ショウカンビト

十八谷 瑠南

文字の大きさ
15 / 29

ついていない1日

しおりを挟む
ついてない一日は本当についていないことばかりだ。
朝、リリィはめずらしく寝坊をした。
悠長にコーヒーなんて飲む暇も外を眺める暇も全くなかった。
急いで支度をし、満員の地下鉄に乗り、満員のエレベーターに乗り、やっと職場に着いた。
だが、ついていない連鎖はここで終わらない。
職場に到着するやいなやメリッサの機嫌は最悪で、リリィは慎重に仕事をしようと心に決めた。
こんな時のメリッサの怒りは…先輩の怒りは世界の崩壊を意味するからだ。
だが、今日慎重に仕事をしていても、前に失敗していたら意味がない。
結果的にリリィは失敗をした。
先週に作成した見積もり書の数字を間違えていたのだ。
見積書を受け取った顧客からクレームの連絡があり、ちょっとした問題となった。
「ねえ」
リリィはその声を聞いてびくりと震え上がった。
「はい」
どきどきしながらメリッサの顔を、そおっと見つめる。
リリィを見つめる大きな青い瞳は美しかったが、それ以上に睨みつけられているという感情の方がひしひしと伝わってきた。
「あんたさ、ふざけてんの?」
リリィは仕事をふざけていたのだろうか。いや、決してそんなことはない。
ふざけて見積書を作成する人間はこのウォーキンシティでも全世界でもきっといないだろう。
だが、間違いを犯したことはしっかりと謝らなければいけない。
「すみませんでした」
リリィは深く頭を下げた。
本当に反省していたし、とにかく溜まっている仕事も処理をしなければいけなかったし、色々とリリィの頭の中はめちゃくちゃだった。
「思ってないでしょ」
だが、メリッサの怒りは収まることはなかった。ただでさえ、彼女は朝から不機嫌だったのだから。
「あんたって本当に役立たずね」
そう言ってメリッサは席を立った。
頭を上げたリリィはぎゅっと拳を握り締めた。
(役立たずか。うーん。さすがにへこむわ)
小さく息を吐いて、PCの画面と向き合った。
失敗をものすごく嘆きたい気分であったし、自分を責めまくりたい気分であったが仕事がかなり溜まっていたため、全て飲み込んでリリィは仕事に戻った。
それからメリッサが戻ってくるともう一度頭を下げて謝った。
仕事は、少し気まずかったが、忙しかったのでそんなことを気にする余裕がなくなっていたのがリリィにはありがたかった。
だが、どうしてもさっきの言葉がリリィに重くのしかかっていた。
ランチの時間になっても、メリッサはまだ機嫌が悪いようでひとりでさっさと外に出て行ってしまった。
リリィはコーヒーでも飲もうと給湯室に向かった。
そこでは、ライルがコーヒーメーカーの湯が沸くのを待っていた。
「ライル」
「よう。なんかお前ヘマしたらしいな」
「ええ。最悪だわ。自分に嫌気がする」
ここでライルが例えば失敗は誰でもするものだとか言葉を掛けてくれたらリリィは少しでも救われた気持ちになっただろう。だが、忘れてはいけない、今日はついていない一日なのだ。そんな日に優しい言葉なんて誰もかけてはくれない。
「そりゃそうだろ。お前が悪いんだから」
そう言って、コーヒーをカップに注ぐと、ライルはリリィの肩をポンと叩いて給湯室を出て行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

思いを込めてあなたに贈る

あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

この離婚は契約違反です【一話完結】

鏑木 うりこ
恋愛
突然離婚を言い渡されたディーネは静かに消えるのでした。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

処理中です...