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万年の嵐

ゲームのキャラに恋するのは規約違反ですか? 64

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 部屋の中からでも、嵐の激しさは分かっていたが、玄関のドアを開けて、突風を全身で受けてみると、考えの甘さを痛感した。
 そんな嵐の中でも、車というのは便利なもので、濡れることもなく、目的地まで安全に移動することができた。もちろん、恐怖がなかったわけではない。豪雨で前は見にくいし、突風でハンドルは取られるし、最悪なドライブだった。
 劣悪な環境ではあったが、目的地までは送り届けることができた。
 嵐の中心。それは、不思議なことに、昨日行ったばかりのあの公園だった。
「また、ここか……」
 この公園には、ゲームの世界にいるモンスターのシザーマンティスが迷い込んでいた。
 そんな場所に、再びモンスターが出現している可能性があるというのだ。これは、もう、この公園になにかしらの原因があるとしか思えない。
 仮に、本当に原因がこの公園にあったとしても、それを探すのは今ではない。
 今、最優先に考えなければいけないことは、モンスターの発見と討伐。もちろん、モンスターなどいなくて、この嵐がただの異常気象だというのが、一番いい結果だ。でも、そんなに都合がいいことはないだろう。こんな偶然が重なることは、まずない。モンスターが出現しているのは、間違いないだろう。
「それじゃあ、行ってくるけど、玲はここで待っているんだよな?」
 自分が帰るときはここに来たらいいのか、という意味なのだろうが、私にとっては別の意味の言葉になる。
 このまま、コルテを一人で行かせていいのか。
 確かに、私は送るだけと言った。けれど、このまま一人で行かせても勝ち目は薄い。もちろん、私がついて行ったところで、何かが変わるとは思えない。そもそも、私はコルテに必要とされていない。
「どうした?」
 私が待たずに帰るといっても、コルテは行くのだろう。もちろん、自分が楽しむためと言うのもあるだろう。けれど、一番の目的は守ること。このマップを討滅選ではなく防衛戦と表現したのも、そう言った守る意識が根底にあるから。
 コルテは、会ったこともない誰かを守ろうとしているのに、私はそれ以前のことで悩んでいる。私はコルテを作り、コルテを操作していたのに。こんな人間に憧れていたのに。
「ここは危ないかもしれないから、玲は無理して待っていなくてもいいよ。帰り道は覚えているから」
 私が悩んでいる間に、コルテは車のドアを閉めてしまった。
 車内には、私一人だけ。
 私一人だけ、逃げたくはない。ずっとコルテと一緒に成長して、苦楽を共にしてきたのに、こんなとこで別の道を歩みたくはない。
 車のドアを開け、私も嵐の中心に向かうことを決意した。
「……私も行く」
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