町一番の支援魔法の使い手は元オタサーの姫! ~本気の想いは届かない~

小森 輝

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4 私の想いが届かない

町一番の支援魔法の使い手は 58

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 恥ずかしさとお尻の痛みに耐えながら、馬を走らせ、やっとの思いで町へと帰ってきた。
 無事にギルドまで連れて行かれた私は、先に降ろされ、コンさんは馬を返し、そして馬車の弁償をするために借りた場所へとひとっ走りしに行った。
 一人取り残された私だが、ギルドの前はそんな寂しさを吹き飛ばすように賑やかだった。
 夜に暗闇の中で女の子一人なのも危ないし、コンさんにも先に入っておいて良いと言われていたので、騒がしいギルドの中へと入った。
 相変わらず、騒がしいギルドだ。しかも、私たちは魔石を換金することもできないほど遅くに帰ってきたパーティー。もう宴会が始まっていて、みんな適度にお酒が入っているので騒ぎたい放題だ。
「とりあえず……コンさんが帰ってくるまでは待機かな……」
 団長さんに報告しに行かなければならないのだが、それもコンさんが来てからの方がいいだろう。帰りが遅くなったことを一緒に謝らないといけないし。
 ただ、コンさんを待つと言っても、このまま入り口で立ち尽くすのも邪魔になってしまう。かといって、席に座って料理を注文するわけにもいかない。
 料理といえば、朝食を頂いたお礼をちゃんと言ってなかった。ちょうどいいので、コンさんを待っている間にお礼を言っておこう。
 そう思い、厨房の方へ行ってみる。
 夜の宴で忙しそうな厨房を覗いてみると、中は以外と静かだった。朝のマッチョ巨漢の人がいた時の方が騒がしかったぐらいだ。つまり、あの巨漢の人はいない。代わりに厨房に立っているのは、真っ黒な鎧で全身どころかフルフェイスで顔まで完全に隠している西洋騎士だった。巨漢と言うより、コンさんのような細マッチョタイプだろうか、そんなに体が大きいという印象はない。ただ厨房に似つかわしくない西洋甲冑で、しかも、なにか黒いオーラまで放っているような気さえする。ただ一つ、厨房らしい物は真っ白なコック帽だろうか。厨房という意味では正解なのだが、西洋甲冑の上に乗せてあるので違和感しかない。やはり、このギルドにはまともな人はいないのだろうと改めて実感した。
「ん? あぁ、君、新人ちゃんだよね? 厨房になにか用事? ってそんなの注文に決まってるよね。分かるよ。初めてのお店だと注文方法が分からないよね。でも、気軽に呼んでくれて良いから。私たちも仕事でしているんだから、こき使ってにゃん」
 ウェイターをしている猫耳のかわいい獣人の人が話しかけてきた。ただ、彼女の予想とは違い、私は注文がしたいわけじゃない。
「えっと……注文じゃなくて……その……人を捜していて……」
「人? コックは見ての通り一人だけだし、ウェイターなら私もそれなりに顔も名前も知っているから聞くとよろしい」
 頼もしく胸を張ってくれている。ただ、私が探しているのはウェイターさんではない。
「えっと……名前……」
 そう言えば、あの巨漢の人の名前を聞いていなかった。でも、あんな特徴的な人なら出会っていれば誰でも分かるだろう。
「あの……厨房で料理を作ってくれたすごいマッチョで大きい男の人なんですけど……」
「もしかして、それって朝のこと?」
「そうです、そうです」
 やっぱり、あんな特徴的な人、誰でも知っているようだ。でも、このギルドのコックさんだと思っていたが、明らかにあの暗黒騎士さんではない。
「ごめんなさいね。朝だけなの、グッドモーニングさんは」
 そうなんですね。じゃあ、明日の朝にします。お仕事のお邪魔をして申し訳ありません。
 そう言おうと思っていたのだが、私の言葉の前に、ウェイターの猫獣人の方の真横を通り、壁にストンという音を立てて包丁が突き刺さった。
 包丁の軌道を辿って行くと、そこにはあの暗黒騎士のコックさんがより一層の禍々しいオーラを放ちながら睨んでいた。
「ダンジョン以外の戦場で、その名前を私の耳に入れるな」
 厨房とは思えないほど殺気で満ちあふれていた。
「す、すいません、グッドナイトさん。そ、そうだ。私、食器を下げに行かなきゃいけないんだった」
 そう言って、猫獣人のウェイターさんは去って行ってしまった。
「ふん。黙って仕事に集中していればいいんだ」
 そう言って、再び暗黒騎士コックのグッドナイトさんは黙々と調理に取り組んだ。
 まあ、グッドナイトさんには怒られてしまったが、私がお礼を言いたいグッドモーニングさんは朝限定だと言うことも分かった。というか、朝はグッドモーニングさんで夜はグッドナイトさんなんて、いったい誰が命名したのだろうか。
 そんな疑問を考えていると、後ろから聞き慣れた叫び声が聞こえてきた。
「うおぉぉぉい! どこ行ったぁぁぁ!」
 コンさんが、私が見つからなくて、入り口で叫び声を上げていた。酒を飲んでいる人たちみんなが迷子だとか女に逃げられたとか、そんな憶測を飛ばしていた。
 とても行きたくないのだが、このまま叫ばれ続けたらさらに行きにくくなるので、早めにコンさんの元へと行った。
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