サングレアル ―王の血脈―

フジーニー

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第一章

第八話 奪われた誇り

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翌日。

ヒマレの姿はワイン工場にあった。

顔色は悪い。目の下には薄く影が落ちている。

だが手は止めない。

イルミが生きているかもしれない。

その可能性だけを胸に、働いていた。

ミサト町のワインは、熟成させない造りたての赤が売りだ。
町の水が持つ自然な甘みを活かし、渋みの少ない軽やかな味わいが特徴。
遠方から買いに来る客も少なくない。

破砕作業をしていると、工場長が肩を叩いた。

「無理しなくていいんだよ」

穏やかな声。

「大丈夫です。何かしていた方が落ち着くので」

本当は落ち着いていない。

それでも手を動かすしかなかった。

夕方、就業間際。

――バリンッ!!

凄まじい破砕音。

陳列棚の瓶が次々と割れ、赤いワインが床を染める。

工場内が凍りつく。

「ご機嫌麗しゅう、ただの人間の皆さーん」

中央に立っていた。

ファイ。

いつの間にか。

「お騒がせ中のファイちゃんでーす」

ヒマレは一瞬で距離を詰める。

「イルミさんはどこ!!」

ファイは首を傾げる。

「えー? 君の目の前で死んだよね?」

「嘘よ! 遺体がなかったって!」

わずかに、ファイの目が細くなる。

「へぇ」

軽く笑う。

「僕の火、特別製なんだよね。自然の火と一緒にしないでほしいな」

ヒマレは睨み続ける。

「何を隠してる」

「何も」

即答。

そのまま、声色が変わる。

「僕に逆らう奴は死刑」

空気が一変する。

従業員達が後ずさる。

ファイは懐から鉄の焼き印を取り出した。

王冠を模した紋章。

「この町は今日からバロンドーム家の管理下」

転がっていた樽に、焼き印を押し当てる。

――ジュウウゥッ。

焦げる音と煙。

「バロンドーム印」

赤く刻まれた紋章。

「これから出荷されるワインは全部、この印付き」

一拍。

「毎週末、三千本。ウェルシア大聖堂へ運べ」

工場内がざわつく。

「町民が飲むの禁止。他所へ売るのも禁止」

指先に炎が灯る。

「一滴でも誤魔化したら、焼く」

静かに言う。

ヒマレが胸ぐらを掴む。

「外道」

ファイは倒されても笑っている。

「元気だね、君」

低い声。

「次やったら殺す」

ヒマレの拳が震える。

怖い。

だが目は逸らさない。

「私はあんたに負けない」

ファイはゆっくり立ち上がる。

服の埃を払う。

「可愛いから今日は見逃す」

にやりと笑う。

「僕、一応サングレアルだから。身分って分かるよね?」

町民を見渡す。

誰も動けない。

「美味しいワイン、待ってるよー」

火が揺らぐ。

次の瞬間、姿は消えていた。

残されたのは、

割れた瓶、

床に広がる赤、

そして――

樽に刻まれたバロンドーム印。

ミサト町の誇りは、その日から奪われた。
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