誰よりもVIVIDに

小森 輝

文字の大きさ
5 / 7

誰よりもVIVIDに 5

しおりを挟む
 急いで支度を終え、後を追ったのだが、先に行った一色君に追いつくことはないまま美術室まで着てしまった。
 仕方なく、一人で美術室へ入ると、すでに数人の生徒が自分の絵へと向かっていた。
「おっ! 藤井ちゃん。こんにちは」
「あっ……こんにちは。青木部長」
 美術室に入ってすぐの席で、彼女はキャンパスに筆を走らせていた。
「藤井ちゃんは、今日、なにするの?」
「私は絵の下書きを描こうと思ってます」
「下書きか……。描く前に構想を考えるのも大事だけど、考えすぎず自分の感覚でやるのも大事だからね」
「は、はい!」
「うん。それじゃあ、部活がんばってね」
「はい! 失礼します」
 青木部長はいい部長だ。
 毎日、美術部に来たときにアドバイスをくれる。
 しかも、美術部の入り口近くの席で作業してくれる。人がよく通る場所では集中できないので、だいたい一年生の場所になるけれど、それを率先してやってくれているのだ。
 部員のことを考えてくれる偉大な先輩だ。
 そして、尊敬できる先輩でもある。
 青木部長はおしゃべりしていても絵が描ける。むしろ、おしゃべりしていた方が調子がいいと聞く。実際、私と話しているときも筆はずっと動いていた。
 青木部長はある意味、普通の人とは違うのだろう。
 そんな青木部長とは対極にいる普通ではない人がいる。
 美術部の奥。教室の角に彼はいた。
 絵に向ける真剣な眼差しを黒いサングラスで隠した青年。
 私と同じ学年で、同じクラスで、隣の席に座っている一色君。
 クラスでもそうだったが、この美術部でも、浮いた存在だった。彼は私と同じ美術部に入っている。
 美少年でサングラスというだけでも近寄りづらいのに、黙々と自分の絵と向き合う寡黙さは、周囲に縄張りを張り巡らせているようだった。
 彼の姿を見て、さっきの言葉を思い出す。
 放課後に見に来てもいい。放課後というのは、部活の時間で、つまり今なのだが……。
 この雰囲気で話しかけられるほど肝は据わってない。
 間違いなく、この学校では私が一番近い存在なのに情けない。
「どったの? 藤井ちゃん。そんな所で立ち止まって。下書きするんじゃなかったの?」
「そう、なんですけど……」
 下書きをする予定は嘘ではないのだが、他にもやりたいことはある。あるのだが、私はあのテリトリーに入れそうもない。おとなしく、下書きを進めた方が良さそうだ。でも、出来ることなら、もう一度あの絵を見たかった。心を揺さぶられるようなあの絵を。
 だから、遠くから今描いている絵を盗み見ようとした。けれど、よくは見えない。落書きと言った授業中のあの絵みたいに白と黒で描かれたことぐらいしか。
 もう少し、よく見えないだろうか。
 そんな試行錯誤をしていると、一色君が私の奇行に気づいてしまった。サングラスで目は見えないが、ばっちり視線が交差した気がする。
 変な人だと思われてしまっただろう。口元が笑っている。
 これでバラ色だった高校生活も終わってしまう。
 そう思い落ち込んでいたときだった。
 一色君が手招きをしている。
 その意味が分からない私ではない。
 こっちへ来いと、自分の元に来てもいいという意思表示。
 私のバラ色はまだ色あせていなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

処理中です...