水神様、いきなり巫女って言われても、恋もあやかしも難しすぎます! 〜こちら、帝都第一高校文芸部 あやかし相談室〜

猫屋敷むぎ

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本編 結花編 第三章【連載中】

第六十二話 捨て身の奥義炸裂

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蒼生君を警戒するように見つめていた小天狗のリーダーが、
鋭く叫んだ。

「動かぬか。ならば、今こそ!」

(蒼生君を一番警戒してる……? なんで?)

四羽の小天狗が、空中で一か所に集まる。

黒い翼が円を描き、
旋回するたびに空気が唸る。

ばさっ。
ばさっ。

巻き上げられた風が、
落ち葉を渦のように巻き上げた。

「集中させるのだ!」

一斉に団扇を振るう。

ひゅん――

風を裂く鋭い音。

「なんの!」

綾瀬先輩は両腕を前に組み、
真正面からすべての攻撃を受け止めた。

ひゅん、ひゅん、と
見えない刃が空気を裂く。

風が走るたびに――
肉が爆ぜる。

ばちん、と血が弾け、肉が裂ける。

次の瞬間には、再生した肉が傷口に盛り上がり、
深銀の毛並みがその上を覆い隠す。

だが――

次第に。

回復よりも、
傷つく速度が上回り始めた。

綾瀬先輩の全身が、
じわじわと朱に染まっていく。

血が毛並みを濡らし、
地面にぽたり、ぽたりと落ちる。

落ちた血が、
霜の上に黒い染みを作った。

「綾瀬先輩!」

思わず叫ぶ。

それでも。

狼神は、にっと牙を見せて笑った。

一歩も退かない。

低く唸りながら、
すべての攻撃を受け止め続けている。

「……はっ……!」

息が荒い。

胸が大きく上下している。

それでも、
狼神はその場から動かず、耐え続ける。

空を舞う小天狗たちは、
部長の氷結の霜が広がる前に、
巧みにかわし、離脱する。

古館先輩も、
高度を保った小天狗には近づけない。

美咲も隙を見て跳躍するが、
薙刀は、天狗の高度に届かない。

綾瀬先輩の呼吸が荒い。

狼神の膝が――
徐々に沈む。

空と地。

戦場は完全に分断されていた。

(……このままじゃ……)

胸がざわつく。

(どうしたら……)

助けを求めるように周囲を見回すと――

腕を組み、
静かに戦況を見守る
荘五郎と視線が重なった。

荘五郎が、
にやり、と笑う。

「そろそろ、出番じゃな」

そう言うと、

荘五郎は
ゆっくり一歩前へ出た。

(荘五郎……何か秘策が!?)

そして――

胸を張り、
山に低い声が響き渡る。

威風堂々と、誇り高く。

「天狗ども! 刮目せよ!」

その目は真剣そのものだった。

そしてなぜか、横目で私を見る。

「この身を捨てる技になるが……」

そう言うと、
荘五郎はもう一度、前を向く。

ごくり……。

「化け狸奥義――」

(捨て身……奥義……!
 荘五郎……ちょっとかっこいいかも……)

水穂が、
ぎゅっと祈るように私の手を握る。

部長が額に手をやり、
小さく首を振った。

「……荘五郎、あれをやる気だな……」

「あれ」
「あれ?」
「何、あれって?」
「あ、あれ?」

みんなの声が重なる。

だが。

蒼生君の表情だけは――
まったく読めない。

(え、えええ?
 どんだけヤバいの……?)

私が困惑していると、

荘五郎が胸を張り、
高らかに叫んだ。

「――化け狸奥義――
 『浪漫爆弾』じゃ――っ!」

(……浪漫……爆弾?)

嫌な予感しかしない。

――沈黙。

風が、ひゅう、と木々を揺らす。

小天狗たちが、警戒して身構える。

(……あれ?)

次の瞬間。

荘五郎の体が、

ぽんっ。
煙に包まれた。

白煙がふわりと広がる。

くるくると回りながら、
まるで舞台の幕のように空へ消えていく。

そして――

煙の中から。

「うっふ~ん♡」

セクシーなポーズを決めた、
水着姿のグラマラスな女性。

頭には、狸耳。

お尻には、ふわふわの尻尾。

「……おいっ!」

鼻を抑えながら、
血だらけの狼神が叫ぶ。

しかも水着は――

その……

いわゆる。

キワドイビキニ。

(文字通り捨て身!
 じゃなくて、こっちが恥ずかしいんですけど!!)

私は全力でさっきの評価を訂正し、
慌てて水穂の肩を掴み、
くるりと後ろ向きにする。

「水穂、目の毒! 見ちゃダメ!」

「う、うん」

上空の小天狗たちは――

両手で目を押さえ、
大混乱に陥っていた。

「なんて破廉恥な!」
「早く! 早くあれを止めろ!」
「目が穢れる!」
「……不潔よ!」

団扇が落ち、羽ばたきが乱れて落下しかける

さらに――

「やめなさいよね!!」

美咲の怒声。

「変態! エロ狸!!」

(……ミサ。その通りだけど――)

だが。

荘五郎はどこ吹く風。

くねり。

ひねり。

振り向きざまにポーズ。

腰を振り。

ウインク。

次々とセクシーポーズを決めていく。

「ほい! 天狗どもよ!
 刮目せよと言ったじゃろうが!」

美女なのに。

声は完全に荘五郎。

「化け狸め! 汚いぞ!」

小天狗の怒声。

(――効果てきめん……まさに、爆弾!!)

「天誅じゃ! ほれほれ!」

くねっ。

尻尾を振り。

指でハートを作り、
唇を尖らせると――
うっふ~ん♡

ハートが宙を飛ぶ。

荘五郎。

性格……悪い。

「天狗。誇り高くて潔癖。目の毒」

古館先輩が、にやりと笑う。

(……狸と天狗……
 これ、絶対仲良くなれないやつ……)

だが――

確かに。

その一瞬。

攻撃が止まった。

空中の小天狗たちの動きが、
完全に乱れている。

翼の羽ばたきがバラバラだ。

そして。

その瞬間を――

誰よりも冷静に
見逃さなかった人がいた。

「義翠様! 今です!」

部長の鋭い声が響いた。

次の瞬間。

小川の向こう。

木々の影から現れた義翠様が、
蒼生君へ何かを素早く放り投げた。

弓矢――。

蒼生君がそれを空中で受け取る。

同時に。

山小屋の屋根を踏み台にし、
白刃を手にした特務の二人が宙を舞った。

「なにっ!?」

次の瞬間、

白刃に面を叩き割られた小天狗たちの、
羞恥の悲鳴が森に響き渡った。

「何処から!?」

残るは二羽。

戦場の流れが、
一瞬で塗り替わった。

そして――

義翠様と蒼生君。

一高弓道部の双璧が、
同時に弓を引いた。

弦が鳴る。

空気が震え――
森が、一瞬息を止める。

そして。

放たれた二本の矢が、
それぞれ天狗の面へと、一直線に風を裂いた――。
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