不思議なショートストーリーたち

フジーニー

文字の大きさ
31 / 53

数学の天才は恋の方程式に敗れる

しおりを挟む
藤堂零、24歳。  
東大数学科飛び級卒、22歳で博士号、研究所の若きエース。  
通称「人間電卓」「証明マシーン」「冷徹ロジック君」。  
彼の人生哲学はただ一つ。

「この世のすべては、方程式で説明できる。  
できないやつは、変数が足りないだけ」

恋? 友情? 涙?  
そんな非可換な感情は、ただの「未定義領域」だと思っていた。

そんな零が、人生最大の誤差を犯したのは、  
隣の研究室にいる佐倉詩織(26歳・生物統計ポスドク)と出会ってからだった。

詩織の第一印象は「白衣の下にピンクのニット」「髪はいつも寝癖つき」「笑うと左頬にえくぼ1個」。

零の第一印象は「この人間、変数xの値が毎回ランダムすぎる」。

ある深夜、零が黒板の前で頭を抱えていたら、  
詩織がヨロヨロ入ってきた。

「藤堂くん、まだ生きてる?」

「生きてる定義を満たしている。  
ただし、この証明は死にかけている」

詩織はインスタントコーヒーを淹れながら、  
零の黒板をチラ見。

「……ねえ、これってxが孤独すぎない?  
誰かとくっつきたがってるよ、この式」

「は? 変数は感情を持たない」

「持ってるよ。見て、この項。  
寂しそうにマイナスついてる」

零は絶句した。  
だって本当に、零の式はいつも「孤独な美しさ」を追求していたから。

それから詩織の悪戯が始まった。

零の黒板に、  
赤マーカーでハートマーク乱射。  
「xの隣にy置くと解がかわいいよ♡」  
「この定理、告白されたら解けるんじゃない?」  
しまいには、零の論文のタイトル案に  
「楕円曲線上の有理点が、実は君のこと好きだった件」  
と書き足された。

零、耐えきれず反撃。

「君の統計データ、分散がでかすぎる。  
予測精度0.0001%以下だろ」

「それが生き物の美しさなんだよ!  
数学みたいにキレイに収まらないのが最高じゃん!」

……完全に噛み合わない。

そして運命の夜。

零、ついに長年の未解決問題を証明した。  
世界初。楕円曲線上の有理点の有限性、完璧に示した。

興奮のあまり、隣の部屋に突撃。

「佐倉さん! できた! 見てくれ!」

詩織、机に突っ伏して爆睡中。  
頬に論文の束がくっついてる。  
寝言で「チョコ…もっと…」とか言ってる。

零、興奮冷めやらぬまま、  
そっと詩織の頬の論文を剥がそうとしたら、  
指がえくぼに触れた。

瞬間、詩織がガバッと起きる。

「ひゃあっ! 何!? 痴漢!?」

「違う! 証明が!」

「……証明?」

詩織、寝ぼけ眼で零の顔を見る。

零、真顔で宣言。

「この証明の価値は世界一だ。  
でも今、君がいない世界の価値を計算したら、  
マイナス無限大になった」

詩織、3秒固まってから爆笑。

「ぷはははは! 数学者なのにマイナス無限大って!  
それもう恋だよバカ!」

零、顔真っ赤。

「ち、違う! これはただの……極限値の暴走で……」

「暴走してるのは君の心だよ!」

詩織、立ち上がって零の白衣の襟を掴む。

「ねえ、証明してよ。  
『佐倉詩織がいると、藤堂零の幸福関数が正の無限大に発散する』って」

零、完全にパニック。

「そ、そんなの公理から証明できない!  
定義域外だ! 未定義だ!」

「じゃあ、これから定義しよっか。  
二人で」

詩織、にっこりえくぼ全開。

零、膝から崩れ落ちる。

「……負けた。  
完敗。」

外は大雪。

研究室の窓に映る二つの影。

零は心の中で呟いた。

「この世には、  
解かなくていい方程式がある。  
……いや、解きたくても解けない、  
最強に面倒くさい方程式が、ある」

詩織が零の頭をポンポン。

「よしよし、負けを認められたね。  
ご褒美に、明日の朝ごはん奢ってあげる」

「……奢られる側が天才って、  
おかしくないか?」

「天才は恋に負けるのがお約束だから!」

零、ため息まじりに笑った。

数学の天才は、  
恋の方程式に、  
スコアボード全部ひっくり返されるくらいボコボコにされて、  
それでも幸せだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...