壊れた世界で紡ぐ未完成

月見団子

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総集編

壊れた世界で紡ぐ未完成

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『ふはははははははははは!!!!!!』
俺は狂ったように嗤う。
何もかもが壊れた世界で壊れた俺は嗤う。
壊れた世界で壊れた心を持つ俺は壊れた街と壊れた人たちを見て壊れた嗤いを発する。
本当に、くだらない。
この壊れた服の下にある何かはいつの日か笑いあった、生きていた何か。
この石や鉄はいつの日か、友や彼女と過ごした何か。
この壊れた何かは何かを愛した何か。
すべてが壊れた物は意味をなさない。
それに気づいたのはいつの事か。
それでも、俺にもそれらに意味を見出そうとしたこともあった。
そして、無理矢理でも意味を見出したこともあった。
それでも、今はすべてが無意味だ。
目の前にある“何か”も、俺が成すことも。
目の前の“何か”がある理由も、俺が生きる理由も。
「貴方は何を望みますか?」
『?』
「この世界で貴方は何を望みますか?」
『ふははははははははははははははは』
俺は狂った嗤いを発する。
『何を望むか、だって?
そんなの、とうの昔に無くなってラァ』
「では、その昔になくなってしまった願いすらも叶えられるとすれば?」
そんなの、ありえねえよ。
『そんなこと出来たら苦労しねぇんだよ。
友達も彼女も父も母も…町も市街地も商店街も都心も地方も国も世界も…心も体も…何もかも』
「……。」
『例え、願いがかなったとしてもこんな世界じゃ未完成に終わる。』
「それでも、叶えたいと思わないのですか?」
『あぁ。
確かに思ったさ…あの時まではな。』
「あの時…ですか?」
『知ってるんだろう?
あんたが神だって事は分かってるんだよ』
「さぁ、どうでしょうね。」
『はっ…諦めの悪いやつは嫌いだよ。』
そう。あの時は…願いがあって叶えたいと思った。
それこそ、自分の命に変えてでも。
_____。
〘ごめんね。
やっぱり…そうだった。〙
『ううん…大丈夫だよ。
…きっと、治療法はあるからさ、一緒に探そう!』
〘うん…そうだね。〙
このときの俺は本気で思ってた。
でも、ある日彼女は言った。
〘ごめん…本当にごめん。
私と、別れてほしい。〙
『急にどうしたんだよ
理由を聞いても良いか?』
そう俺が聞いても彼女は何も言わず、ただ
〘……大好きだよ。
最期まで…愛してます。〙
そう言って家を出た。
俺はあとを追いかけた。
玄関を出た僅か数秒の間。
彼女がドアを閉め、俺がドアを開ける僅か数秒。
10秒にも満たない。
ううん、5秒にも満たないかもしれない。
そんな時間で、彼女は。





































_______砂になった。_______

___彼女と出会ったのは19年前。
遥か昔の小学校入学式の時だ。
入学式の後に自分達の教室を教えられ、そこに行った後、それぞれの自己紹介という感じだ。
そんな、今思えば訳分からないしつまらないイベントの中に、彼女はいた。
その時はまだ彼女に興味など起きなかった。
同じクラスで隣の席のすごく明るい女の子。
名前は明星 水月あけぼし みずき
知ってるのはそれくらいだ。
自己紹介なんて聞いちゃいなかった。
ただ、楽しく、静かに学校生活を過ごせれば良かった。
でも、入学式から数日たったある日の下校途中。
水月が声をかけてきた。
〘ねぇ、一緒に帰ろうよ〙
『え、急にどうしたんですか?』
と、急に声をかけられたことで思わず敬語で返事をしてしまった俺に対し、水月は
〘ふふふ…なんで敬語なの?
同じ学年の、同じクラスメートじゃない〙
と、変わらず笑顔で接してくれたので俺も安心して
『あ、うん。
そうなんだけどね。』
と、普通に返事をすることが出来た。
後の話で、このときには既に俺に惚れていたみたいだ。
『それで、一緒に帰るんだっけ?
俺は良いけど君はどうなの?』
…思わず上から目線になってしまった…。
嫌な気持ちにさせただろうか。
〘どうなのって…面白いこと聞くね。
私は君と帰りたいからそう聞いたんだけど。
家の方向も一緒みたいだし〙
『え、そうなのか。』
〘うん、そうだよ~。
君、帰りの会が終わったら直ぐに帰っちゃうからさ…中々声をかけれなかったんだよ〙
『あ、あぁ、そりゃあクラスに残ってても意味ないからな』
〘でも、今日から意味ができたね!〙
『は?なんのだよ』
〘私と一緒に帰るっていう意味だよ!〙
『今日だけじゃないのかよ!』
〘そんなわけ無いじゃん〙
と、そんな感じでその日からずっと、下校時は一緒に帰ることになった。
最初は面倒くさかったものの、途中からは少しだけ楽しみになってきていた。
そして、2学期のある日あることに気がつく。
『なぁ…』
〘どうしたの?〙
『もしかして、君ってモテてる…?』
〘へ?…あ、う~ん、、、そう…かもね〙
『やっぱりそうかぁ』
〘急にどうしたの?〙
『いやさぁ…帰るときに視線が痛いんだよな』
〘へ~君ってそういうの気にするんだ~〙
『いや、そりゃな』
〘じゃあさ〙
そう言って、水月はいきなり手を繋いできた
『は?おま、何して?!』
〘…君、面白いね〙
と、水月はクスクスといたずらに笑っていた。
『~~っ…恥ずかしいからやめてほしい
あと、勘違いされるぞ』
〘なんの勘違いよ〙
『俺らが付き合ってるっていう勘違いだよ』 
〘ふ~ん…別に良いんじゃない?〙
『は?』
〘だって、私君のこと好きだし〙
『いやいや…好きってなぁ…。』
〘君は私の事嫌いなの?〙
『いや、そうじゃなくってな?』
〘じゃあ良いじゃない。
君、顔は整ってるし、女子の間では結構モテてるんだよ?〙
『君、そういうからかいは良くないと思うな』
〘からかいじゃ無いんだけどなぁ…。〙
『友達からなら…』
〘?〙
『友達からなら…良いよ』
〘ほんとに?〙
『うん…』
〘やったぁぁ!〙
『ってお前なぁ…急に抱きつくなよ』
でも、本当にこいつは可愛いんだよな。
そして、この瞬間も周りの視線がめっちゃ痛い。
俺、いつか殺されるんじゃないか?
まぁ、そんなこんなで俺らもついに小学校六年生となった。
この頃になると水月は何故か教室でも俺にくっついてくるようになった。
理由は女子たちを近付かせないようにだとかなんとか…。
そんな水月の行動に驚いていると、すぐに放課後になってしまった。
『さてと…帰ろっか。』
〘ん、珍しいね。
君から声をかけてくるなんて。〙
『たまにはそういう日があっても良いだろう?』
〘まぁ、私は嬉しいよ〙
そうして、家に帰ると…
『ただいま~』
〈[おかえり。]〉
と、父さんと母さんの声と一緒に
《やぁ、はじめまして、かな?》
『えっと…』
《水月の父のあつしだ。
少し、君の家にお邪魔しててね。》
〖母の咲希さきです。
よろしくね〗
〚……あ、姉の瑠奏るかなだよ。
よ、よろしくね〛
そんな会話をしてると玄関のドアが開いた。
〘お、お邪魔しま~す〙
案の定、水月である。
『えっと…なぜこんな状況に?』
[えっとねぇ…近所付き合いで仲良くなって…
水月ちゃんと仲がいいってことで私達も仲良くなったと言うかなんというか…]
『それで初日にこんな感じと。』
[まぁ、正確には前からなんだけどね…うん。
そんな感じ。]
『相変わらず母さんの人柄の良さには呆れるよ。
…いい意味で。』
〈所で…〉
と、父さんが口を挟んで…
〈彼女がいるなら何故言ってくれなかったんだ?〉
と言うもんだから
『〘ふっ……!!!〙』
と、二人揃って吹き出してしまった。
『いや、別に彼女…って訳じゃなくて。』
と、横目でチラッと水月を見ると悲しそうな顔をしてる。
『えっと…友達以上恋人未満みたいな?』
〈ふむ。
今の若い子は難しいんだな〉
〖そうだ。
水月、今晩はこの家に泊まっていきなよ〗
〘ふぇ?〙
[そうね、それが良いわ]
ママ友というのは怖いものである。
そして、本当に止まることになったのだが…
『どうしてこうなった?』
〘だって、この部屋に泊まって~って言ってたよ?〙
『…ベッドを貸してやったろ』
〘君が敷布団じゃ風邪ひいちゃうし。
…逆だと君が嫌がるし。〙
『風邪ひかねぇし、なぜこうなる。』
〘えへへ~暖かい〙
聞いてねぇし…。
『なぜに…同じベッドで寝る羽目になるのだ。』
🍡🍡🍡🍡🍡🍡🍡🍡🍡🍡🍡🍡🍡🍡🍡
そんなこんなで俺らは中学生になった。
周りは転校したりだとか、別々のクラスになったりだとか、様々な変化があったが俺らにはそれがなかった。
偶然なのか奇跡なのか。
…隣の席である。
そんでもって、中学校ではテストの点数に順位がつけられるらしい。
なんとも厄介なシステムだ。
小学校の時は目標もなかった為、点数も中の下くらいではあったが、中学では水月に釣り合うように少しだけ本気を出すことに決めた。
まぁ、その目標というか理由は後々分かる。
〘帰ろっか〙
『そうだな』
そうして、学校の正門を出たところで、水月が声をかけてきた。
〘ねぇ…〙
『うん?どうした?』
〘手…繋ぎたい〙
『あぁ…良いよ』
そうして手を繋いだのだが…
〘違うよ〙
『?』
〘恋人繋ぎで…がいい。〙
…無意識なのかわざとなのかは分からないが、その、上目遣い+目をうるうるは止めてほしい。
理性を保つのも大変なんだよ。
『わかったよ。
でも、どうしたんだ?急に』
〘寂しかった〙
『は?』
〘中学校に入ってから、教室で全然私の相手してくれない。〙
『あのなぁ…相手はしてあげたいけど周りの目が気になって出来ないんだ。
分かってくれ。』
〘…じゃあやっぱりあれをやるしかないかな?〙
『ぁぅ…』
〘ふふふ…けってーい!〙
『あ、ちょっと待てよ!』
俺らの家は学校から近いので、歩きなのだが、水月が走ると自転車よりも速い。
それについていく俺は大変だ。
途中で体力切れした俺は諦めて歩いて帰る事にした。
『なんだかんだあと五分位か。』
そうして家の前に俺はいた。
『なんか…嫌な予感がするぞ?』
恐る恐る玄関のドアを開ける。
鍵がかかっていない。
そして、そこに居たのは…。
〘おかえりなさい、日向君。
遅かったね〙
と、自転車よりも速い化物がそこにはいた。
『あれ~?帰る家間違えたかなぁ…。
家隣だし間違えることもあるかぁ…。』
と、玄関から出ようとしたが時すでにお寿司。
鍵を閉められていた。
〘さ、中に入って入って♪〙
間違いない。
ここは俺の家だ。
『ただいま、母さん、父さん』
〈[お帰り、日向。]〉
『ぁぅ…お久しぶりです。敦さんに咲希さん。』
〚私もいるよ~〛
『…瑠奏さんもお久しぶりですね』
《というか日向君。
いつになったら敬語を取ってくれるんだい?》
『それはなんというか…癖になってしまっているというか何というか…。』
そんな会話を交わした後、俺は手洗いうがいをし、ご飯を食べた後、ソファでくつろいでいたのだが…。
〘よ~いしょっとぉ〙
『…水月さん?
なんで、俺の膝の上にいるんです?』
〘嫌だった?〙
『別に嫌じゃないけどさ』
だからやめろってぇ!
その上目遣いは強すぎるって…。
『で、何時ころまで家にいるんだ?』
〘ご飯の時、話聞いてなかったの?〙
『え?』
〘今日はお泊りだよ?〙
『ぁぅ…そうですか。』
これは地獄だ。
そう思ったのだが、考えが甘かったらしい。
〘ねぇ…日向君。
こっち見てよ…。〙
『………。』
〚こっちを見てほしいな〛
…水月はもう諦めた。
だが…
『なぜ、瑠奏さんがここにいるんですか』
〚え?…う~ん、、、好きだから?〛
『なんで疑問形なんすか…。』
現在俺は二人に挟まれている。
右に水月、左に瑠奏さん。
…まさに地獄である。
とはいえ、奇跡というべきか。
何も起きずに朝になった。
訳がなかった。
朝起きた瞬間にそれは起きた。
『…朝か。
さてと…起きるかな』
…起きれない。
まず、右を目だけで見る。
水月が抱きついている。
左側を目だけで見る。
瑠奏さんが抱きついている。
おまけに足まで動かないと来た。
…この二人が動くまで俺は身動きが取れないのか。
てか、こいつら力強くないか?
手も足もガッチリ固定されているんだが…。
はぁ…諦めるか。
にしても、こいつらの寝顔可愛すぎかよ。
…昨日の瑠奏さんの言葉って…告白だよな。
いやいや…冗談に決まってるだろう。
そんな言葉で終わらそうとしても水月の言葉が頭によぎる。
_〘君、女子の間では結構モテるんだよ?〙_
…どこにモテる要素があるんだか。
そんなこんなで二度寝をしてしまった。
〘おーきーてーよー〙
『ん…』
〘あ、やっと起きたー〙
『うん…おはよ…』
手足は解かれたようだ。
〘おはよっ
朝ごはん出来てるよ~〙
『あぁ…ありがとう。
すぐに行くよ』
そうして、1階に降り、リビングに行って朝ご飯を食べる。
母さんも父さんも今日は仕事が休みの為、今日の夜まで明星家とは一緒に居るようだ。
…お昼の事件が起きなければ。
“ピーンポーン”と。
宅配便かな?
そう思ったその時だった。
[キャァァァァ!!!!]
母さんの悲鳴だ。
『〈〘〚《〖ッ!!!〗》〛〙〉』
先動いたのは父さんだった。
〈お前ら、そこを動くなよ!〉
だが、リビングを出てすぐに父さんの足が止まった。
〈なんで…母さん!〉
そしてすぐに
“バタンッ”何かが倒れる音がした。
…父さんだ!
直感的にそう感じた。
俺は走って玄関に向かう。
犯人が“ニタァ”と笑うのが見えた。
俺は背中がゾクゾクと震えた。
そうして、犯人が走ってくる。
手には右手にナイフを持っている!
俺は背中に冷や汗が流れるのと同時にあり得ないほど自分の心臓が落ち着いていて、脱力感が漂っているのを感じていた。
俺はナイフを避ける。
…確かに避けた…筈だった。
左手が固く握られていて、それに殴られる。
そのまま開いていたリビングにふっとばされた。
瑠奏さんと水月の悲鳴が小さく聞こえる。
明星家のご両親が二人の口を抑えてくれているのが横目に映る。
だが、すぐに視線が上に行く。
犯人がナイフを両手に持って振り下ろすのが目に見える。
後ろには壁。
絶体絶命のピンチである。
そして…俺は…。
『ここで…死んでたまるかァァァァァァ!!』
犯人の手首に手刀を叩き込み、ナイフを落とさせる。
そのままそのナイフを自分の手に持ち、1言。
『…俺を傷つける分にはどれだけ刺そうとも笑って許そう。
…でもな、テメェは俺の家族を傷つけた。
なぁ、どんな気持ちだ?
ただの中学生に殺されそうになる気分は』
「“ゴクリ”」
唾を呑む音が聞こえる。
ここまでは自己流の合気道。
殴られる瞬間に体をひねり、衝撃を緩和する。
相手が油断する瞬間に相手の武器を奪う。
さぁ、あとは自己流のナイフ術だな。
どこまでできるかは分からない。
俺がナイフを構えた瞬間、どこからか相手もナイフをもう一本出してきた。
『チッ…』
…アニメと自己流で鍛えたナイフ術を…中二病を舐めるなよ?
刹那、相手がナイフを刺突してくる。
俺は横に避ける…が、僅かに目元を斬られたらしい。
俺は一瞬ふらつき、相手をめがけてナイフを振り下ろす。
見事、相手の腕を傷つける事に成功。
次に眉間を狙う。
その瞬間だった。
〘やめて!〙
水月が叫ぶ。
〘もう…やめてよ。〙
水月が後ろから俺を抱きしめて止める。
『なんで…止めるんだよ
こいつは!…こいつ…は』
〘うん、分かるよ。
きっと…あの出血量じゃ、君の両親は…助からない。〙
『なら、俺はこいつを…殺さなきゃ…』
そう言って気づく。
ナイフを持った瞬間に俺の理性が崩壊していたこと。
右目からの出血が多いこと。
そして、既に俺の手からはナイフがなかった事。
犯人は既に、気を失っていた事。
〘君がこれ以上傷つく必要はないよ。〙
『ッ”……ア……
…父…さん……母…さ…ん…』
水月は黙って、俺を抱きしめていてくれた。
後の話で分かったが、俺がナイフを持ったときには既に明星家の両親が警察と救急に連絡を入れてくれていたみたいだ。
まぁ、警察の方は先に玄関に来ていた宅配の人が母さんの悲鳴を聞いて、呼んでいてくれたのだが、その宅配の人は腹部を深く刺されてしまい、亡くなってしまったらしい。
そして、水月が俺を止めた瞬間に警察が来た。
普通であれば銃刀法違反と致傷罪で少年院行きだが、明星家のみんなの証言で、自己防衛が認められ、逮捕されることはなかった。
ただ、目の傷は深く、ぎりぎり失明はなかったものの、右目の視力が少し落ちてしまった。
そして、父さんと母さんは心臓を刺されてしまっていて、出血多量で即死だったらしい。
犯人は腕に少し深い切り傷ができたが、
発達した医療技術のおかげで、数週間で警察病院から退院でき、数ヶ月ほどで腕も動くようになったらしい。
ただ、そいつは大量殺人で、既に30人ほど殺していたらしく、指名手配犯だったらしい。
…懸賞金は確か5300万円程だったとかなんとか…。
今回の事件でようやく捕まり、怪我が治ってから1ヶ月後に死刑が執行されたようだ。
どうやら、俺の家の屋根裏に隠れていたらしく、食料などがつき、物音建てずに玄関まで来たのは良いものの、運悪く宅配が来てしまい、バレたので殺したらしい。
事件の内容が客観的に見て、運の悪さが全てを起こしたと解釈できたため、後に
「運の悪さが招いた!?
休日の真っ昼間の住宅街で起きた惨劇」
と、題名がつけられ、数年間はTVで放送される事となった。
まぁ話は惨劇の1週間後まで戻り、今日から明星家で過ごす事になったのだが…。
『そして、なぜ君たちがここに来ているんだ?』
明星家の対応は手厚く、俺の個人の部屋を用意してくれたのだ。
…用意してくれたのだが…。
〘来ちゃ駄目だった?〙
〚いや…君の事が心配で…さ〛
『水月はまぁ良い。
瑠奏さんが布団に入ってくる意味は?』
〚え!なんで水月は良いの!?〛
『…諦めた。』
〚じゃあついでに私が布団に入るのも諦めてよ~〛
『いーやーだー
二人でも狭いのに、三人だともっと狭いよ』
〚ならもっとくっつこうよ〛
『…なぜそうなる』
〘お、イイね~
お姉ちゃんいいこと言うじゃん〙
『水月も乗るな。』
……
『動けない』
〘動く必要なくない?〙
『いやあるし』
〚じゃあ、男の子の力を使えば動けるんじゃないの?〛
『この、前と後ろでしっかりと固定されてる俺に言いますか?』
〘〚じゃあ、諦めなさい〛〙
『ぁぅ…』
これはまた地獄かもしれない。
       🍡12年後🍡
それから12年が経過した。
高校入学と同時に水月と瑠奏さんに同時告白をされ、俺は水月を選んだ。
大学を卒業した後、たまたま高収入の入る仕事につくことができ、あの時の3500万円と合わせて、俺と水月の住む家を建てた。
…お金が十分に余ったのだが。
瑠奏さんはあの時に潔く諦めたらしく、現在俺達の家に住んでいる。
『瑠奏さん…なぜにここに住んでいるのですか?』
〚え~…君のことが好きだから?〛
〘ちょ、日向君のことを盗らないでよ?〙
〚じょ、冗談だって~
…半分は本気だけど。〛
〘ねぇ日向君。
お姉ちゃんの事追い出そう?〙
『なら、水月。
俺の膝の上からどいてくれるか?』
〘いやだっ!〙
『じゃあ、追い出せないぞ?』
〘私がどかなきゃいけないなら追い出さなくても
良いやっ!〙
〚やったぁ!〛
そんな感じでテレビを見ていたのだが…。
「次のニュースです。
新種の病気が発見されました。
感染経路は接触感染、飛沫感染、空気感染、
媒介物感染の、4つが確認されています。
現在研究者たちがワクチンを作っていますが…
____。
なお、感染した人はピッタリ1ヶ月で1から6の数字が見え、それぞれ
1:砂
2:空気
3:石
4:水
5:事件
6:事故
の意味が確認されています。
そして、それから1週間以内に実際にそれになってしまうという恐ろしい病気です。
皆さんも感染には細心の注意を払ってください。」
そんなニュースが流れてきた。
…その時の俺らは関係ないと思っていた。
だが、現実は違った。
2ヶ月後
瑠奏さんと水月のお義父さん、敦さんが水になってしまった。
4ヶ月後
瑠奏さんと水月のお義母さん、咲希さんが事故にあってしまった。
6ヶ月後
瑠奏さんが石となってしまった。
そして、あの日。
水月か病院に行き、
病気が明らかになり、1ヶ月後。
〘数字が…みえる……〙
『ッ!!!』
〘これは……嫌だ…嫌だよぉぉ…!!〙
と、水月が抱きついてきた。
『大丈夫だよ。
…俺がついてる。』
抱きついてきた水月の力は強かった。
それでいて、小さく震えていたのを今でも覚えている。
その日から、俺は会社に事情を伝え、溜まりに溜まっていた有給を使うことにした。
水月は今までどおりにしようと無理をしていた。
それもそうだ。
今まで通りにしようと思っていても視界には数字が見えるのだから。
だからこそ、俺らは最後になるかもしれないその日を大切にした。
時折涙を流した水月を俺が抱きしめ、俺が泣きそうになれば水月が俺を抱きしめ泣かしてくれた。
俺はこんなにも弱くなってしまったのだろうか。
一番怖いのは水月であろうに。
俺が泣いてるんじゃ世話ないな。
そんなこんなで6日が経過した。
時の流れは早いものだ。
そうして、来てしまった。
…本当に突然だった。
ハッと。水月が焦りだす。
『お、おい。
どうしたんだよ』
水月は泣きそう…すでに涙を流している
顔で言った。
〘ごめん…本当にごめん。
私と、別れてほしい。〙
『急にどうしたんだよ
理由を聞いても良いか?』
そう俺が聞いても彼女は何も言わず、
ただ涙でぐしゃぐしゃの笑顔で
〘……大好きだよ。
最期まで…愛してます。〙
そう言って家を出た。
俺はすぐにあとを追いかけた。
玄関を出た僅か数秒の間。
彼女がドアを閉め、俺がドアを開ける僅か数秒。
10秒にも満たない。
ううん、5秒にも満たないかもしれない。
そんな時間で、彼女は。












































…砂となったのだ。
そうして、砂の中から出てきたのは、1枚の紙と、1枚の写真。
その紙には…。
『婚姻届』と書いてあり、
そこに記されていた名前は…。
俺の名前と水月の名前だった。
写真には、あの時の三人で行った遊園地で撮った、三人が笑顔の写真。
俺を二人が挟むいつもの状態で撮った写真。
暖かくも今は残酷なほどに冷たい写真と紙に変わってしまった。

………それから人々が姿を変えるのは早かった。
そして、3501年。
俺以外の人々は全員姿を変えた。
…もちろん、人々だけじゃなく、
人々の発展の結晶も姿を変えた。
ビルは倒壊し、コンクリートで作られた
都心には苔が生え、木が生え、水で溢れた。
地方の方が自然に帰るのは早かった。
民家の屋根からは木が顔を出した。
自然動物なんかは町中へ出た。
絶滅危惧種と、呼ばれていた動物すらも繁殖した。
なんなら、既に絶滅していたとされる動物たちですら、繁殖を始めた。
まるで、どこかで密かに暮らしていたかのように。
まるで地球の本当の姿のようだ。
そんな世界で、俺だけはなぜか生き残った。
そして、今に至る。
「貴方の思い出は覗いてきました。」
『勝手に覗くんじゃねぇ』
そういった俺は上着のポケットに手を突っ込む。
右のポケットの中には紙が。
左のポケットの中には写真が入っている。
「貴方は十分に神の祝福を受ける権利があります。」
『神の祝福だと?』
「えぇ。」
『だったら…質問に答えろ』
「良いですよ。
幾つでも」
『なぜ、あんな病気を蔓延させた。』
「…あれは私ではないです。」
『なんだと?』
「今は既に処刑された堕神が起こしたものなのです。」
『堕神…だと?』
「なぜ、1から6の数字だと思いますか?」
『そんなもの…わから、、ね
……サイコロ…か』
「そのとおりです。」
『神が…サイコロを…?』
「神はサイコロを振らない。ですよ」
『なら…その神は』
「そのとおりです。
サイコロを手に持ち、人々を絶滅させた。
だから堕ちた。」
『なら…なぜ俺は生きてるんだよ…!
なんで…俺だけをこんなに苦しませるんだ…ッ』
「ならば、今まで関わってきた人を全員生き返らせれば貴方の苦しみは無くなりますか?」
『ッ!!』
その冷徹なほどに感情のない質問に俺は冷静な思考を取り戻す。
確かに、単純に考えれば美味しい話だ。
でも、
…違うだろう。
いくら堕神が行なったものとはいえ、亡くなったことを無かったことにすれば、そいつらが一生懸命に生きたあの1ヶ月が無駄になる。
「そのとおりですよ。
悲しいのは分かります。
苦しいのもわかります。
でも、その人が亡くなったことに、必ず意味があるんです。
例え、理不尽な亡くなり方だったとしても、貴方が悲しむことで…その悲しみを乗り越える事でその人が亡くなったことに意味が生まれる。
…私が言ってるのはただの綺麗事に過ぎません。
ただの綺麗事だと捨てても構いません。
でも、心の何処かに留めておいて頂ければ、私が出てきた意味があるというものです。」
『水月は…瑠奏さんは…最後まで俺と居て幸せたったのかなぁ…』
そう言って写真をポケットから取り出す。
…既に写真からは水月の温かさは
無くなってしまった。
だが、そこには満面の笑顔で映る三人が居た。
「えぇ…きっと、幸せだったと思いますよ。
だって、最期まで、あんな笑顔で“愛してる”と、言ってくれる人は、中々いませんよ。」
そうして、とうとう俺の視界にも数字が見えた。
数字は…1。
水月と同じ数字だ。
内臓から、砂となっていくのがわかる。
尋常じゃない痛みだ。
けど、あの時の水月と瑠奏さんの様に、最後まで笑顔で居たかった。
だから、笑顔で最期の言葉を紡ぐ。
『みずき…るかな…さん!さいご、まで…おれも…
ふたりを、あいして、いるよ!』
そうして、ガハッと咳をするが、出てきたのは血ではなく、砂だった。
きっと、全てが砂となってしまったのだろう。
きっと、俺のこの姿は誰も憶えていてくれないのだろう。
最期は…誰かに看取ってもらいたかったな。
そんなのは…我儘だろうか。
なぁ!そこに誰かいるならば!
…この姿を見てくれているなば教えてくれ!
………俺は…人を愛することが出来ていたのかなぁ…。
あいつらと一緒にいて…良かったの…かな……あ…。
………………………………………。

「貴方も、なってしまったのですね。」
私は砂となった日向君を見ていた。
そして、そこから顔を出した1枚の紙を目にした。
「日向…君!〙
…その紙は私と日向君の婚姻届だ。
そう、私は神様ではない。
でも、あの話はすべて本当だ。
そして、それを伝えたくて、少しでも日向君の心の傷を癒やしてあげたくて、お父さんとお母さんとお姉ちゃんに協力を求めた。
幽霊となってしまった母さんに頼んで、石となったお姉ちゃんの周りに水となったお父さんをかけてもらい、砂となった私で周りを固めてもらえば、人の形の完成だ。
…なんとか人の形になることが出来た。
声だけは、本当になんで出たのか分からなかった。
奇跡でも起きたのだろうか。
そして、砂となった日向君に対して言葉を紡ぐ。
〘ずっと…好きだったんだよ…〛
〚最期まで本当に愛してた。》
《貴方は最期まで家族のために戦ってくれた。〗
〘〖《〚だから、ゆっくり、
   休んで、くださいね。〛》〗〙
____親愛なる日向君へ_
   ____大好きだった日向君へ_

____俺達の為に
     立ち向かってくれた日向へ_

____私達を
     守ろうとしてくれた日向へ_

____家族を最期まで
       愛してくれた日向君へ_

____家族のために
    世界に抗ってくれた日向君へ_

       「ありがとう」

〈[お前は紺野家の]〉
《〖君は明星家の〗》
〘〚貴方は私達の〛〙

     ___誇りだ___














そうして、私達の体もとうとう崩れ去り、
3501年5月3日
午後3時15分30秒
この壊れた世界で紡がれた物語に幕が閉ざされた。
この世界で幸せになるはずだった1363億2千万人が、泣いて、笑って、悲しみ、苦しみ
…足掻き、藻掻き続けた。

最期まで感染の危険に触れながらも患者を励まし続けた医療従事者たち。

自分自身を励まし続け、家族にも会えないまま姿を変えていった研究者たち。

世界に希望を求め、少しでもいい方向へと変えようとしてくれた政治家たち。

学校や会社などではできる限り笑顔で居ようとしても、心の中では家族が姿を変えてしまうのではないかと不安で沢山だった学生や社会人たち。

もう、会うことはないかもしれないと思いながらもその気持ちを必死に抑えながらいつもどおりに笑顔で
「行ってらっしゃい」
の一言をかけ続けた主婦たち。

悲しみに耐えながら、笑いながらも目元には涙を流しながら
「また、あしたね」
と、友達や恋人に声をかけ続けた日々。

あの一ヶ月で、ここでは語りきれない程の物語が生まれた。
このウイルスに
〔当たり前は当たり前じゃない。
その全てが奇跡でできている。〕
そんな簡単なことを気付かされた。
そりゃ、この一ヶ月が…このウイルスが生み出したのは数多の悲しみだ。
だが、人々は学んだ。
愚かな人々はこんな世界になってやっと気づいた。
我々は共存すべき動物をどうしてきた?
必要以上に殺し、絶滅にまで追いやった。
食料になった動物たちは無駄にされ、廃棄された。
それを燃やすために二酸化炭素が生まれ、自らが生きる地球を痛め続けた。
だが、そんな人々であろうとも、たった一つのことに関してはどんな生命体よりも特化していた。
それは……。



































…どこかで堕神が会話をしていた。
「結局、最期まで愚かでしたね。」
「あぁ、だが、それもまた美しい。
…愚かだと言うお前も最後は手助けしてたじゃないか。」
「まぁ、面白そうでしたから。
声を与えたらどんな言葉を紡ぐのかを。」
「まぁ、力は弱くなってしまって、最後は本人たちの声になってしまったが、ある程度は誤魔化せたろう。
本人たちの要望通り、な。」

「最期まで他人の為に行動を起こすことのできる最初で最後の生命体。」



_________人類________


         
「その人類。
どのような物語を見せてくれるのだろうな。」
「楽しみですね。」









※この物語はフィクションです。
実在する団体や人物などとは、一切関係ありません。
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みんなの感想(1件)

ままくま
2023.02.12 ままくま

とても、良かった。夢中で読んだ

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