最強✕最弱Re:start

月見団子

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第玖話

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「ねぇ、日向君。」「ん、どうした?」特訓場からの帰りの廊下で水月が声をかけてきた。「お願いだから…私の敵にならないでね?」「それは、もちろんだが…いきなりどうしたんだ?」「もし…君が敵として立ちはだかったら、私はきっと勝てないから」「おいおい、最強さんが何を言ってるんだよ」「さっきだって、私は無意識に手加減をしてたんだと思う。」確かに、それはそうだ。出なければ、水月の拳を俺が止められよう筈がない。新しいスキルを手に入れようとも、結局の所俺は Ⅰα なのだから。水月の協力がなければ最強になれない。水月を助ける事は出来ない。そんな、人間なのだから。「…安心しろ、絶対に俺はお前の敵にはならない。約束するよ」「その言葉、信じてるよ」「あぁ」そんな言葉を交わしていたときだ。廊下の向こうから革靴と思わしき足音が近づいてきた。この感じ、この気配は……「やぁやぁ、水月君。日向君。」「神魔さん、どうしたんですか?」「そんなに改まらないでくれたまえ、水月君。私はそんなに堅苦しいのは好まないんだ。」質問を返さない神魔に苛立ちを覚えながら俺は声を上げる。「なぁ、要件は何なんだ?」「あぁ、そうだったね。お礼を言いに来たのさ」「礼…だと?」「そうだ。先日、研究室にてDDSが暴走した事があっただろう?その時に“廃棄”してくれたのは君たち二人だったと聞いてね」廃棄、と。その単語が何故か耳に残る。研究とはいえ、見た目は限りなく人に近いのだ。それを廃棄すると表現する事を躊躇わないのはこいつの性格を表していると感じる。「それだけですか?なら、部屋に戻りたいのですが」「あぁ、時間を取らせてすまなかったね。部屋に戻ってもらって結構だ。」「では、失礼します。」「あぁ、そうだ。日向君に、一言」「?」「期待をしてるよ、君の“力”にね」その一言を投げつけた神魔は廊下を歩き去っていった。カツカツと、音を鳴らしながら。「私は君の力を口外してないよ…?」「あぁ、その心配はしてないから大丈夫だ。」「一体どこから漏洩したんだろう?」「あいつはなんか、そこが掴めないからなぁ、いつ、どこで俺達の会話を聞いているか分からない。今後は二人きりの時も気を付けたほうが良いかもな」「気が休まるときが無いよ…」「仕方ない。この世界では誰が敵なのか分からないからな」「特にこの組織内では、ね」でも、一つだけ確かなのは、水月が味方であり、唯一信頼を置いて良い存在であることだけ、だ。
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