英華女学院の七不思議

小森 輝

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英華女学院の七不思議 26

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 あれから、次に雛ノ森さんと会ったのは、月曜日の午前中。3時間目の授業だった。
 お互い、自分の頭を整理する時間も必要だろうということで、土曜日はあれから話し合うことなく別れた。そして、日曜日を挟んで、今日、月曜日。
 雛ノ森さんの様子が気になっていたが、授業にもちゃんと出席しているし、集中力を欠いている様子でもない。心配していたが、杞憂に終わってしまったようだ。
 それよりも、人の心配より、自分の心配をした方がいいかもしれない。
 休みだった日曜日は一日中、部屋で考えていたのだが、正直、私自身、まだ整理がついてない。私には、あの骸骨が脳裏に焼き付いている分、現実との区別が付いていないのかもしれない。
 日曜日に一日中悩み、さらに月曜日までそれを引きずっているのだが、授業中に私情を挟むような愚か者ではない。
 今日の授業もいつも通り行い、予定通りの場所まで進み、ちょうどよくチャイムが鳴った。
 出勤時は少し不安だったが、何事もなく授業を終えることができた。と思ったが、今日はいつも通り終わってはくれなかった。
「橋本先生。少しお時間よろしいですか?」
 私に話しかけてくるのはいつだって彼女だ。でも、今日は珍しく教室で話しかけてくれた。だが、珍しいのはそれだけではない。
「どうしましたか、雛ノ森さんと……」
 今日は雛ノ森さん一人ではなく、隣には別の生徒が立っている。授業終わりなので、もちろん、雛ノ森さんと同じクラスの1年3組。確か、名前は……。
「桃家薫(ももか かおる)さんです。先生、同じクラスなんですから忘れるなんて酷いですよ」
「忘れていたわけではないですよ。名前を思いだそうとしていたのに、先に言われてしまっただけで……」
「本当ですかぁ?」
 雛ノ森さんがお嬢様にはあるまじき卑しい顔で見てくるが、面倒なので相手にはしないでおこう。
 確かに、私は1年3組の副担任なので、生徒の名前を覚えておいて当然 なのかもしれないが、私が授業を担当しているのは1年3組だけではない。1組、2組も担当している。生徒の名前が瞬時に出てこないことなんて許してほしい。私はまだ20代だが、これから歳をとれば物忘れも多くなってくるだろう。生徒のみなさんには、雛ノ森さんのような意地悪にならず、関大な心で許してほしいものだ。
 面倒と思いながらも、結局、雛ノ森さんのことを考えている自分が腹立たしく思えるが、表面に出てしまう前に話の続きを促そう。
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