サングレアル ―王の血脈―

フジーニー

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第一章

第十九話 羽ばたけヒマレ

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___ワイン工場

「みんなに、もう1つ、謝らなきゃいけないことがある!」

アグネロは、先程と同じくらいの大声で叫んだ。

ざわり、と空気が揺れる。

何人かの従業員が眉間にシワを寄せた。
もう謝られる心当たりなど、誰にも無い。

アグネロは一拍置き、真っ直ぐ前を見据える。

「俺はこれから、旅をする! そして……ヒマレを連れていく!」

その瞬間。

時が凍りついた。

さっきまで寄っていた眉間のシワが消え、
代わりに全員の目が点になる。

静寂。

そして。

「「「えーーー!!!」」」

工場が揺れた。

ヒマレはゆっくり列を離れ、アグネロの隣へ戻る。

少し震える声で言う。

「みんな、ごめんね。みんなの事は、一生忘れないよ」

無理に作った笑顔。

でも、その奥に本物の想いがあった。

「やっぱり彼氏なんかよ!」

「彼氏ちゃうわ!」

鋭いツッコミ。

場の空気が、少し和らぐ。

ヒマレは息を吸い込む。

「私は、ここのみんなが……美里町のみんなが大好きだよ!」

涙が滲む。

「だから、いつか……必ず戻ってくるから。元気でいてください」

一度、目を閉じる。

そして続けた。

「あとね……ずっと触れてこなかったけど、イルミさんのこと、私は諦めない。必ずどこかに居るって、死んでないって、いつか会えるって、本気で思う。だから……前に進みたい!」

堪えていた涙が、こぼれ落ちる。

その姿に、工場長がゆっくり歩み寄った。

ヒマレの右手を、両手で包み込む。

「ヒマレちゃん。俺達はもう自由だ。だからヒマレちゃんは、ヒマレちゃんの道を進んでほしい。応援してる」

優しく、しかし力強く。

「俺達はこれから、誰かの為に、そして……自分達の為にワインを作り続ける。今までとは違う。1本1本、丁寧に作る。そして必ず、世界的に有名なワインの町にしてみせる」

ヒマレの目を真っ直ぐ見る。

「イルミさんは必ず生きている。そう信じよう」

ヒマレは何度も頷いた。

「はい……ありがとうございます、工場長。私、楽しみにしてます。どこか遠い国で、美里町のワインを飲める日を」

工場長は微笑む。

「うん、期待しててくれ。そしてアグネロ君」

視線が移る。

「ヒマレちゃんを、よろしく頼むね」

アグネロは一瞬だけ真顔になり、しっかり頷いた。

「おう。本当に申し訳ないけど、ヒマレを悲しませるような事はしない。心配すんな」

親指を立てる。

その肩を、工場長が無言で二度、軽く叩いた。

重い、信頼の合図。

工場長は振り返る。

「よーし! それじゃあ、みんな! 作業始めるぞ!」

「「「おー!!」」」

声が今までとは違う。

命令に従う声ではない。

自分達の意思で動く声。

「じゃあなーヒマレ、元気でな!」

「うん、ありがとう! みんなも元気でね!」

従業員達は、それぞれの持ち場へ散っていく。

もう怯えてはいない。

ヒマレとアグネロは、ゆっくりと出口へ向かう。

振り返らない。

それでも背中で分かる。

町が、見送ってくれている。

工場長は、遠ざかる二人の背中を見つめ続けていた。

小さく、しかし誇らしげに呟く。

「羽ばたけ、ヒマレ」

そして、自らも前を向く。

新しいワイン作りが、始まった。
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