。

火の粉が舞う。

看板はまだ付いていない。

名前は、掲げられなかった。

そのとき。

どこからともなく、声が響いた。

「どーもー」

間延びした声。

不自然なほど明るい。

「今日からこの町、僕のものになりまーす」

凍る空気。

「逆らう人は、死刑ね」

姿は見えない。

町民がざわめく。

「どこにいる!」

ヒマレが叫ぶ。

「ここでーす」

炎の向こう。

屋根の上に立つ影。

黒い外套。

にやけた口元。

「この建物、僕が燃やしました」

沈黙。

次の瞬間。

イルミが叫ぶ。

「降りてこい!!」

怒りが空気を震わせる。

男が笑う。

そして。

視界から消えた。

一瞬。

次の瞬間には、イルミの目の前。

誰も追えなかった。

魔法。

男はゆっくりと周囲を見渡す。

「いい町だね。水も、空気も」

口角が上がる。

「ワイン、世界的に有名なんだって?」

誰も答えない。

男は片手を掲げる。

空中に魔法陣が浮かび上がる。

「バロンドーム家直轄地とする」

その言葉が落ちた瞬間。

ミサト町の運命は変わった。
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