スラッガー

小森 輝

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スラッガー 27

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 オカのノートを見ながら、そんなことを思い出していた。
 俺から誘っておいて、俺が勝手に野球をやめてしまったのだ。
「…………誘っておいて、悪いな」
「急にどうしたんだよ」
 思わず申し訳なさが口にでてしまったが、脈絡もなかったので意図は伝わらなかったようだ。
「いいや、何でもない」
「なんだよ。あぁ……シゲちゃん、まさか……」
 気づかれないと思っていたが、親の次に付き合いが長い親友というだけあって、俺の考えを理解できたのかもしれない。ただの呟きの理由を知られるというのは、案外、恥ずかしいものだ。
 しかし、それは買い被りすぎというものだったらしい。
「この勉強会をやめようだなんて言い出すんじゃないだろうな? 確かに、誘ったのはシゲちゃんのほうだけど、これはシゲちゃんのためにやっているんだからな? 面倒だからやめるとか、そんなのはダメだからな?」
「勉強会をやめたりしないよ。そんなことしたら、俺の成績が真っ赤になる」
 俺に損しかないような勘違いはやめてほしい。
「それならいいんだけど。それで、何だったの?」
「別に、何もないよ」
「なら、いいんだけど……。もしかして、あの野球部の先輩たちと関係があるの?」
 俺が中学の時に怪我をした理由をオカは察している。オカは俺に、野球部の先輩には会ってほしくないのだろう。次は怪我では済まないかもしれないとまで考えているのかもしれない。
 でも、オカの考えは的外れだ。
「いいや。全く」
  全く関係ないから心配するなと言いたかったのだが、なぜかオカは落ち込んだ。
「全く、か……。シゲちゃんにとって、野球はもう生活の一部じゃないんだな……」
「中学でやめたからな。高校で始める気にもならないさ。それなのに、何度も勧誘に来て、正直、うんざりだよ。ていうか、野球部もバカだよな。俺なんかより、オカを勧誘したらいいのに。俺よりも戦力としては見込みがあるのにな」
「俺が日本一のスラッガーよりも戦力になるわけないだろ」
「そんなことはないさ。すごいバッターよりも、うまいピッチャーの方が希少価値は高い。まあ、俺が負けたことは、まだないけど」
「そうだな……。俺はまだ勝ててない」
 オカは悔しそうに歯を食いしばっている。
 俺が負けたことがないのは事実だが、それで優位に立とうとして言ったわけではない。
「そんなに気にするなよ。昔のことだし、今は野球をやっていないんだから」
「そう……だよな」
 オカの怒りはなくなったが、少し寂しそうだった。俺のせいで、そんな思いをするのなら、それはやめてほしい。
「オカは、俺から見てもいいピッチャーだよ。だから、俺がやらないからってやめてしまわなくてもいいんじゃないか? 俺はもう戻れないけど、オカは野球を」
「俺はシゲちゃんと一緒が楽しいの。前にも言っただろ?」
「そうだけど……」
「それに、野球では負けっぱなしだったけど、勉強では全ての教科で俺が勝っているからな。過去の戦績を持ち出して、みっともないぞ」
「別にそう言うわけじゃ……」
「ほら、もっと勉強しないと、俺には追いつかないぞ」
「そこまで優秀な成績は望んでないよ……」
 俺の無駄な言葉で、オカの目に火を付けてしまった。
 今日の勉強会は、休憩なしのハードな指導の元、終わった。少なくとも、このテスト期間はこのままだろう。そう思うと、憂鬱だ。
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