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第一章
第十四話 決着!?
しおりを挟む「お前の火、本当に中々だぜ。俺の炎と互角なんてな。一発で決められなくて悪いな」
アグネロが肩を鳴らしながら言う。
ファイはくすりと笑った。
「褒めてくれてありがとう。こちらこそ“一発で殺す”って嘘ついちゃったよ。
てかさ、火とか炎とかこだわるのやめなよ。別に変わらないでしょ?
火が広範囲に燃えてれば炎なんでしょ?」
アグネロは小さく鼻で笑う。
「まあ、それも間違ってはいない。
だが火と炎には、決定的な違いがある」
ゆっくり指を動かす。
「お前の周りを見てみろ」
「は?」
ファイは言われた通り、自分の周囲を見渡す。
そしてアグネロが続ける。
「じゃあ、今度は俺の周りを見てみろ」
ファイは視線を向ける。
そして、あることに気付いた。
ファイの周囲は、床も柱も炎で燃え広がっている。
だが――
アグネロの周りは、ほとんど燃えていない。
炎が、暴れていない。
「……なるほどね。少し驚いた」
ファイが感心したように言う。
「気付いたか?」
「火をも燃やす火ってことか。だから炎。
面白い魔法だね。そんなインチキみたいなトンチが通用するなんて、サングレアルはおっかないわ」
少々驚いた様子のファイ。
自分の火が、さらに別の火によって焼かれるという発想はなかったようだ。
アグネロはニヤリと笑う。
「さすがに理解は早いな。
俺の炎はな――火をも焼き尽くす」
拳を軽く握る。
「あと、もう一つ勘違いしてることがある」
ファイが眉を上げる。
「俺の炎は魔法じゃねぇ」
アグネロの瞳が、わずかに鋭くなる。
「血法だ」
ファイは数秒黙り、それから笑った。
「血法? 初耳すぎるなそれ。
君、今ここで殺すには惜しいわ」
肩をすくめる。
「面白いから、今回は生かしてあげる」
アグネロが眉をひそめる。
「……は? 逃げる気か?」
「逃げるって捉えてもらって構わないよ」
ファイは軽く手を振る。
「じゃあね。もうこの町に用はないから」
次の瞬間。
足裏の火が爆発する。
ドンッ。
ファイの体が宙に浮き――
天井を突き破った。
瓦礫が落ちる。
そして、姿は消えた。
ファイにどんな思惑があり、何のためにミサト町に来て、
何のためにワインを上納させ、
何故“支配”という恐怖で縛りつけたのか。
何一つ分からない。
ただ一つだけ確かなことがある。
アグネロのおかげで――
町は解放されたということだ。
アグネロは天井の穴を見上げる。
「うっわ、男のくせにずりぃ奴」
頬をかきながら呟く。
「てか偽物かぁ。ここにも無かったか」
少し唇を尖らせる。
意味深な言葉だった。
だがすぐに、表情が柔らぐ。
「でもまあ……これでヒマレ達は少し救われるかな」
優しい笑顔。
「それだけでも嬉しいや」
アグネロは大聖堂の出口へ向かい、外へ出る。
その瞬間――
「アグネロ!」
ヒマレの叫びが響いた。
アグネロが振り向く。
「なんだヒマレ。
また俺を殺しに来たか?」
ニヤリと笑う。
「この俺、アグネロ・バロンドーム様を」
ヒマレは首を振る。
涙が頬を伝う。
「もういいよ、アグネロ……」
震える声。
「全部見てた……」
涙がこぼれる。
「ありがとう……本当にありがとう」
アグネロは照れくさそうに頭をかいた。
「……ばれたか。騙してごめんな」
ヒマレは涙を拭きながら言う。
「でもどうして?
どうして、わざわざ自分から怨みを買うようなことしたの」
息を整える。
「最初から味方として助けてくれればよかったのに」
確かにその通りだった。
偽物バロンドームを倒すつもりなら、
自ら悪者になる必要はなかった。
アグネロは空を見上げる。
少し考えてから言った。
「なんかさ……この町の淀んだ空気を変えたかったんだ」
ヒマレが黙って聞く。
「目の前でワイン飲まれてさ、危機的状況になったら――
みんな、もっと団結するんじゃねぇかなって思って」
ヒマレの瞳が揺れる。
「それがバロンドームの仕業だって分かれば、
きっとみんな闘志も燃えるだろ?」
少し笑う。
「もしみんなで俺を殺しに来たら、
潔くやられたフリでもしようと思ってた」
肩をすくめる。
「そうすれば勇気と自信が湧くかなってさ。
勝手なやり方だけど」
ヒマレの涙が止まらない。
アグネロは少し視線を逸らす。
「あとさ」
小さく言う。
「君のことが、人として好きになったから」
ヒマレの目が見開く。
「一緒に来てほしいって思った」
だがすぐに首を振る。
「でも君は、この町の人が温かいって言ってた」
町の方を見る。
「君にも町が必要だし、町にも君が必要だと思った」
少し笑う。
「だから、嫌われれば諦めがつくかなって」
ヒマレは涙を拭く。
そして言った。
「……馬鹿だね、アグネロ」
アグネロがきょとんとする。
「私が命を助けた人が、
そんな酷い奴だったって分かったら」
ヒマレは胸を押さえる。
「その時の私の気持ちはどうなるのよ」
アグネロは慌てて頭を下げる。
「……あ、ごめん。
確かにそれは考えてなかった」
深く頭を下げた。
ヒマレは言う。
「私はもう真実を知ったんだから」
まっすぐ見つめる。
「逃がさない」
指を指す。
「工場まで一緒に来て。
みんなに伝える」
アグネロは頭を下げたまま答える。
「……はい、分かりました」
ヒマレは少し赤くなる。
(どうしよ……)
(好きって言われたよね私)
(言われたよね?)
(女として好きって言われたよね……?)
――人として、である。
ヒマレは意外にも乙女チックな心の持ち主なの〝かも〟しれない。
そして二人は並んで歩き出す。
向かう先は――
ワイン工場。
ミサト町の、仲間たちの元へ。
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