ゲームのキャラに恋するのは規約違反ですか?

小森 輝

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重なり合う運命

ゲームのキャラに恋するのは規約違反ですか? 23

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「どうしたんだ? もしかして、立てないような怪我でもしたのか?」
「い、いや、別に……」
「そうか。それはよかった。じゃあ、立てるね?」
「あ、う、うん」
 訳が分からないまま、私はコルテと名乗る男が差し伸べてきた手を取とった。
 私の手を包み込むような大きな手。
 よく考えると、私は初めて男性の手を握ったのかもしれない。
 初めての感触に、心臓が止まりそうになるが、そんなのお構いなしに捕まれた手を引っ張られ、そして、その勢いのまま、コルテと名乗る男の胸に飛び込んでしまった。
「ち、違うの! こ、これは、その」
 思わず飛び退いた。
 それなのに、頭に当たる鎖骨、顔を埋めた胸板、手で押せない腹筋、もう触れていないのに、体の至る所に感触が残っていた。
「力を入れすぎたみたいだ。こんなに軽いとは思わなくてさ」
「か、軽い……」
 私の心臓は、長距離走を完走した時以上の速さで鼓動していた。
 体も熱いし、汗ばんでもいる。たぶん、顔も赤い。
 電気が消えていてよかった。これなら、顔を見られずに済む。今のうちに心を落ち着けよう。
 だが、そんな暇をくれることなく、電気がついてしまった。
「ここは……」
 反射的に私は背を向けた。
 今、この状態で彼を直視することはできないと、一瞬で判断したのだ。
「どうしたんだ? 急に背を向けて」
 不思議がっているが、今は気持ちを落ち着かせるのが先だ。
 私は男性経験がないから、今、こんな気持ちになっているだけなんだ。それに、彼はいったい誰なんだ。コルテと名乗ったが、そんなわけはない。コルテを知っている人の仕業? でも、コルテの中身が女だと知っている人はいない。その逆に私をコルテだと知っている身内や友達もいない。いや、そもそも誰かなんて問題ではない。ここは私の部屋で、彼は勝手に私の部屋に入ってきたのだ。これは歴とした不法侵入。そう、彼は犯罪者。
 観客をカボチャ頭に置き換える要領で自分に言い聞かせると、どうにか、心臓の高鳴りも収まって、体の熱も引いてきた。たぶん、顔もいつも通りだ。
 それでも不安なので、一度、深呼吸して、それから犯罪者を糾弾しようとした。
「誰だか知りませんが、警察に通報……」
 そこで、話すのをやめてしまった。
 目の前にいる彼の顔は、私がゲームで使っているコルテの顔と同じだった。
 ゲーム内で作ったキャラクターというだけあって、顔立ちは整っていて、控えめにいってもイケメンだ。それも、私好みの。私が理想の男性を作ったのだから、当たり前の話ではあるのだが。
 ただ、それでも、目の前にコルテがいるなんて、信じれるはずがない。
「ん? どうしたんだ? 話の途中で固まって。もしかして、フリーズしちゃったか?」
 私の目の前で手を振って反応を確かめているが、当然、私の脳内はパニックを起こしていた。
「色々、聞きたかったんだけどな……。システム表示が全くないし、ステータス表示もない。チャット欄も出せないし、アイテム欄を出すこともできない。どうなっているんだ? バグか?」
 独り言を呟きながら首を傾げている。
 だが、私の方が首を傾げたい。
 彼の呟きは、全てゲーム内でなら出来ることだ。
 見た目といい、登場の仕方といい、ゲームの中からコルテが飛び出してきたとしか思えない。でも、そんなことはあり得ない。だから、考えられることは一つだ。
「疲れてるのかな……」
 強く目を閉じて、目蓋の上から眼球を優しくマッサージしてみた。
 そして、目を開けると、コルテはまだ目の前にいた。幻覚ではないようだ。
「夢?」
 とりあえず、効果があるか分からないが、頬を抓ってみるが、痛みはちゃんと存在する。
「あ、よかった。戻って来れたんだね」
 私が動いていることに気づかれてしまった。
「とりあえず、教えてほしいんだけど、君は……その……NPCじゃないよね?」
 ノンプレイヤーキャラクター。その通称が、NPC。町の防具屋やクエストを出してくれる村人などの人間が操作していないキャラクターのことを示す。
 ゲーム内であれば、私はNPCではない。
「違う、けど」
「そうか。よかった。じゃあ、次は名前を教えてくれるかい? バグっちゃったみたいでさ、キャラクター情報が見れないんだよ」
 ばつが悪そうな笑顔を向けてくるので、自然と私の口は動いた。
「……桐江玲」
「よろしく、桐江玲」
 爽やかな笑顔と共に手を差し伸べてきたので、起きあがらせてくれたときと同じように手を握った。
 やっぱり、この手は、大きくて優しい。
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