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3 妖精の賢者

アルスター 14

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「さて、まず向かう先じゃが……確かエルフの国じゃったな」
「そうね。ここは人間の領土の東の端だから、ここからさらに東へ行って人間の領土を出ればエルフの国に入るわ」
 村を出て王都へと向かっていたが、まさか村よりも東へと向かってエルフの国を目指すとは思わなかった。
「歩いて向かうには遠いのう……。どこかで行商人でも捕まえて荷馬車に乗せてもらうしか……」
「いや、それはやめた方が……」
「しかし、それが一番いい方法だと思うんじゃがな……」
「その……僕が捕まったのが行商人になりすました盗賊でして……」
「そうじゃったか……。すまんの」
 行商人トラップは僕がすでに経験済みだ。流石に2度も同じ過ちはしたくない。
「別にいいじゃない。行商人が盗賊と繋がっているかなんて関係なく奪ってしまえばいいんだから」
「いやいや、妖精女王。いくらここが自分の国ではないといっても、それはやりすぎじゃよ。一応、ここに元人類王がいるんじゃからな? 我が国の民を傷つけることは許せんぞ」
「どうせエルフの国に行く行商人なんていないんだから、最終的には奪うだけよ」
「いや……じゃからといっても……」
 僕もメリルの意見には賛成できない。いくら世界のためだからと言ってもやっていいことの限度というものがある。
「ダメだ……。荷馬車はあったんだが、馬がいなくてな……。慌てて逃げたのか、馬小屋が開いていて馬が全部逃げてしまっている」
「そうじゃったか……」
 ドワーフ王は見るからに運動は苦手そうだし、真っ先に馬車があるかどうか調べたのだろう。でも、荷馬車があっても肝心の馬がいなければ動いてくれない。こんな時、魔法が使えれば荷馬車を馬なしで動かせたのだろうか。
「あら、荷馬車があるなんて幸運ね。これで移動には困らないわね」
「聞いておらんかったのか。馬は逃げ……」
 魔法が使えれば……。そして、今ここにはメリルが、魔法を使えるエルフが、そしてその頂点の妖精女王がいるのだ。その女王が移動には困らないと言うのだ。それは、つまり……。
「荷馬車を動かすぐらい造作もないことよ。逆に、こんなこともできないなんて、人間もドワーフも低脳ね」
 メリルにバカにされるが、今回はそれを甘んじて受け入れよう。
「低脳だろうとバカにされても構わん。長距離を歩かなくていいなら、俺は馬にでも鹿にでもなろう」
 ドワーフ王にいたっては神を崇めるように僕の首に下がっているメリルを見ている。正直気持ち悪い。
「足も確保したことだし、いざ、出発よ! 全員、荷馬車に乗りなさい!」
 3人とも荷馬車に乗ると、本当に動き出した。しかも、メリルに辛そうな様子は一切ない。僕もできることなら魔法を使えるようになってっみたい。
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