アルスター ~星降る夜の冒険譚~

小森 輝

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1 冒険の幕開けは突然で

アルスター 3

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「それで、アルスターはこんな夜中にこんな場所で何をしていたの?」
「王都の近くの町に向かっていたんだ」
「王都に向かっているの? なによ、それを早く言いなさいよ。目的地も一緒じゃない」
「いや、近くの町で……」
「細かいことは気にしないの」
 王都の外れにある町から王都の中心都市までは結構離れている。全く細かいことではない。
 だが、今はその話はしないでおこう。
「僕は答えた。次は君が答える番だ」
 石が喋るのもおかしいが、石がどうやって王都に向かおうとしていたのかも気になる。
「私はマーリンと名乗る男の魔術師に石にされたの。これは必要なことだとかいって……ハメられたわ。それで、侍女の助けを借りて王都に向かっていたんだけど、途中で賊に襲われてね。侍女は私をここに投げ捨てたってわけ」
「そんな事情が……」
 信じられないが、石が喋るよりは信じられる話だ。それに、彼女には家名がある。おそらく、どこかの貴族なのだろう。それで恨みを買ったそのマーリンという者に石にされたのだろう。
「でも、なんで王都に向かっているんだ?」
「王都に行けば、何か元に戻れる情報が手にはいるかも知れないし、人類王なら手を貸してくれると思って」
「じ、人類王って……」
 そんな人物に越権しようとしていたなんて驚きだ。
 家名があることといい、彼女はいいところのお嬢様なのだろう。まるで、僕が王子で悪い魔法使いから石に彼女を救うおとぎ話みたいだ。
 ただ、彼女は守られるような弱い存在ではなさそうだ。
「しっ! お話はここまで。何かくる」
「な、何かって?」
「分からない。けど、なにか」
 いち早く、彼女が何かに気づいた。だが、僕には何も分からない。分からないまま、腰の剣に手をかけた。
 一時すると、音が聞こえてきた。人間の物ではないリズミカルな足音。その音には聞き覚えがある。
「馬? ということは、誰かが馬で荷車を引いているのか」
「そうみたいね」
 僕の予想は当たり、現れたのは荷馬車だ。しかも、僕に気づいて止まってくれた。
「坊主、こんなところで何してんだ?」
「王都に向かう途中で……」
「王都にか……じゃあ、出稼ぎか。親孝行な坊主だな。よし、近くまで乗せていってやるよ」
「いいんですか?」
「あぁ。荷物を運ぶついでだ。ほら、荷台に乗れ」
「あ、ありがとうございます」
 幸運とはまさにこのこと。僕は王都方面に向かう荷馬車に乗せてもらった。これなら夜が明けるうちに近くの町に着きそうだ。
「アルスター。気をつけなさい」
「どうしたんだよ、その、トリアーナさん」
「メリルでいいわ」
「あ、うん。メリル。それより、何を気をつけろってなんのことだよ」
「この荷馬車、荷物が乗っていない」
「確かに……」
 荷馬車なのに、荷物が一切乗っていない。でも、降ろしたばかりという可能性もある。
「もしかしたら、これは……」
 その先の言葉を聞く前に、荷馬車が急停止した。
「な、なんだ?」
 慌てて外を見ると、そこに僕を乗せてくれた荷馬車の運転手がいない。それに、外にはさっきまでなかった霧が立ちこめている。
「これは……」
「吸ってはいけない!」
 何だろうと臭いを嗅ごうとしたが、メリルが何かに気づいて慌てて止めた。
「これはおそらく催眠ガス。やっぱり、これはただの荷馬車じゃなかった」
 ガスと聞き、急いで口に手を当てた。だが、もう吸い込んでしまった。
「たぶん、あれは奴隷商人だったんでしょう。ガスで眠らせ、鎖に繋いでから奴隷市に出す」
 いい人だと思って心を許してしまった。メリルが最初に話しかけてきたときは警戒していたのに。
 でも、後悔もこれ以上できそうにない。視界がだんだんと霞んでいく。
「でも、大丈夫。あなたは幸運よ。私がいるから。こんなガス、吹き飛ばしてあげる」
 そうだ。メリルを隠さなければ。服の中……に隠してもどうせ見つかる。なら、隠す場所は口の中しかない。
 手のひらサイズの宝石、メリルを口の中に放り込んだ。
「ちょ、ちょっと何してるのよ!」
 メリルが怒っているけれど、それを宥める余力もない。
 そこから僕の記憶は途絶えてしまった。
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