町一番の支援魔法の使い手は元オタサーの姫! ~本気の想いは届かない~

小森 輝

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4 私の想いが届かない

町一番の支援魔法の使い手は 59

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 今日は何度も恥ずかしい思いをしながら、最後の勤めである団長さんへの報告に向かった。
 コンさんは団長さんの部屋の扉をノックすると、心の準備もする暇なく、コンさんは扉は開いた。
「入るぞ、まっさん」
 部屋の中からの許可も貰っていないのに入っていったコンさんに続いて私も団長室へ入った。
「よく生きて戻ってきてくれたね。まずはそこを誉めよう」
 そう言っている団長さんだが、明らかに声音が低く怒っている。間違いなく帰りが遅くなったことが原因だろう。ただ、コンさんはそんなのどこ吹く風といった様子で話を進めていく。
「今日、攻略したダンジョンなんだが、中層まではクリアした。そんで、ショートカットも発見した。あのダンジョンは少し特別な構造をしていた、中層までクリアすると上層の通路が現れるってもんだった。だから、明日、上層からスタートして攻略したら、明後日にはボス戦だ。どの程度の規模になるかは分からねえが、珍しい仕組みなだけに期待できそうだぜ」
「そうかそうか。なるほど。お前たちは中層まで攻略できたと。それは喜ばしいことだな」
 全く声が喜んでいない気がする。やはり、相当、怒っているのだろう。

「それで、こんな時間までダンジョン攻略していたというわけか。だが、言ったよな? コン、お前がダンジョンで狩りをする条件として時間は厳守することって。しかも、今日は初めてお前とパーティーを組むキラリさんもいるんだぞ。もっと時間に余裕を持ってだな……」
 完全に説教モードに入っていると見て間違いないだろう。ここで私が支援魔法同様、サポートに入らないといけない。
「すいません。私が招いた問題のせいでこんなに遅くなってしまったんです」
「ん? どういうことかい?」
 嘘偽りなく、私たちがダンジョンで起こったことを話した。
「順調にダンジョン探索を進めていたんですけど、私の元パーティー、その……正規の3ギルドに所属している冒険者の人たちとダンジョン内で遭遇してしまって……それで、その時は大丈夫だったんですけど、帰り道で一本しかないダンジョンの通路を壊されて、それでショートカットを見つけるしかないって話になりまして、それで時間もかかりましたし、ダンジョンを無事に脱出した後も馬車を壊されていたりとか、私の元パーティーのせいでコンさんも巻き込んでしまって……」
「まあ、そんなことだろうと思っていたけど……本人の目の前でそんなあからさまに嫌がらせをしてくるとはね」
 団長さんもこの展開を予測はしていたようだ。
「つまり、俺は悪くない! 何も悪くないんだからな! だから、ペナルティーなんてあり得ねえからな!」
 絶対にペナルティーは受けたくないという強い意志を感じる。コンさんが嫌がることと言えば、おそらく、1週間ダンジョン禁止とかそんな類だろう。
「まあ、ペナルティーは多めに見よう。大体、お前をパーティーに入れたのも護衛が第一の目的だったわけだし」
「護衛、ですか?」
「あぁ、うちのギルドに仮入団したとはいえ、今回のように正規ギルドから嫌がらせを受けることは目に見えていたからね。なら、こっちも嫌がらせをしようと思ってね。少々、喧嘩っ早いが、このギルドでも上位の実力を持ち、単独での戦闘能力が一番高いコンを選んだんだ。結果として、こうやって二人とも帰ってこれたんだから正解だったみたいだね」
「そう……ですね」
 結果として見ると、二人とも生きて帰ってこれてこの組み合わせは正解だったように見えるのだが、私とコンさんの相性はあまりよくない。いいや、最悪といってもいい。なんせ、私の支援魔法がコンさんのスキルで上書きされてしまうから。なんとか最後に刀に支援魔法を使うなんて変な使い方を思いついたが、あれを思いついていなければ、もしかするとコンさんもあの巨大ゴーレム型モンスターに勝てずにいたかもしれない。そう考えると恐ろしいものがある。
「それじゃあ、今後も二人でお互い助け合ってダンジョンを探索してくれ」
「仕方ねえな。こいつのお守りぐらいしてやるよ」
「…………」
 コンさんにお守りと言われて、言い返せないのが悔しい。私が役に立ったのは最後だけで、途中までは完全に荷物持ちだった。
「一応、パーティーなんだから……まあ、その辺は後々学べばいい。それより、明日は上層を攻略しに行くんだよな? 何があるか分からない。気をつけて行くんだぞ」
 これで話は終わりと、団長さんは話を綺麗に締めくくったが、コンさんは気まずそうにしていた。
「それなんだが……まっさん、俺は明日、休みだわ」
「や、休み!?」
 コンさんの口から休むなんて言葉が出てくるとは思わなかったが、それは私だけではなく団長さんも同じだった。いや、声に出している分、団長さんの方が驚いているかもしれない。
「あぁ、刀が使い物にならなくなってな。これじゃあ、断罪できねえ」
 そう言えば、コンさんの刀は刃こぼれで使い物にならなくなっていた。
 一応、私の無敵付与で一度だけ切れる状態にできるのだが、一度だけで再使用まで時間もかかるので買い換えるべきだろう。そのため、明日は休むと言い出したのだ。
「それはいいが、ダンジョンはどうする?」
「それなら他に任せる。ショートカットが分かりにくい訳じゃないし、途中からと言っても上層はスタート地点から始まるからな。面倒な引継も不要だろ」
 刀を買いに行くのも大事だが、私としては初のダンジョン踏破も魅力的なのだが、コンさんが言うのなら仕方がない。
「分かった。じゃあ、他のパーティーに回しておくよ。順当に行けば、明後日がボス戦だから、それには間に合わせておいてくれよ」
「分かってる」
 これで話は終わったと、コンさんはドアの方へと向かって行ってしまった。
「それじゃあ、キラリさん。すまないけど、明日は休日だ。まあ、今日はいろいろ疲れただろうし、明日はしっかり休むといいよ」
「……分かりました」
 少々不服だが、決まったことは仕方がない。明日は休みだ。とは言っても、急に休みと言われても何をしていいのか考える。
「行くぞ!」
「は、はい!」
 いろいろ考えが巡っていたが、コンさんの指示に従って、私は団長室を後にした。
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