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香月 のり

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第一章 人生の踊り場

気になる女

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「実は、10年前から佳緒莉さんのことを知っています」









このメイクアトリエは、訪れる女性たちにコスメを見立て、使い方を実際にメイクを施しながら解説するレッスンの形式をとる。








メイク前のスキンケアの時間は、訪れた女性たちの心の中を覗く時間でもある。


化粧水を恭子のきめ細かい肌にコットンで優しく塗布しながら、想像もしていなかった恭子の言葉に一瞬驚くも静かに質問を続ける。













「メイク教室をお探しだったのですか?」













メイクアトリエなので、たいていの女性はメイクを習いに来る。












とは、限らない。











「デザイナーズハウスの展示会で、10年前、佳緒莉さんとお会いしています。」













20代をメイクの世界に捧げ、30代に入ってすぐ、佳緒莉は突然結婚した。

それまでなんのそぶりも見せなかった彼女の突然の結婚は、小さな町に様々な憶測を呼んだ。





結婚してすぐの頃。

建築家の設計した作品の展示会が開かれ佳緒莉たちの住む家の写真がそこに展示されることになり、来場者にその家の説明をする仕事を引受けたことがある。











「あの展示会でお会いしているのですね。そうですね、あれは確か10年ぐらい前でしたね。」





佳緒莉は、化粧水でなめらかになった恭子の肌に、手のひらで乳液を丁寧に馴染ませていく。




「あの頃から何だか気になる女性だと思っていました。すると数年後、佳緒莉さんのメイクのInstagramが流れてくるようになったんです。あ、あの時の女性だと。それからフォローして、記事をずっと読ませていただいていました。」






そうだったのですねとにこやかに返事をしたが、なぜだか胸がざわつく。

乳液でハリのでた恭子の肌に日焼け止めを重ねながら、佳緒莉はさて、どこから何を聞いていこうかと考える。








「さぁ、スキンケアが整いましたので、今日のメイクのテーマを決めていきましょう。」







メイクをする上で、最も大切なのはテーマを決める瞬間。

メイクに良いも悪いもないが、テーマを外してしまうとどんなメイクもその人にとって全く価値のないものになってしまうからだ。








「今日来てくださったのには、何かきっかけや理由がありましたか?」




メイクを変えたいとか、似合うメイクがわからないとか。おそらくほとんどの女性が日々感じている。

だが、実際に行動に移す人はその何割なのだろう。女性たちをそうさせる何かがきっとある。






「いつか来たいとずっと思っていたんです。でも、なかなか勇気が出ず・・・。でも、気分を変えたいと最近思うようになったので。」









この先を深堀るかどうかは、一瞬の判断だが恭子の目を見た佳緒莉は今ではないと感じた。



「気分を変えたくなる時ってありますよね。よくわかります。」

「では普段の恭子さんのメイクについていくつかお聞かせください。いつもは・・・・・・」







メイクには女の本能が見え隠れする。

普段のメイクについていくつか聞けば、なぜ今この女性がここにいるのか、たいていのことが推測できるのがプロの技だ。






でも今日はいつもと様子が違う。

7割ぐらいの仮説のまま、佳緒莉はコスメを選び始める。






























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