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5 私の波乱の休日
町一番の支援魔法の使い手は 61
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コンさんに連れられて、朝の町を歩き、換金所までやってきた。
朝というだけあって、人は少ない。これならヘイトさんと一緒に来たときのように誰かに絡まれるようなことはなさそうだ。
ただ……。
「っざけんなよ! 俺の顔ぐらい知ってんだろ! くっだらねえ天引きしてんじゃねえよ! いい加減、こんなくそったれた商売、やめちまえ! 働かざるもの食うべからずって言葉を知らねえのか!」
ヘイトさんのキレ方もすさまじかったが、コンさんはもう暴言が酷い。しかも、人が少ないせいで換金所にコンさんの叫び声がよく響く。
そんな様子を傍観しながら、いずれ私もこのキレ芸を覚えなければならないのだろうと、遠い目をしていた。
「ったく、顔ぐらい分かってんだから最初から正規の値段で換金しろよな」
「あぁ……」
この仕組みは日本にた私だからこそよく分かる。
おそらく、受付の人は換金率によって給料が変わってくるのだろう。ぼったくればぼったくるほど給料がよくなる。いわゆる歩合制という奴だ。
「まあ、仕方ないですよ。受付の人は悪気があってやってる訳じゃないんですから」
「悪気がなけりゃ何やってもいいってわけじゃねえんだよ!」
それは正論で正しいことなので、なんの反論もできない。
「まあいい。行くぞ」
「えっ……行くってどこに……?」
「決まってんだろ。刀を買い換えに行くんだよ。分かったらさっさと付いてこい!」
それは私が行く必要はあるのだろうかと問いかけたい気持ちだったが、聞く気はないといった様子でスタスタと歩き出したので、仕方なく私もコンさんの後を追った。
コンさんについて行き、中心部を離れ、家と家の間の細い道を歩き、たどり着いたのは年期の籠もった鍛冶屋だった。
こんなところで営業しているいぶし銀の店なんて、正直、私一人では絶対に入れない。
そんな私とは対照的に、コンさんは躊躇なく錆びたドアノブを押した。
「じじぃ! いるかぁ?」
開口一番、すごい失礼な物言いだった。
「なんじゃ、コンか。また剣をダメにしたのか。ありゃ作るの難しいんじゃぞ!」
店の奥から、いかにも職人のような髭をこしらえたおじいさんが出てきた。
「なんじゃ、コン、ついにガールフレンドを作ったんか? なんじゃ、なんじゃ、興味がない風を装っておってもやることはやっておるではないか」
「ちげえよ。ただのパーティーメンバーだ」
「パーティーメンバー? たった二人でか? はぁ……初のぉ初のぉ」
「いい加減にしろよ、クソじじぃ」
想像通り、こういうウザ絡みはコンさんの逆鱗に触れるようだ。
「刀を出せ。今のは使い物にならなくなっちまった」
鞘から出した刀は刃がもうほとんどなくなっていた。この状態でも諦めず戦っていたと思うと、コンさんの精神力は計り知れないものがある。
「こんなにボロボロになるまで……」
自分が丹誠込めて作った刀がこんな見るも無惨な姿になっていたら、それは悲しいだろう。と思ったが、どうやらそうでもないようだ。
「ま、そろそろじゃろうと思って、新しいの打っておいたわい。ほれ」
そう言って、おじいさんはあらかじめ用意していた2本の刀を出してきた。それをコンさんは無言で抜き、品定めをする。
「じじぃにしてはいいの作ったじゃねえか」
「まあな。老いぼれでも日々着実に技術を伸ばしておるんじゃ」
私には、この刀のなにのどこがいいのかは分からないが、二人の話ではいいものなのだろう。
「よし、買った」
「毎度あり。そんじゃあ、お代を」
「あぁ」
そう言って、コンさんは今日換金したお金が入った革袋を取り出した。
「おぉ……太っ腹ぁ。やっぱり、ガールフレンドに格好いいところを見せたいんじゃないか」
「ふざけるな。全部渡す訳ないだろ。この刀の分だけだ」
「なんじゃ、ケチくさいのぉ。なあ、そうは思わんか? そこのお嬢さん」
「えっ……いや、その……」
少しぐらいは私に回ってくると思っていたので、なんて言ったらいいのか分からずに口ごもっていると、代わりにコンさんが答えてくれた。
「無駄だぞ、じじぃ。この金はそいつの金も含まれてんだからな」
「なんじゃ、それじゃあ儂が取るのは気が引けるじゃないか」
「ケチくさいこと言うなよ。そこのお嬢さんの取り分が少なくならないように配慮して値段を決めやがれ」
「ぐぬぬ……」
チラリと助けを求めるようにおじいさんが私の方をみてきたけれど、助けられはしないので、愛想笑いをして返事をしておく。
「この卑怯もの! これで勘弁してやるわ!」
そう言って、おじいさんは革袋から金貨を鷲掴みして取り出した。
「何言ってんだ。適正価格ほどの金貨を掴み取っているくせに」
コンさんの言うとおり、一掴みでもかなりの金貨の量だ。しかも、なんだかこのおじいさん、手のひらが大きいように見える。これが職人の手なのだろうか。ただ、今回は無駄な技術に使われたようだが。
「それじゃあ、また使い物にならなくなったら来るから、そのときまでに今よりいいのを用意しといてくれよ」
刀の買い物も案外早く終わり、私とコンさんは二人で店を出た。
朝というだけあって、人は少ない。これならヘイトさんと一緒に来たときのように誰かに絡まれるようなことはなさそうだ。
ただ……。
「っざけんなよ! 俺の顔ぐらい知ってんだろ! くっだらねえ天引きしてんじゃねえよ! いい加減、こんなくそったれた商売、やめちまえ! 働かざるもの食うべからずって言葉を知らねえのか!」
ヘイトさんのキレ方もすさまじかったが、コンさんはもう暴言が酷い。しかも、人が少ないせいで換金所にコンさんの叫び声がよく響く。
そんな様子を傍観しながら、いずれ私もこのキレ芸を覚えなければならないのだろうと、遠い目をしていた。
「ったく、顔ぐらい分かってんだから最初から正規の値段で換金しろよな」
「あぁ……」
この仕組みは日本にた私だからこそよく分かる。
おそらく、受付の人は換金率によって給料が変わってくるのだろう。ぼったくればぼったくるほど給料がよくなる。いわゆる歩合制という奴だ。
「まあ、仕方ないですよ。受付の人は悪気があってやってる訳じゃないんですから」
「悪気がなけりゃ何やってもいいってわけじゃねえんだよ!」
それは正論で正しいことなので、なんの反論もできない。
「まあいい。行くぞ」
「えっ……行くってどこに……?」
「決まってんだろ。刀を買い換えに行くんだよ。分かったらさっさと付いてこい!」
それは私が行く必要はあるのだろうかと問いかけたい気持ちだったが、聞く気はないといった様子でスタスタと歩き出したので、仕方なく私もコンさんの後を追った。
コンさんについて行き、中心部を離れ、家と家の間の細い道を歩き、たどり着いたのは年期の籠もった鍛冶屋だった。
こんなところで営業しているいぶし銀の店なんて、正直、私一人では絶対に入れない。
そんな私とは対照的に、コンさんは躊躇なく錆びたドアノブを押した。
「じじぃ! いるかぁ?」
開口一番、すごい失礼な物言いだった。
「なんじゃ、コンか。また剣をダメにしたのか。ありゃ作るの難しいんじゃぞ!」
店の奥から、いかにも職人のような髭をこしらえたおじいさんが出てきた。
「なんじゃ、コン、ついにガールフレンドを作ったんか? なんじゃ、なんじゃ、興味がない風を装っておってもやることはやっておるではないか」
「ちげえよ。ただのパーティーメンバーだ」
「パーティーメンバー? たった二人でか? はぁ……初のぉ初のぉ」
「いい加減にしろよ、クソじじぃ」
想像通り、こういうウザ絡みはコンさんの逆鱗に触れるようだ。
「刀を出せ。今のは使い物にならなくなっちまった」
鞘から出した刀は刃がもうほとんどなくなっていた。この状態でも諦めず戦っていたと思うと、コンさんの精神力は計り知れないものがある。
「こんなにボロボロになるまで……」
自分が丹誠込めて作った刀がこんな見るも無惨な姿になっていたら、それは悲しいだろう。と思ったが、どうやらそうでもないようだ。
「ま、そろそろじゃろうと思って、新しいの打っておいたわい。ほれ」
そう言って、おじいさんはあらかじめ用意していた2本の刀を出してきた。それをコンさんは無言で抜き、品定めをする。
「じじぃにしてはいいの作ったじゃねえか」
「まあな。老いぼれでも日々着実に技術を伸ばしておるんじゃ」
私には、この刀のなにのどこがいいのかは分からないが、二人の話ではいいものなのだろう。
「よし、買った」
「毎度あり。そんじゃあ、お代を」
「あぁ」
そう言って、コンさんは今日換金したお金が入った革袋を取り出した。
「おぉ……太っ腹ぁ。やっぱり、ガールフレンドに格好いいところを見せたいんじゃないか」
「ふざけるな。全部渡す訳ないだろ。この刀の分だけだ」
「なんじゃ、ケチくさいのぉ。なあ、そうは思わんか? そこのお嬢さん」
「えっ……いや、その……」
少しぐらいは私に回ってくると思っていたので、なんて言ったらいいのか分からずに口ごもっていると、代わりにコンさんが答えてくれた。
「無駄だぞ、じじぃ。この金はそいつの金も含まれてんだからな」
「なんじゃ、それじゃあ儂が取るのは気が引けるじゃないか」
「ケチくさいこと言うなよ。そこのお嬢さんの取り分が少なくならないように配慮して値段を決めやがれ」
「ぐぬぬ……」
チラリと助けを求めるようにおじいさんが私の方をみてきたけれど、助けられはしないので、愛想笑いをして返事をしておく。
「この卑怯もの! これで勘弁してやるわ!」
そう言って、おじいさんは革袋から金貨を鷲掴みして取り出した。
「何言ってんだ。適正価格ほどの金貨を掴み取っているくせに」
コンさんの言うとおり、一掴みでもかなりの金貨の量だ。しかも、なんだかこのおじいさん、手のひらが大きいように見える。これが職人の手なのだろうか。ただ、今回は無駄な技術に使われたようだが。
「それじゃあ、また使い物にならなくなったら来るから、そのときまでに今よりいいのを用意しといてくれよ」
刀の買い物も案外早く終わり、私とコンさんは二人で店を出た。
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