異世界ゆるゆる開拓記

夏樹

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その5 農家、始める

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「それはね……お母さんが付けてた、髪飾り。お母さん、死んじゃったんだ」

 一時の興味にまかせて聞いてしまうんじゃなかったと後悔する。

 彼女の辛さは僕にだってわかる。僕は、父さんが死んでしまったから。

「でも、いつだって見守ってくれてると思うから。だから今は平気」

 それを俺に向かって言ったのか、それとも自分を納得させるために言ったのかは分からない。
 ただ、俺はその言葉を聞いて自分にも父さんが見守ってくれているのか、と思った。

『いいか、拓也。農家は地味で辛いことも沢山ある。でも、この言葉をしっかりと覚えておけ。

―――――農家は、幸せを育てる仕事なんだ』

 レナの言うこともあながち嘘じゃないのかもしれない。
 確かにいきなりこんな世界に来て、どうしてこんな寂れた村に着いてしまったのだろうと思った。

 だが、父さんがこの村に幸せを届てあげようと僕をこの村に送ったのだとしたら?

「レナ、辛いこと思い出させちゃってごめんな。でもそのおかげで迷いは無くなった。ありがとう」

「まよい……?」

「レナは気にしなくていいんだ」

 そう、僕にはそもそも農業をする以外に道なんてないのだ。
 なら、その道を突っ走っていくしかない……。


「はぁー、意外と広いんだな。この村の畑」

 俺が案内されたのは村から山の方へ少し外れた村の畑だった。
 近くには川も通っていて、立地は良さそうだが長年放置されていたためか、雑草が生い茂っていた。

「それで、お兄さんはどうやって食べ物を育てるの?」

「どうやってもなにも、雑草を抜いて耕して種を植えて……って感じだけど」

「食べ物を育てるには魔力マナが必要だって聞いたことがあるの。だから、どんな魔法を使うのかなって」

「ちょっと待って。魔法は使わないよ」

「え?」

 レナはきょとんと首をかしげる。
 もしかしてこの世界では肥料なんかも魔法でなんとかなってしまうのかもしれない。

 ……だが、そんな魔法が使えなくても必要なものさえ揃っていれば育てることは可能だ。

「魔法は使わなくても食べ物は育つよ。だって、そこらに生えている木だって誰かが魔法で育てたわけじゃないだろう?」

「そうだけど……」

 どうにもこの世界の人々には魔法を使わずに作物を育てるということが理解されにくいようだ。

「とりあえず、ここら辺にある雑草は全部抜いてしまおう。レナも手伝えるか?一人だとちょっと辛いからさ」

「うん」

 理解されにくいなら、実際に体験してもらった方が理解してくれるだろう。
 今はただ、雑草を抜いているだけかもしれない。でも、

 この村はしっかりと農業の第一歩を踏み出したんだ!

 と、この時は能天気に思っていた。

 だが、この村の農業は思ったよりも大変だということを痛感させられることになろうとは……。
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