サングレアル ―王の血脈―

フジーニー

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第一章

第十五話 血の目覚め

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___ワイン工場

歩くこと二十分。

二人はワイン工場へと戻ってきた。

アグネロが蹴破ったままの入口をくぐると、そこには――

パイプ椅子に腰掛ける工場長と、静まり返った生産ラインがあった。

「工場長!」

ヒマレが駆け寄る。

「ヒマレちゃん、おかえり」

工場長は穏やかに微笑んだ。

「上納分は仕上がってるよ。あとは輸送車を呼ぶだけだ。みんなは先に帰した。僕は……少し疲れちゃってね」

その顔は、どこまでも温かい。

後ろに立つアグネロを見て、何かを察したようだった。

ヒマレの目から涙が溢れる。

工場長に抱きついた。

「もういいんです……終わったんです……無理にワイン作らなくていいんです……バロンドームは滅びました。今日から、私たちは自由です」

工場長はゆっくり頷いた。

「そうか……それは、とても嬉しいな」

アグネロを見る。

「やっぱり、後ろの男の人は悪い人じゃなかったんだね。ヒマレちゃんが連れてきた人だ。信じてたよ」

ヒマレはアグネロの手首を掴む。

「この人はバロンドーム家の末裔です。私たちが戦ってきたのは、まったく無関係な偽物でした。このアグネロが、偽のバロンドームを倒してくれました」

工場長は椅子に座ったまま、深く頭を下げる。

「ありがとう、アグネロ君。本当にありがとう」

アグネロも頭を下げた。

「いや……みんなのワインを無駄にしたのは事実です。それは謝りま――」

そのまま、前に倒れた。

「アグネロ!?」

ヒマレが抱き起こす。

右手の傷口から血が溢れ出している。

「止血だ、ヒマレちゃん!」

ヒマレは自分のシャツの裾を裂き、傷口に巻きつけた。

両手で強く押さえる。

「僕は助けを呼んでくる!」

疲れて動けないはずの工場長が、走って外へ出ていった。

ヒマレは必死に手を握る。

「アグネロ……アグネロ……」

その時。

ヒマレの両手が、淡く神秘的に光り始めた。

「え……なに、これ……?」

傷口がじわじわと塞がっていく。

血が止まる。

そして、アグネロが目を開けた。

「……助かった」

ゆっくり呼吸を整える。

ヒマレを見る。

少しだけ笑う。

「これで二回目だな」

「え?」


上半身を起こしながら言う。

「俺、君に二回も命救われてる」

ヒマレの瞳が揺れる。

「そんな……」

「借りがどんどん増えてくな」

少し照れた顔。

そして、真面目な声になる。

「炎を使うと、体内の血が薄くなって倒れることがある。今日はアルコールも回ってたせいだな」

ヒマレは自分の掌を見る。

「私の手……光った」

アグネロも驚いた顔で見つめる。

「白スーツみたいに攻撃魔法を使う奴はいる。でも今のは魔法じゃねぇ」

「……何?」

「治癒だ。そしてそれは魔法じゃない。血法だ」

ヒマレの呼吸が止まる。

「血法を使えるのは、サングレアルの血を持つ者だけだ」

静寂。

「ヒマレ……君はサングレアルだ」

「……私が?」

完全にフリーズするヒマレ。

その時。

「ヒマレちゃーん! タクシー捕まえたよ!」

工場長が戻ってきた。

「俺、生きてますよー!」

アグネロが横になったまま手を振る。

「そっか、無事ならよかった」

工場長は安堵の笑みを浮かべる。

「みんなには明日伝えておくよ。本当にありがとう」

タクシーに乗り、帰っていった。

静まり返る工場。

アグネロがゆっくり座り直す。

「まさかサングレアル嫌いのヒマレ自身がサングレアルだったとはな」

ニヤリと笑う。

「皮肉だな」

「笑い事じゃないわよ!」

ヒマレが睨む。

「私が嫌いだったのは偽物だけよ。でも……どうして私が?」

「俺に聞かれても分かんねー」

アグネロは立ち上がる。

そして、右手を差し出した。

「そんなに知りたいなら、俺と来るか?」

「どこに?」

「言っただろ? サングレアルを探してるって」

ヒマレの目が揺れる。

「俺と一緒に探せば、君のことも分かるかもしれない」

少しだけ視線を逸らす。

「それに、炎を使うたびに血が減る。君が居たら助かる。正直な話、めちゃくちゃ助かる」

ヒマレは自分の掌を見つめる。

「……私にそんな力が」

「ある。さっき証明された」

アグネロは真面目な目で言う。

「二回も命救われたんだ。今度は俺が、ちゃんと守る番だ」

ヒマレの胸が強く鳴る。

「……今日はもう休め。明日、みんなに相談しろ。俺は工場で一晩過ごす」

「辞めなさいよ」

即答。

「夜勤の人が来たらビビるわ。襲われるかもしれないし」

「じゃあどーすんだ」

少し間。

ヒマレが視線を逸らす。

「……うちに来なさいよ」

「いいのか?」

「仕方ないでしょ」

アグネロが満面の笑みを浮かべる。

「ありがとうヒマレ!」

二人は並んで工場を出た。

夜の空気は、もう淀んでいない。

ミサト町は、静かに息を吹き返していた。
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