1 / 55
1 冒険の幕開けは突然で
アルスター 1
しおりを挟む
ある特別な日の帰り道。
数人の子供たちが集まって泣いているのを見つけた。
「どうしたんだ? お前たち」
「あ、アルにぃ。作ってたブレスレットが欠けちゃって……今日、アルにぃに」
「ちょ、ちょっと、言っちゃだめでしょ!」
「ご、ごめん。アルにぃ。自分たちでどうにかするから」
そそくさと離れて行ってしまった。
「そうか……」
僕はそこまで鈍感ではない。
あれは、僕のために作ってくれている物なんだろう。だって、今日は僕の16歳の誕生日だから。
家に帰るが、母親はいない。今日は特別な日だから、夕飯は家ではなく村の小さな教会に準備してある。
今日はお祝いだ。
教会の扉を開けると、騒がしい声が広がってくる。
口々におめでとうという言葉を聞かされ、僕は幸せな気持ちになる。
小さな村を上げて、盛大に祝ってくれた。僕は幸せ者だ。
豪華な夕食を終えると、誕生日の贈り物を受け取った。村の子供たちからは少し不格好な腕輪を。村の大人たちからは少しばかりのお金を。母からは星がぶら下がったネックレスを。
みんな、涙を浮かべながら渡してくれた。まるで、明日、僕が死ぬかのように。もちろん、明日、僕が死ぬ訳ではない。ただ、この村から居なくなることは事実だ。
夕食会も終わり、家に帰った僕は、ゆっくり、確かめながら準備をした。
「アルスター。こんな夜中に出発しなくても……。日が昇ってからでも遅くはないわ」
母親が心配そうに言ってきたが、これはずっと前から決めていたことだ。
「夜中に出発したら、朝には王都に着くからね。そっちの方が、職探しも宿探しも楽だろうし、それに……」
「ベスターのことは心配しなくてもいいのよ?」
「いいや。ベスにぃは必ず見つけだすよ」
僕には兄がいる。今の僕と同じように3年前に村を出て行った。でも、それ以降、帰ってきてはいない。そんな兄を探すためにも、少しでも早く王都へ行きたいのだ。
「アルスター。自分の身のことを一番に考えて。必ず、戻ってきて」
「分かっているよ。1年後、僕の誕生日に稼いだお金を持って来るから」
僕は王都へ遊びに行くのではない。16歳という大人になった僕は王都へ出稼ぎに行くのだ。頭はそれほど良くないから、傭兵としての仕事を探そうと思っている。危険は伴うが、日々、畑を耕して体力は付いているし、暇な時間は剣の練習もした。
「それじゃあ、行ってくるよ。母さんも僕が帰ってくるまで元気にしていてよ」
家の扉を開け、出発、と思ったが、開けた扉の向こうに少女が立っていた。
「モーガン。見送りに来てくれたの?」
小さい頃から毎日のように会っていた幼なじみの少女。でも、これからは年に1度、僕の誕生日にしか会えなくなる。
「アルスター。これ……」
大事そうに握っていた拳を開くと、そこには一つの指輪があった。
「僕に?」
「うん。大事にして。きっとあなたを守ってくれるから」
「ありがとう」
てっきりくれると思って手を差し出したが、渡してくれる様子がない。
「右手じゃなくて……」
「右手じゃなくて?」
「右手じゃなくて、左手を出して」
貰う手が何か重要なのかと疑問に思ったが、言われたとおり、利き手の右手を引き、左手を差し出した。
「付けてあげる。たぶん、サイズはぴったりだから……」
僕の左手を握り、薬指に指輪を通すと、本当にぴったりだった。
「左手の薬指は心臓に一番近い指だから、きっと守ってくれる」
「そうか。ありがとう。大事にするよ」
体温が移った指輪はまだ少し暖かい。
それだけじゃない。子供たちから貰った腕輪も、大人から貰ったお金も、母から貰ったネックレスも、全てが暖かい。これなら、寒い夜でも凍えることはない。
「行ってきます」
今日の夜は月もなく、闇は深い。でも、降り注ぐような星空が道を作っているから、道に迷うことはない。
数人の子供たちが集まって泣いているのを見つけた。
「どうしたんだ? お前たち」
「あ、アルにぃ。作ってたブレスレットが欠けちゃって……今日、アルにぃに」
「ちょ、ちょっと、言っちゃだめでしょ!」
「ご、ごめん。アルにぃ。自分たちでどうにかするから」
そそくさと離れて行ってしまった。
「そうか……」
僕はそこまで鈍感ではない。
あれは、僕のために作ってくれている物なんだろう。だって、今日は僕の16歳の誕生日だから。
家に帰るが、母親はいない。今日は特別な日だから、夕飯は家ではなく村の小さな教会に準備してある。
今日はお祝いだ。
教会の扉を開けると、騒がしい声が広がってくる。
口々におめでとうという言葉を聞かされ、僕は幸せな気持ちになる。
小さな村を上げて、盛大に祝ってくれた。僕は幸せ者だ。
豪華な夕食を終えると、誕生日の贈り物を受け取った。村の子供たちからは少し不格好な腕輪を。村の大人たちからは少しばかりのお金を。母からは星がぶら下がったネックレスを。
みんな、涙を浮かべながら渡してくれた。まるで、明日、僕が死ぬかのように。もちろん、明日、僕が死ぬ訳ではない。ただ、この村から居なくなることは事実だ。
夕食会も終わり、家に帰った僕は、ゆっくり、確かめながら準備をした。
「アルスター。こんな夜中に出発しなくても……。日が昇ってからでも遅くはないわ」
母親が心配そうに言ってきたが、これはずっと前から決めていたことだ。
「夜中に出発したら、朝には王都に着くからね。そっちの方が、職探しも宿探しも楽だろうし、それに……」
「ベスターのことは心配しなくてもいいのよ?」
「いいや。ベスにぃは必ず見つけだすよ」
僕には兄がいる。今の僕と同じように3年前に村を出て行った。でも、それ以降、帰ってきてはいない。そんな兄を探すためにも、少しでも早く王都へ行きたいのだ。
「アルスター。自分の身のことを一番に考えて。必ず、戻ってきて」
「分かっているよ。1年後、僕の誕生日に稼いだお金を持って来るから」
僕は王都へ遊びに行くのではない。16歳という大人になった僕は王都へ出稼ぎに行くのだ。頭はそれほど良くないから、傭兵としての仕事を探そうと思っている。危険は伴うが、日々、畑を耕して体力は付いているし、暇な時間は剣の練習もした。
「それじゃあ、行ってくるよ。母さんも僕が帰ってくるまで元気にしていてよ」
家の扉を開け、出発、と思ったが、開けた扉の向こうに少女が立っていた。
「モーガン。見送りに来てくれたの?」
小さい頃から毎日のように会っていた幼なじみの少女。でも、これからは年に1度、僕の誕生日にしか会えなくなる。
「アルスター。これ……」
大事そうに握っていた拳を開くと、そこには一つの指輪があった。
「僕に?」
「うん。大事にして。きっとあなたを守ってくれるから」
「ありがとう」
てっきりくれると思って手を差し出したが、渡してくれる様子がない。
「右手じゃなくて……」
「右手じゃなくて?」
「右手じゃなくて、左手を出して」
貰う手が何か重要なのかと疑問に思ったが、言われたとおり、利き手の右手を引き、左手を差し出した。
「付けてあげる。たぶん、サイズはぴったりだから……」
僕の左手を握り、薬指に指輪を通すと、本当にぴったりだった。
「左手の薬指は心臓に一番近い指だから、きっと守ってくれる」
「そうか。ありがとう。大事にするよ」
体温が移った指輪はまだ少し暖かい。
それだけじゃない。子供たちから貰った腕輪も、大人から貰ったお金も、母から貰ったネックレスも、全てが暖かい。これなら、寒い夜でも凍えることはない。
「行ってきます」
今日の夜は月もなく、闇は深い。でも、降り注ぐような星空が道を作っているから、道に迷うことはない。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる