不思議なショートストーリーたち

フジーニー

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天のレース〜新しい干支の誕生〜

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古い山奥の神社に、十二支の動物たちが集まっていた。毎年、正月の夜にだけ開かれる「干支会議」。今年は特別だった。子(ねずみ)、丑(うし)、寅(とら)、卯(うさぎ)、辰(りゅう)、巳(へび)、午(うま)、未(ひつじ)、申(さる)、酉(にわとり)、戌(いぬ)、亥(いのしし)――十二の動物たちが、神鏡の前に並び、天の神様の声を待っていた。

神様の声は、いつも通り重々しく響いた。

「今年もまた、時の輪は巡る。十二支は永遠に変わらぬ。」

しかし、ねずみが小さな声でつぶやいた。

「でも……時代が変わったんですよ。人間たちは、もう僕たちだけじゃ満足してないみたいです。」

他の動物たちも頷いた。確かに、最近の人間たちは「十二支に足りないものがある」と言い始めていた。SNSで「新しい干支を追加しよう」という運動が起き、猫が人気投票で1位になったり、恐竜を推す声まで上がっていた。

神様は少し困ったように沈黙した。

「……では、どうする?」

意外なことに、神様は問いかけた。十二支の動物たちは顔を見合わせた。こんなことは初めてだった。

とらが前に出た。

「新しい仲間を加えるなら、実力で決めましょう。昔みたいに、天のレースで。」

昔、十二支が決まったとき、確かにレースがあった。神様が川の向こうに宴を催すと告げ、先に着いた十二の動物が干支になったのだ。

神様は微笑んだ。

「よし。再びレースをしよう。ただし、今度は――」

神様は空を見上げた。そこには、無数の動物の魂が光となって漂っていた。猫、狸、狐、熊、狼、鹿、パンダ、ペンギン、さらには絶滅した動物たちまで。

「この時代にふさわしい、新しい一匹を選ぼう。」

レースの日は決まった。正月の夜明け前、長い川の向こうに「未来の宴」が用意される。

参加を希望する動物たちは、次々と神社に集まった。猫は自信満々で尻尾を振り、狸は化ける練習をし、狐は賢そうな顔で作戦を練っていた。パンダはのんびり笹を食べながら「参加するだけでも楽しいよね」と呟いていた。

レースが始まった。

最初に飛び出したのは猫だった。軽やかで素早い。続いて狐、狼、鹿。ねずみは昔の経験を生かし、牛の背中に乗って進んだ(これが許される時代なのだ)。とらは力強く泳ぎ、龍は空を飛んだが、ルールで「川を渡るのみ」と制限されていた。

しかし、誰も気づかないところで、一匹の小さな動物が静かに進んでいた。

それは――「サーバル」だった。

アフリカ出身の野生の猫科動物。長い脚と大きな耳、斑点模様の美しい毛並み。人間たちにはまだあまり知られていないが、最近「けものフレンズ」という作品で人気が出始めていた。

サーバルは目立たないように、しかし確実に距離を詰めていった。猫が木の上で休憩している隙に、狐が狸の化け合戦に気を取られている間に、パンダが笹を探して寄り道している間に。


川を渡る直前、猫がダントツのリード。得意げに振り返って叫んだ。

「ふふふ、決まりね! 新しい干支は私よ! もう人間たちも『猫干支グッズ』の予約殺到らしいわ!」

その瞬間、サーバルが長い脚でスーッと横を抜き、優雅にジャンプして川に飛び込み――

と思いきや。

サーバルは着水の瞬間に、川面に映った自分の美しい斑点模様に一目惚れしてしまった。

「わあ……私って、めっちゃカッコいい……♡」

大ジャンプした勢いのまま、川の上でピタッと静止。自分の姿に見とれて、ポーズを決め始めた。

「この角度、最高……耳の大きさ、神がかったわ……」

他の動物たちが「えっ……?」と固まる中、サーバルは完全にナルシストモード全開で水面を鏡代わりに自撮りポーズ連発。

その隙に、誰も気づかない後方から、のそのそと近づいてきたのは――

「カピバラ」だった。

温泉大好き、あののんびり顔のカピバラ。

レース開始からずっと、川沿いに自然に湧き出ていた「ぬるめの温泉」に浸かりながら、マイペースに進んでいたのだ。

カピバラは、サーバルが水面でポーズを決めている横を、プカプカ浮きながらスルリと通過。

そして、ゴールラインを、ゆったりと越えた。

神様が目を丸くして告げた。

「……勝者は、カピバラじゃ。」

十二支の動物たちは大パニック。

猫は「ちょっと待って! 自撮りしてる間に!?」と絶叫。

サーバルはようやく我に返り、「え、私の美しさに負けたの……?」とショック。

ねずみは腹を抱えて笑い転げ、とらは「こんな結末ありかよ!」と頭を抱えた。

カピバラは、ゴールした後も動じず、のんびり座ってこう言った。

「ふぅ~、いい湯だったなぁ。……あ、勝っちゃった? ま、いっか。」

神様は苦笑いしながら宣言した。

「では、十三番目の干支はカピバラとしよう。この時代にふさわしい……『癒しとマイペース』の象徴じゃ。」

それからというもの、正月の飾りには、十二支の横に、温泉に浸かってリラックスしてるカピバラが追加された。

人間たちは大爆笑の嵐。

「カピバラが干支!? 最高すぎる!!」

「今年は『仕事中も温泉気分でOK』ってことにしようぜ!」

「カピバラ年だから、残業拒否合法!」

世界中の会社で「カピバラ休暇」が流行り、温泉施設は大盛況。

猫は「私が負けた相手がカピバラって……」と一生のトラウマを抱え、サーバルは「私の美しさが仇になった……」と鏡を見るたびため息。

でもカピバラは、みんなに囲まれても「まあ、みんなも一緒に温泉入れば?」と変わらずマイペース。

そして、時の輪は、史上最も「癒し系」のスピードで、ゆったり~っと回り始めた。
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