迦具夜姫異聞~紅の鬼狩姫~

あおい彗星(仮)

文字の大きさ
46 / 113
第5夜 星命学園

第3話 ホームルーム

しおりを挟む
「はぁぁぁ……」

 緋鞠は机に突っ伏すと、長いため息をついた。
 来栖の話によると、月鬼の襲撃事件で生き残った緋鞠には、尾ひれがついた噂が出回っているらしい。

 実は妖怪なのではないか? 転生者なのではないか? は、まだ可愛い方だ。月鬼を素手でばったばったとなぎ倒す、陰陽少女!? なんの話だ! 
     ……失礼しちゃう。

「それなら、翼のほうが一人でたくさんの月鬼を倒してたよ! そっちのほうが話題にあがるんじゃない?」
「三國君は、最年少で入隊を果たしているから、そんなに驚きはないよ。それに、彼は本家の生まれだからね」

 十二鬼将に襲われたにも関わらず、生き残り、相手にも傷をつけた。
 それだけでも十分に話題になるが、神野緋鞠が“無名の家名"の人間であったことが、拍車をかけているらしい。

(そんなに家名が大事なの?)

 お家事情などからは、最も縁遠い場所にいる緋鞠には到底理解できない。両親の顔さえ知らないし、家族は兄と孤児院の皆だけだ。

 家の歴史、使命、功績……生まれたときから背負っているものがあったなら、私も何かが変わったのだろうか?
 ……いや、そんなことを考えても仕方がない。
 どうせないものはないのだ。緋鞠は頭を振って余計な思考を振り払う。

 とりあえず、そんな噂が流れているのであれば、目立たぬよう大人しくしていよう。そう心に決めたのと同時に、チャイムが鳴り響いた。
 周囲で雑談をしていた生徒たちが一斉に席につく。

 緋鞠の席は、廊下側二列目の真ん中だった。視力も悪くないし、ちょうどよい位置だと思う。
 担任は誰だろう?

 教室の引き戸ががらりと開いた。

「おーし、全員そろってるな……って、一人サボりがいんぞ、こら!」

(大雅さん!?)

 思わずがんっとおでこを机にぶつけてしまう。
 もうすでに不安しかない──。

 おでこをさすりながら、正面を向くと大雅と目が合った。
 そのまますっと視線を逸らされ、ホッとしたような寂しいような……。

 教壇に立った大雅が教卓に手を置く。

「俺は、夜霧大雅。第五十四隊隊長だ。何で俺が教官職任命されたか知らんが、一年間よろしく。そんじゃあ、ぼちぼち始めるぞ」
 
 なんとも締まらない挨拶だ。
 そのままホームルームが始まると、軽く自己紹介が始まる。

「神野緋鞠です。よろしくお願いします」

 挨拶し、席に着くと、ひそひそと声が聞こえてくる。こういう輩が根も葉もない噂をどんどん広めてしまうのだ。……早めに手を打っておこう。
     声のほうへキッと睨むと、数名の生徒が視線をそらした。これで一安心。そうして全員自己紹介を終える。

「よし、みんな挨拶済んだな。じゃあ、プリント配るぞ」

 前から順に回ってきたプリントは、合計四枚。
 身体検査と体力検査、それに模擬戦のお知らせと時間割である。

「おまえらには明日から身体検査、体力検査。その結果をもとに、俺ら指導陣で決めた三人一組のチームを組んで模擬戦を行ってもらう」

 教室がざわめく中、大雅は二枚の模造紙を黒板に貼り付ける。
 一枚目には大和全体の地図。もう一枚はチームの作り方とあった。

「模擬戦については三日後の深夜。四ヶ所の狩り場で実践形式で行う」

 大雅は東西南北の山を赤いマーカーで囲んだ。

「月鬼は暁で用意した、弱いやつだ。協力すれば簡単に倒せる。階級的には亥の梅くらいだな」
「亥の梅?」

 思わず声に出してしまい、クラス中の視線が緋鞠へと注がれた。

 ──ああ、そうか。
 知識が足りていないのは、おそらく緋鞠だけなのだろう。居心地の悪さを感じて顔を俯けると、バサッと紙を広げる大きな音が響いた。

「あー、悪い悪い。説明不足だったな。月鬼には階級があるんだ」

 地図の上から新たに貼られた模造紙には、月鬼の強さの指標が円で示されていた。子から始まり亥まで十二の文字が、時計回りに書かれている。

「強さは十二支に由来する。子は一、丑は二という風にな。そして、さらに階級で分けられる」

 表は上から順に、松・竹・梅となっていた。

「梅が下級、竹が中級、松が上級だ。例えると梅が兵士、松が副隊長、松が隊長レベルだな。そんで、ここに一個プラスされる。わかるやついるか?」
「はい」

 同時に手が挙がる。瑠衣と来栖だった。
 大雅は来栖を指す。

「松に兜。意味は、十二鬼将です」
「正解」

 ざっと簡単にマークが描かれた。戦国武将が被っていそうな兜のイラストの額辺りに松の文字。

「十二鬼将、名前の通り十二人の将軍だ。千年の間に狩れたのは五人で、七人残ってる。この間、学園に現れたのは四番目の将軍、四鬼だ」

 大雅の言葉に緋鞠は身体を震わせた。

(──あんなのが、あと七人もっ!?)

「でもさー、意外とどうにかなるんじゃない? こうやって、襲撃されても俺ら生きてるし」

 教室の後ろのほうで、男子生徒がそんな楽観的な発言をする。

「っ!?」

 きゃあっ! 女子生徒の甲高い悲鳴が上がった。
 ばっと振り返ると先ほど発言した男子生徒の眼前に、チョークが止まっていた。

 投げた本人は空中に止まったチョークを回収すると、茫然とする男子生徒の胸倉をつかんだ。

「……おまえ、一瞬で死ぬぞ」

 教室中が静まり返る。
 クラス全員を見回す大雅の白銀の瞳は、怒りに満ちていた。

「おまえたちはただ運がよかっただけだ。生半可な覚悟のやつは、教室から出ていけ。頼むから、仲間に無様な死に様を晒すんじゃねえぞ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜

春日あざみ
キャラ文芸
<第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。応援ありがとうございました!> 宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。 しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——? 「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...