58 / 113
第6夜 夢みる羊
第6話 猫娘
しおりを挟む
緋鞠はメカ羊からの攻撃から、避けるために身体を捻る。
──どかっ!!
「ぎにゃあ!?」
「痛っ!? あ、ごめんっ!!」
誰かにぶつかってしまったようだ。
緋鞠は慌てて、頭を下げる。
「いきなりびっくりするだろう!?」
「まさか後ろにいるなんて思わなくて……あ」
栗色のショートヘアーに、猫のような大きな瞳。
昨日、瑠衣といた少女のうちの一人だ。猫のような三角の耳と尻尾が付いている。なにこれ、コスプレ?
「注意力不足だ。気をつけろ」
少女は顔をしかめながら、肩を撫でている。緋鞠がぶつかった拍子に痛めてしまったのかもしれない。
「本当にごめんなさい。えっと……?」
名前がわからない。
少女は腕を組むとふんぞり返った。
「夏目奈子だ」
「ねこ?」
「奈子!」
奈子はフシャアー! と耳を逆立てると、尻尾で地面をばんばんと叩いた。
『メェーメェー!!』
メカ羊たちの声に我に返る。このままでは奈子まで巻き込んでしまうかもしれない。
緋鞠が月姫を構えると、銀色の風が飛び込んで来た。
「銀狼!」
『まったく! もう少し慎重に行動しろ!』
「ごめん!」
銀狼は羊の群れに向かって咆哮をあげた。
『アオォォーン!!』
『メェエエエ!!』
風の波がメカ羊たちに襲いかかる。悲しげな鳴き声を残しながら、メカ羊たちは吹き飛ばされた。
『ふん、こんなものだ』
「銀狼ありがとう。助かったよ……!!」
銀狼に抱きつき、よしよしと撫でていると、得意げに尻尾がぶんぶん揺れている。それを見ていた奈子は、訝しげな視線を緋鞠に投げ掛けた。
「──おまえは妖怪と契約しているのに、憑依を使わないのか?」
「ひょうい?」
銀狼と顔を見合わせ、きょとんと首を傾げる。
「まさかおまえ、知らないのか!?」
「す、少しは知ってるよ!」
憑依とは、自身の体にほかの人間や動物の魂を入れて精神的・肉体的に干渉させることだ。陰陽師以外には、シャーマンやイタコなどの霊媒師が使う術だったはずだ。
「知ってるなら、なぜやらない?」
「……どうやるの?」
ぴきっと場の空気が凍る。
「おまえ……! それでよく陰陽師を名乗れるな? 憑依など、基本中の基本だぞ!?」
「いや、あのね! 私の師匠が、術に頼らず生身で生き残れるようにしろって。そういうの全然教えてくれなくて……」
「はっ!? じゃあ、おまえはどんな修行してたんだ?」
「えっと……断崖絶壁から突き落とされたり、森で一番背の高い木の上にぶん投げられて、五分以内に降りて来れるまでエンドレス。それから、森のなかで一日中攻撃を避け続けたり……」
思い出せるままつらつらと並べ立てると、奈子の顔がだんだんと青ざめていく。十個目を過ぎる辺りで止められた。
「ちょ、ちょっと待て! それ全部、術をかけずにやったのか?」
「うん。あととっておきは」
「もういい!」
嫌々と耳を塞いで首を振られてしまった。確かに始めは大変だけど、慣れると全然大丈夫なのに。
奈子は不思議そうに首を傾げている緋鞠を見て頭がおかしくなりそうだっだ。いやいやいや、幼子を無人島に投げ込んだり、崖に突き落としたり、軽く拷問ではないかと思えてくる。
今は戦国時代か!? いや、あの時代だってそんな過酷な修行方法はしないはずだ!
奈子ははっとして、緋鞠の肩を掴んだ。
「そ、そうだ! 術の修行は? 初期に瞑想やら軽い武術の手合わせ、そこから相性のいい属性術の演習!」
「へ!?」
なにそれ、そんなのあったの!? 師匠そんなの一言も言ってなかったけど!?
緋鞠は聞いたことのない修行形態に驚きが隠せなかった。その様子を見て、さらに奈子は不安そうな顔をすると緋鞠の肩をぐらぐら揺らす。
「やっただろ! やったよな!?」
「え、ええっと、術の修業は、これだけかな」
正直に、教えてもらって術を教える。まず緋鞠は月姫を普通の筆サイズにする。次に太腿のホルダーから白紙の和紙を取り出し、『治』と書き込んで奈子の身体に貼り付けた。
さっき痛めた肩の痛みが、嘘のように引いていく。
「ああ、すまない……ってそうじゃない! なんだ、このでたらめな術は!? それにそのふざけた師! 無名のところは、そんなに待遇が悪いのか!?」
なんてことだ……奈子は、地面に崩れ落ちる。
陰陽師になるためには、幼少期から修行を行う必要がある。それぞれの御家ごとに得意とする術の系統は違うものの、基礎は全て同じ。そのため、地区ごとに決まった師に師事するのだ。
「分家の末端ですら、本家と同じ初等教育を受けるのに……!」
「あ、あの、ごめんね?」
何故か謝る緋鞠を見上げ、奈子は疲れたようにため息を吐く。
大事な主に仇なす愚か者かと思ったら、ただの世間知らずだ。心配そうに見つめる緋鞠を見て、すっかり毒気が抜けてしまった。
──どかっ!!
「ぎにゃあ!?」
「痛っ!? あ、ごめんっ!!」
誰かにぶつかってしまったようだ。
緋鞠は慌てて、頭を下げる。
「いきなりびっくりするだろう!?」
「まさか後ろにいるなんて思わなくて……あ」
栗色のショートヘアーに、猫のような大きな瞳。
昨日、瑠衣といた少女のうちの一人だ。猫のような三角の耳と尻尾が付いている。なにこれ、コスプレ?
「注意力不足だ。気をつけろ」
少女は顔をしかめながら、肩を撫でている。緋鞠がぶつかった拍子に痛めてしまったのかもしれない。
「本当にごめんなさい。えっと……?」
名前がわからない。
少女は腕を組むとふんぞり返った。
「夏目奈子だ」
「ねこ?」
「奈子!」
奈子はフシャアー! と耳を逆立てると、尻尾で地面をばんばんと叩いた。
『メェーメェー!!』
メカ羊たちの声に我に返る。このままでは奈子まで巻き込んでしまうかもしれない。
緋鞠が月姫を構えると、銀色の風が飛び込んで来た。
「銀狼!」
『まったく! もう少し慎重に行動しろ!』
「ごめん!」
銀狼は羊の群れに向かって咆哮をあげた。
『アオォォーン!!』
『メェエエエ!!』
風の波がメカ羊たちに襲いかかる。悲しげな鳴き声を残しながら、メカ羊たちは吹き飛ばされた。
『ふん、こんなものだ』
「銀狼ありがとう。助かったよ……!!」
銀狼に抱きつき、よしよしと撫でていると、得意げに尻尾がぶんぶん揺れている。それを見ていた奈子は、訝しげな視線を緋鞠に投げ掛けた。
「──おまえは妖怪と契約しているのに、憑依を使わないのか?」
「ひょうい?」
銀狼と顔を見合わせ、きょとんと首を傾げる。
「まさかおまえ、知らないのか!?」
「す、少しは知ってるよ!」
憑依とは、自身の体にほかの人間や動物の魂を入れて精神的・肉体的に干渉させることだ。陰陽師以外には、シャーマンやイタコなどの霊媒師が使う術だったはずだ。
「知ってるなら、なぜやらない?」
「……どうやるの?」
ぴきっと場の空気が凍る。
「おまえ……! それでよく陰陽師を名乗れるな? 憑依など、基本中の基本だぞ!?」
「いや、あのね! 私の師匠が、術に頼らず生身で生き残れるようにしろって。そういうの全然教えてくれなくて……」
「はっ!? じゃあ、おまえはどんな修行してたんだ?」
「えっと……断崖絶壁から突き落とされたり、森で一番背の高い木の上にぶん投げられて、五分以内に降りて来れるまでエンドレス。それから、森のなかで一日中攻撃を避け続けたり……」
思い出せるままつらつらと並べ立てると、奈子の顔がだんだんと青ざめていく。十個目を過ぎる辺りで止められた。
「ちょ、ちょっと待て! それ全部、術をかけずにやったのか?」
「うん。あととっておきは」
「もういい!」
嫌々と耳を塞いで首を振られてしまった。確かに始めは大変だけど、慣れると全然大丈夫なのに。
奈子は不思議そうに首を傾げている緋鞠を見て頭がおかしくなりそうだっだ。いやいやいや、幼子を無人島に投げ込んだり、崖に突き落としたり、軽く拷問ではないかと思えてくる。
今は戦国時代か!? いや、あの時代だってそんな過酷な修行方法はしないはずだ!
奈子ははっとして、緋鞠の肩を掴んだ。
「そ、そうだ! 術の修行は? 初期に瞑想やら軽い武術の手合わせ、そこから相性のいい属性術の演習!」
「へ!?」
なにそれ、そんなのあったの!? 師匠そんなの一言も言ってなかったけど!?
緋鞠は聞いたことのない修行形態に驚きが隠せなかった。その様子を見て、さらに奈子は不安そうな顔をすると緋鞠の肩をぐらぐら揺らす。
「やっただろ! やったよな!?」
「え、ええっと、術の修業は、これだけかな」
正直に、教えてもらって術を教える。まず緋鞠は月姫を普通の筆サイズにする。次に太腿のホルダーから白紙の和紙を取り出し、『治』と書き込んで奈子の身体に貼り付けた。
さっき痛めた肩の痛みが、嘘のように引いていく。
「ああ、すまない……ってそうじゃない! なんだ、このでたらめな術は!? それにそのふざけた師! 無名のところは、そんなに待遇が悪いのか!?」
なんてことだ……奈子は、地面に崩れ落ちる。
陰陽師になるためには、幼少期から修行を行う必要がある。それぞれの御家ごとに得意とする術の系統は違うものの、基礎は全て同じ。そのため、地区ごとに決まった師に師事するのだ。
「分家の末端ですら、本家と同じ初等教育を受けるのに……!」
「あ、あの、ごめんね?」
何故か謝る緋鞠を見上げ、奈子は疲れたようにため息を吐く。
大事な主に仇なす愚か者かと思ったら、ただの世間知らずだ。心配そうに見つめる緋鞠を見て、すっかり毒気が抜けてしまった。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜
春日あざみ
キャラ文芸
<第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。応援ありがとうございました!>
宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。
しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——?
「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる