ショウカンビト

十八谷 瑠南

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そんな1日のおわり

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ついてない一日の終わりはナナだった。
今日はひとりビールでも飲みながら、音楽を聴き気分転換でもしようと思っていたのに、いつもの調子でリリィの家にナナはやってきた。
「リリィ様にお届け物でーす」
リリィは居留守を使ってもよかったが、さすがに相手はまだ子供だったので、ドアを開けてナナを迎え入れた。
「ナナ、今日ね、私嫌なことばっかりだったの。だから、ロクなご飯しか作れないけどいい?」
その言葉を聞いていつも通りテレビのチャンネルをいじっていたナナの手が止まった。
「嫌なことばかり?」
「ええ。もう最悪だったの」
するとナナはテレビの電源を消し、リリィの座っている食卓の前の席に座った。
「ねえ、その話私に聞かせてくれない?」
リリィはナナにコーヒーをいれると今日一日の出来事を話し始めた。
そして一番心に重くのしかかった言葉を吐いた。
「私って役立たずなのね」
ここで、この時こそ、やさしい言葉を言ってもらえるだろうと誰もが思うだろう、いくらついていない一日だとしても家に帰ってからは優しくしてもらいたいものだ。
だが、人生はそうも甘くはない。
ナナはリリィに言い放った。
「リリィって本当に可哀想」
リリィは顔を上げてナナを目を見開いて見つめた。
ナナはリリィを憐れむような顔でじっと見つめている。
悲しみや怒り以上に何を言われたのかリリィは理解ができなかった。
「リリィ、私今日はもう帰るわね、こんな日に来てしまってごめんなさい」
そう言って休日別れた時と同じようにナナはさっさと去って行った。
リリィはぽつんと座ったまま動こうともしなかった。
この日のついていない一日はこうして終わりを遂げた。
可哀想と憐れみを受けたリリィはただ呆然とナナが出て行ったドアを見つめていた。
ドアがバタンと音をたてて閉まるまで。
生きていると、こんな風についていない一日があったり、ついていない一週間や一ヶ月、一年があったりもする。もちろんそのときはひどく傷つき、涙を流したり怒り狂ったりするだろう。
だが、そんなことも時間は癒してくれる。時間がたてば人間は大抵のことは忘れてしまう。
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