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誰よりもVIVIDに 5
急いで支度を終え、後を追ったのだが、先に行った一色君に追いつくことはないまま美術室まで着てしまった。
仕方なく、一人で美術室へ入ると、すでに数人の生徒が自分の絵へと向かっていた。
「おっ! 藤井ちゃん。こんにちは」
「あっ……こんにちは。青木部長」
美術室に入ってすぐの席で、彼女はキャンパスに筆を走らせていた。
「藤井ちゃんは、今日、なにするの?」
「私は絵の下書きを描こうと思ってます」
「下書きか……。描く前に構想を考えるのも大事だけど、考えすぎず自分の感覚でやるのも大事だからね」
「は、はい!」
「うん。それじゃあ、部活がんばってね」
「はい! 失礼します」
青木部長はいい部長だ。
毎日、美術部に来たときにアドバイスをくれる。
しかも、美術部の入り口近くの席で作業してくれる。人がよく通る場所では集中できないので、だいたい一年生の場所になるけれど、それを率先してやってくれているのだ。
部員のことを考えてくれる偉大な先輩だ。
そして、尊敬できる先輩でもある。
青木部長はおしゃべりしていても絵が描ける。むしろ、おしゃべりしていた方が調子がいいと聞く。実際、私と話しているときも筆はずっと動いていた。
青木部長はある意味、普通の人とは違うのだろう。
そんな青木部長とは対極にいる普通ではない人がいる。
美術部の奥。教室の角に彼はいた。
絵に向ける真剣な眼差しを黒いサングラスで隠した青年。
私と同じ学年で、同じクラスで、隣の席に座っている一色君。
クラスでもそうだったが、この美術部でも、浮いた存在だった。彼は私と同じ美術部に入っている。
美少年でサングラスというだけでも近寄りづらいのに、黙々と自分の絵と向き合う寡黙さは、周囲に縄張りを張り巡らせているようだった。
彼の姿を見て、さっきの言葉を思い出す。
放課後に見に来てもいい。放課後というのは、部活の時間で、つまり今なのだが……。
この雰囲気で話しかけられるほど肝は据わってない。
間違いなく、この学校では私が一番近い存在なのに情けない。
「どったの? 藤井ちゃん。そんな所で立ち止まって。下書きするんじゃなかったの?」
「そう、なんですけど……」
下書きをする予定は嘘ではないのだが、他にもやりたいことはある。あるのだが、私はあのテリトリーに入れそうもない。おとなしく、下書きを進めた方が良さそうだ。でも、出来ることなら、もう一度あの絵を見たかった。心を揺さぶられるようなあの絵を。
だから、遠くから今描いている絵を盗み見ようとした。けれど、よくは見えない。落書きと言った授業中のあの絵みたいに白と黒で描かれたことぐらいしか。
もう少し、よく見えないだろうか。
そんな試行錯誤をしていると、一色君が私の奇行に気づいてしまった。サングラスで目は見えないが、ばっちり視線が交差した気がする。
変な人だと思われてしまっただろう。口元が笑っている。
これでバラ色だった高校生活も終わってしまう。
そう思い落ち込んでいたときだった。
一色君が手招きをしている。
その意味が分からない私ではない。
こっちへ来いと、自分の元に来てもいいという意思表示。
私のバラ色はまだ色あせていなかった。
仕方なく、一人で美術室へ入ると、すでに数人の生徒が自分の絵へと向かっていた。
「おっ! 藤井ちゃん。こんにちは」
「あっ……こんにちは。青木部長」
美術室に入ってすぐの席で、彼女はキャンパスに筆を走らせていた。
「藤井ちゃんは、今日、なにするの?」
「私は絵の下書きを描こうと思ってます」
「下書きか……。描く前に構想を考えるのも大事だけど、考えすぎず自分の感覚でやるのも大事だからね」
「は、はい!」
「うん。それじゃあ、部活がんばってね」
「はい! 失礼します」
青木部長はいい部長だ。
毎日、美術部に来たときにアドバイスをくれる。
しかも、美術部の入り口近くの席で作業してくれる。人がよく通る場所では集中できないので、だいたい一年生の場所になるけれど、それを率先してやってくれているのだ。
部員のことを考えてくれる偉大な先輩だ。
そして、尊敬できる先輩でもある。
青木部長はおしゃべりしていても絵が描ける。むしろ、おしゃべりしていた方が調子がいいと聞く。実際、私と話しているときも筆はずっと動いていた。
青木部長はある意味、普通の人とは違うのだろう。
そんな青木部長とは対極にいる普通ではない人がいる。
美術部の奥。教室の角に彼はいた。
絵に向ける真剣な眼差しを黒いサングラスで隠した青年。
私と同じ学年で、同じクラスで、隣の席に座っている一色君。
クラスでもそうだったが、この美術部でも、浮いた存在だった。彼は私と同じ美術部に入っている。
美少年でサングラスというだけでも近寄りづらいのに、黙々と自分の絵と向き合う寡黙さは、周囲に縄張りを張り巡らせているようだった。
彼の姿を見て、さっきの言葉を思い出す。
放課後に見に来てもいい。放課後というのは、部活の時間で、つまり今なのだが……。
この雰囲気で話しかけられるほど肝は据わってない。
間違いなく、この学校では私が一番近い存在なのに情けない。
「どったの? 藤井ちゃん。そんな所で立ち止まって。下書きするんじゃなかったの?」
「そう、なんですけど……」
下書きをする予定は嘘ではないのだが、他にもやりたいことはある。あるのだが、私はあのテリトリーに入れそうもない。おとなしく、下書きを進めた方が良さそうだ。でも、出来ることなら、もう一度あの絵を見たかった。心を揺さぶられるようなあの絵を。
だから、遠くから今描いている絵を盗み見ようとした。けれど、よくは見えない。落書きと言った授業中のあの絵みたいに白と黒で描かれたことぐらいしか。
もう少し、よく見えないだろうか。
そんな試行錯誤をしていると、一色君が私の奇行に気づいてしまった。サングラスで目は見えないが、ばっちり視線が交差した気がする。
変な人だと思われてしまっただろう。口元が笑っている。
これでバラ色だった高校生活も終わってしまう。
そう思い落ち込んでいたときだった。
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こっちへ来いと、自分の元に来てもいいという意思表示。
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