サングレアル ―王の血脈―

フジーニー

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第二章

第二十話 別れの荒野

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___工場を出てから歩き続けること一時間。
弱い砂風が吹く荒野に、二人の足跡だけが伸びている。

見渡す限り茶色の景色。人の気配はほとんどない。
二人はミサト町から、北へ向かっていた。

 

「アグネロー。歩き始めたのはいいけど、あとどれくらい歩くのよ」

 

変わらない景色に、ヒマレはさすがに疲れを感じ始めていた。

 

「なんだよ、もう弱音か? まだ一時間だぞ」

 

ヒマレより少し前を歩いていたアグネロが、振り返ってニヤッとする。

 

「弱音じゃないわよ。まだ歩けるわ。
ていうかさ、あんたお金あるんだからタクシー呼びなさいよ」

 

プライドの高いヒマレは、弱音を認めたくないらしい。本当にプライドだけは高い。

 

「出来るなら呼んでる」

「じゃあ呼んで」

「無理」

「なんでよ」

「カード落とした」

「……は?」

 

一拍置いてから、ヒマレの表情が固まる。

 

「はぁぁぁ!? どこで!?」

「知らねぇよ。分かってたら探してるって。
てかこの状況で、どうやってタクシー呼ぶんだよ」

「それは……そうだけど。カード無くすって普通にやばいわよ?」

 

ヒマレは大きく溜め息をついた。
この先アホネロと旅をすることに、早くも不安を覚える。

そして容赦なく照りつける太陽が、二人の体力を確実に奪っていった。

 

「無理……ちょっとだけ休ませて。ほんとに」

 

足が限界を迎え、ヒマレはその場に座り込む。

 

「分かったよ。少しだけな」

 

アグネロは少し離れ、十メートルほど先に腰を下ろした。

そのとき――

遠くから、微かに車のエンジン音が聞こえてくる。

 

「ちょっと! 車の音する!
これ絶対、日頃の行いよ!」

 

さっきまでぐったりしていたのに、急に元気になるヒマレ。

 

「日頃の行いって……この前タクシー代奢らせて、理不尽な言い訳してただろ」

「あれは……その……。
あんただってウチのワイン割りまくったじゃない」

「それは……」

「ほら。お互い様ってこと。ね?」

 

ね? ではない。多分ヒマレの方が少し悪い。

 

「強引だな……まぁいいや。確かに車だな」

 

二人は音のする方を見る。

 

「ほら、あれ! 白い車! こっち来てる!」

 

数百メートル先から、白い車が近づいてくる。
ヒマレのテンションは完全に復活した。

 

「ヒマレ、手振れよ。男より女の方が止まってくれそうだし」

「おーい! すみませーん!」

 

さっきまでの疲れはどこへやら。
ヒマレは全力で手を振った。

車は二人の前で止まり、キャップを被った若い男が降りてくる。

 

「大丈夫ですか? 怪我はありませんか?」

「怪我はないです。私たち、ちょっと疲れちゃって」

 

なぜか少し緊張気味になるヒマレ。

 

「おい、“私たち”って言うなよ。俺は平気だからな」

「あ、そうなんですか。さすがサングレアル様ですね」

(いや、お前もだろ)

 

アグネロは心の中だけでツッコむ。

 

「もしよければ、そちらのお姉さんだけでも乗せましょうか?
後ろは荷物でいっぱいで、一人しか乗れなくて」

「え、本当ですか? ぜひお願いします!」

 

ヒマレは即答だった。

 

「僕らはこの辺りで動けなくなった人を街まで送る活動をしている創政慈員です。安心してください」

「そうなんですね。助かります、本当に」

 

ヒマレは嬉しそうに笑う。

一方、アグネロの表情はわずかに険しくなる。

 

「どこまで行くんだ? 出来ればガーヤ街の創政慈本部まで頼みたい」

「ガーヤ街の本部ですね。承知しました。しっかり送り届けます」

 

男はヒマレに目を向ける。

 

「どうぞ、助手席へ」

 

ヒマレは振り返る。

 

「先に行くね。後で追いついてきなさいよ」

「おう。気をつけろよ」

 

白い車は走り去る。

荒野に残されたのは、アグネロひとり。

彼はその場に座り込んだまま――

すぐには、立ち上がらなかった。
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