不思議なショートストーリーたち

フジーニー

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あと7回転する地球の間で〜帰還の光〜

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それから1年と少し。  
2026年1月14日、夜10時過ぎ。  
俺はいつものように、雨の匂いが漂う夜にベランダに出ていた。  
両親はまだヨーロッパから帰ってこない。  
専門学校の課題を片付けて、疲れた体で空を見上げると、  
また、部屋の電気が一瞬だけ青く瞬いた。

「……またか」

もう何十回目かの気のせい。  
でも毎回、心臓が少しだけ速くなる。  
セレネの最後の言葉を、耳の奥で何度も繰り返す。

「おかえり、セレネ」

誰もいないベランダで呟いて、ため息をついて部屋に戻ろうとしたその瞬間——  
空が、静かに白く裂けた。

最初と同じ、光の柱。  
でも今度は、ゆっくり、優しく、まるでためらいながら現れた。

中から現れたのは、  
変わらない青みがかった銀髪。  
変わらない透き通る肌。  
変わらない、深い湖のような瞳。

「……悠真?」

声が震えていた。

俺は動けなかった。  
ただ、呆然と彼女を見つめていた。

セレネは一歩踏み出して、  
ベランダの床に膝をついた。  
まるで力が抜けたみたいに。

「規則……破っちゃった」

「……え?」

「次元汚染のリスクを承知で、  
帰還指令を無視して、  
強引に座標を固定したの。  
もう、連邦には戻れない。  
永久追放……になると思う」

彼女は顔を上げて、泣き笑いみたいな表情で俺を見た。

「でも、  
それでもいいって思った。  
悠真の隣にいたいって、  
それだけが、私の新しい規則になったから」

俺はようやく足が動いて、  
彼女に駆け寄った。  
抱きしめた。  
強く、強く。  
彼女の体は少し冷えていたけど、  
すぐに俺の体温で温かくなっていった。

「バカ……本当にバカだな、お前」

「うん。バカだよ。  
でも、悠真のバカにもなれたから……いいよね?」

俺は頷いて、  
彼女の髪を撫でた。  
青い光が、もう一度、優しく瞬いた。  
今度は、消えたりしない。  
ただ、部屋全体を柔らかく照らすだけ。

それから、俺たちはベランダでずっと抱き合っていた。  
雨が降り始めたけど、  
光の柱が消えた後も、  
俺たちの周りだけ、雨粒が触れずに落ちていった。  
まるで、彼女がまだ少しだけ宇宙の力を残しているみたいに。

翌朝。  
セレネは俺の部屋で、  
母ちゃんの古いパジャマを着て、  
キッチンでトーストを焼いていた。

「人間の朝ごはん、ちゃんと覚えてたよ」

少し焦げたトーストと、  
インスタントコーヒー。  
でも、それが世界一美味しかった。

学校にはもう行かない。  
セレネは「もう観測員じゃないから」と笑って、  
代わりに、俺の専門学校の近くでアルバイトを探すと言い出した。  
コンビニで働くことに決まった。  
「ハーゲンダッツ、社員割引で食べ放題になるかも!」って、  
目を輝かせて言った。

両親が帰ってきたのは、それから3ヶ月後。  
突然の帰国連絡に俺は慌てたけど、  
セレネは落ち着いていた。

「大丈夫。  
私が『悠真の遠い親戚の娘』だって、  
ちゃんと説明するから」

連邦の技術で、また少しだけ周囲の認識を調整したらしい。  
両親は「そういえば、前に話してた子だっけ?」と不思議なくらい自然に受け入れてくれた。

それから、俺たちは普通の日常を始めた。  
いや、普通じゃなかった。  
セレネがいるだけで、毎日が特別だった。

雨の夜になると、  
時々部屋の電気が青く瞬く。  
でも今は、もう寂しくない。  
セレネが隣で寝息を立てていて、  
俺は彼女の髪をそっと撫でながら思う。

「これで、永遠に一緒にいられるんだな」

セレネは眠ったまま、  
小さく微笑んで、  
俺の手を握り返した。

青い光が、  
優しく二人を包んだ。
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