サングレアル ―王の血脈―

フジーニー

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第一章

第四話 嵐の前の町

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___遡ること二年前。

まだミサト町が、穏やかな時間に包まれていた頃のこと。

西日に照らされた小川がきらめき、
澄んだ水のせせらぎが町を静かに流れている。

人口一万人ほどの小さな町。

だが水は澄み、作物は実り、
その味の良さから移り住む者も増えていた。

スカイブルーを基調とした建物が並ぶ町並みは、
どこか誇らしげに、夕焼けに染まっていた。

「ようやく完成しましたね」

ヒマレが建物を見上げる。

「大変だった分、なんだか込み上げます」

「間に合ってよかったよ」

隣で笑う黒髪の女性――イルミ。

「来月のオープンに間に合わなかったら、格好つかないからね。ありがとう、ヒマレ」

二人の前には、木目調の平屋建て。

まだ新しい木の香りが漂っている。

子ども食堂。

町の寄付と、二人の奔走でようやく形になった。

「きっと素敵な場所になります」

ヒマレは言う。

「町の皆の想い、ちゃんと詰まってますから」

イルミは少し照れくさそうに笑った。

「私は、この町に育てられたからね」

風が吹く。

「両親を早くに亡くして、正直つらかった。でも、町の人達がいたから今がある。だから今度は私が返す番」

強い言葉だが、声は柔らかい。

「世界中の子どもを助けたい、なんて言ったら笑われるかな」

「笑いませんよ」

ヒマレは即答する。

「叶えましょう。一緒に」

一拍。

「そうだ、うちの工場のブドウジュース、出せたら最高じゃないですか?」

イルミの目が輝く。

「それ、絶対いい」

二人は顔を見合わせて笑った。

「ところで、名前は?」

ヒマレが建物を見る。

「内緒」

イルミがいたずらっぽく笑う。

「今夜、看板をつけるの。明日の朝のお楽しみ」

「ずるいです!」

「楽しみにしてて」

夕日が沈みかけている。

「じゃあ、私は帰ります。夜勤明けでちょっと限界です」

「無理しないでね。また明日」

「はい、また明日!」

ヒマレは軽い足取りで帰路につく。

胸の中は期待でいっぱいだった。



アパートに着くと、靴を脱ぎ捨てるようにしてベッドへ倒れ込む。

「疲れた……でも眠れない……」

天井を見つめる。

「名前、なんだろう」

足をばたつかせる。

遠足前の子どものように。

やがて、興奮も限界を迎える。

午後五時を回った頃。

ヒマレは静かに眠りに落ちた。

――数時間後に訪れる夜を、まだ知らずに。
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