アイリス未来探偵事務所

小森 輝

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 みんながそれぞれの作業に戻っていく中、私はどうしていいのか分からずオロオロしていた。
「あぁ、まだ机を決めてなかったわね。ごめんなさいね」
 そんな私を見かねて社長が声をかけてくれた。
「山本さんの机は……そうだ。鐘くんの隣にしましょうか」
「分かりまし……」
 その場所を見るとすぐに疑問が生まれた。
「あの……隣って、あそこ、誰かの机じゃないんですか?」
 鐘ヶ江先輩の隣は誰もいないのだが、書類やファイルなど色々な物が積み重ねられている。
「あれは鐘くんの奴だから。整頓出来ずに雪崩てそのままにされてるの。だから押し返して雪崩てこないように壁を作っていいから」
「……分かりました」
 私の初仕事は机を綺麗にすることで決まりのようだ。
 そうと決まれば、早いに越したことはない。すぐに片づけて仕事内容について色々聞いておこう。
「あっ! ちょっと待って」
 意気込みは十分というところだったが、そこを社長に呼び止められてしまった。
「何ですか?」
「これ、渡すの忘れるところだった。これから必要にってくると思うから作っておいたの」
「ありがとうございます」
 社長からもらったのは、アルミでできた何かのケース。何だろうと思って蓋を開けてみると、そこには私の名前が書いてあるカードが入っていた。
「おぉ……私の名刺だ……」
 学生時代の時は、もちろんこんなものは持っていなかったので、なんだか社会人になったんだという実感が沸いてくる。もちろん、まだ見習いなので正確には社会人ではないのだが。それでも、嬉しいことに代わりはない。
「ちゃんとここにうちの事務所の名前も入っているから。名前に恥じない働きをしてくださいね」
「は、はい! もちろんです!」
 事務所の看板に泥を塗ってしまうと大変だという不安もあるのだが、それ以上に私のような新米に事務所の看板を背負わせてくれていることに、俄然、やる気が漲ってくる。
「それじゃあ、分からないことがあれば鐘くんに聞けば大体のことは分かるから。もし聞きづらいことがあれば、私のところに来てもいいからね。仕事に関係ない恋愛相談なんがでも相談に乗るから」
「ありがとうございます!」
 そんな冗談なのか本気なのかも分からないことを言って、社長は去っていった。
 正直、あの虹釜綾芽社長がどんな風に相談に乗ってくれるのかは気になる。相手から話を引き出すという技術は探偵にとって大事なスキル。それを学べるのは貴重な経験だ。しかし、社長の手を煩わせわけには行かない。
 とりあえず、まずは鐘ヶ江先輩から学べることは全て吸収するつもりで頑張ろう。
 そのためにも、まずは机の片づけだ。
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