英華女学院の七不思議

小森 輝

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英華女学院の七不思議 53

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 後日、相談事も解決し、別に用事はないというのに、雛ノ森さんはしょっちゅう私のところにやってきた。昼休みはほぼ毎日。放課後は1日おき程度に私のところに来てはとりとめのない話を聞かされていた。でも、悪い気はしていない。それに、私に利点がないというわけでもない。
 今日は授業後にある清掃時間の終わりにゴミ捨てを頼まれたのだが、ちょうど来ていた雛ノ森さんが手伝ってくれている。
「先生、あの話、真面目に考えてくれていますよね?」
「考えるまでもなく、却下です」
 あの話というのは、私を探偵部の顧問にして正式な部活にしようという企みである。今は家の問題も解決傾向にある冬美さんもいるので活動も徐々に再会しているらしい。
「それより、冬美さんの様子はどうですか? 困った様子はありませんか?」
「先生が心配しなくても大丈夫ですよ。冬美さんには梅本先生がいますから」
 やはり、梅本先生は献身的に冬美さんのことを考えてくれているようだ。最初こそ、職員室で唸っていたが、最近はその声も聞かないし、うまくやっているのだろう。
「というか、先生、冬美さんって下の名前で呼んで、やけに親しげじゃないですか」
「お姉さんと区別するためですよ。名字で呼んでは、どちらか分かりませんからね。何か問題でも?」
「いいえ。別に……」
 なぜか不服そうにしていたが、何かを思いついて急に明るい笑顔になった。
「そうです。私も下の名前で呼んでくださいよ」
「雛ノ森さんは名字が被っている生徒もいませんし、わざわざ下の名前で呼ぶ必要はないと思いますが」
 この学校には、今、雛ノ森という名字の生徒は一人しかいない。学年が上がり、雛ノ森という名字の生徒が入学するかもしれないが、その時はその時で考えればいいだろう。
「いいじゃないですか。私と先生の仲は密なんですから」
「大人をからかうのはやめてください。恋仲でもあるまいし」
「恋仲でもいいですよ、私は」
 その言葉に、不覚にも心が高鳴った。
「私、先生みたいな女性のことを理解してくれる男性となら結婚してもいいと思ってます。もちろん、私には婚約者がいますが。それでも、先生となら、駆け落ちしてもいいかなって」
 それは、纏わり付く甘美な誘い。
 でも、私は生徒との不純異性交遊でこの学校を辞め、どこか遠くで職を探すなんて結末にはなりたくない。
「そんな悪趣味な冗談はよしてください」
「冗談だってばれてしまいましたか」
 不安は尽きないが、それでも、私はこの女子校の数少ない男性教師として職務を全うすると誓おう。
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みんなの感想(1件)

堅他不願(かたほかふがん)

 まだまだ序盤ですが、女子高特有の雰囲気が伝わってきそうです。主人公の若く荒削りな熱心さがいいですね。

小森 輝
2019.06.09 小森 輝

ありがとうございます!今月中の完成を目指して頑張っていきますので、なにとぞ、最後まで見守ってください。

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