サングレアル ―王の血脈―

フジーニー

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第一章

第七話 それでも信じる

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それから数時間後。

夕焼けが町を染める頃、ヒマレは自宅のベッドに座ったままだった。

避難させられてから、何もしていない。

涙も、もう出ない。

時計の秒針だけがやけに大きく響く。

――ピンポーン。

静寂を裂く音。

ヒマレはゆっくり立ち上がる。

扉を開ける。

そこに立っていたのは、真っ白な軍服の女性。

冷静で、隙のない目。

「突然失礼致します。創政慈の者です。ヒマレさんでお間違いありませんか」

「……はい」

創政慈。

この世界の法を司る組織。

犯罪の裁定、制裁、統治の管理を担う機関。

「本日は今朝の火災について、お話と確認がございます」

感情を交えない声。

「放火と断定されました。犯人はファイ・バロンドームと名乗る男」

ヒマレの喉がひくりと鳴る。

「建物所有者はイルミ・スティアラさん。彼女は炎上中の建物に投げ込まれた。あなたの目の前で」

ヒマレはうなずく。

声が出ない。

創政慈員は一瞬だけ視線を落とす。

「通常、この段階で詳細を伝えることは致しません。しかし……あなたとイルミさんの関係を考慮しました」

沈黙。

「鎮火後、現場検証を行いました」

空気が重くなる。

「遺体が見つかっておりません」

ヒマレの顔が上がる。

「……え?」

「焼失状況から推測して、完全に灰となる可能性は極めて低い。しかし、現場に遺体は存在しませんでした」

言葉が追いつかない。

「自力で脱出した痕跡もない。目撃証言もない」

一拍。

「不可解な状況です」

ヒマレの手が震える。

「……それって」

声がかすれる。

「生きている可能性が、あるってことですか」

創政慈員はわずかに間を置く。

「否定は出来ません」

ヒマレの呼吸が荒くなる。

「ただし、確証もありません」

「ファイ・バロンドームが関与している可能性は高い。しかし――」

そこで初めて、悔しさが滲む。

「サングレアルへの直接的な拘束や尋問は、我々下級職員には禁じられております」

ヒマレは唇を噛む。

王族の名。

それだけで法は止まる。

「情報提供のみとなります。申し訳ありません」

ヒマレは深く息を吸う。

涙が溢れる。

「……ありがとうございます」

声は震えている。

「それだけで、少し救われました」

創政慈員は小さく頷く。

「新たな情報が入り次第、お伝え致します」

扉が閉まる。

静寂が戻る。

ヒマレはその場に崩れ落ちる。

床に両手をつく。

「イルミさん……」

嗚咽。

「生きてて……お願い……」

涙が床に落ちる。

夕焼けが、ゆっくりと夜に変わっていく。
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